令和4年予備試験再現答案 民法

第一 設問1
 1 小問1
  (1) BのAに対する請求は、本件請負契約(632条)においてBが塗料αを使用せず建物を完成させたことが、品質に関して契約内容に適合しないものであるとして(562条1項本文、559条)代金減額請求を求めるものである(563条1項)。
 代金減額請求が認められるためには、562条本文の要件を満たす必要がある。本件請負契約においてAが完成させた甲建物は、塗料αを使用した場合より客観的価値の高いものであるが、品質が「契約の内容に適合しない」ものといえるか。契約内容の適合性の意味が明らかでなく問題となる。
 (2) 些細な内容不適合全てに追完請求を認めるのは、悪質なクレームにより債務者にとって酷となる場合がある。
 そこで契約内容に適合しているか否かは、契約内容と実際に履行された内容が異なり、それにより経済的損失を被っている場合に不適合となる。
 もっとも経済的損失を被っていなかったとしても、当事者が特に重視した内容が履行されず、それが意味のあるものである場合には、当事者意思の観点から不適合があったと判断する。
 (3) 本件では、Aが完成させた甲建物は、塗料βを使用しているが、耐久性が高く防汚防水性に優れているとして、建物に必要な品質を備えている。そして客観的価値も塗料αで行った場合よりも高いものとなっている。そのため経済的損失を被っていないと考えることができる。
 しかし、本件請負契約において契約締結に当たってBはAに対して「外壁の塗装には塗料αを使用してほしい」と申し入れており、Aはこれを了承している。塗料αは極めて鮮やかなピンク色と特徴的な色を有しており、Bの運営する他の店舗でも共通して用いられており、Bのコーポレートカラーとして特に採用されたものである。コーポレートカラーは会社の個性を出すものとして、意味のあるものであり、共通して用いられていることから特に重視して履行されたものとして契約が締結されたということができる。
 Bが使用した塗料βは塗料αと異なり、明度の低いものであるため、当事者が特に重視した内容が履行されておらず、Aの意思に反したものといえる。
 したがって、本件塗料αを使用しなかったことは、契約の内容に適合しないものといえる
 (4) よって562条1項の要件を満たす
 (5) Bに対し内容適合の履行の追完を求めたにもかかわらず、拒絶する意思を示しているため563条2項2号の要件を満たす。
 (6) よって報酬の減額を請求するというBの請求は認められる。
2 小問2
 (1) Bの請求は債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)である。
 1で述べた通りAは品質が契約に適合していないという「債務の本旨に従った履行」がされていないが、再塗装の申入れにより履行の追完を行う意思を表示している。
 かかる履行の意思を表示している場合も損害賠償請求が認められるか。
 (2) 債務不履行に基づく損害賠償請求が認められている趣旨は、金銭賠償により債務不履行があったことによる損害を補うことにある。とすると金銭賠償によらなくても他の手段により損害を補えるのであれば、金銭賠償による解決と比較してより適切な手段で解決するべきである。
 (3) 本件では、履行の追完という債務を完成させる意思を表示している。かかる解決手段は仕事の完成を目的とする請負契約において、金銭賠償よりも適切な手段ということができる。
 よって履行追完の意思を表示している本件では、債務不履行による損害賠償請求は認められない。
 (4) よってBの請求は認められない。
第2 設問2
1 Fの請求は乙不動産の長期取得時効(162条1項)の成立である。取得時効が成立するためには、「所有の意思をもって・・占有」が認められなければならないところ、前主であるDは所有の意思をもっていない。
(1) そのため自己独自の占有を主張することが考えられるが、相続により占有を始めたものが「新たな権限」(185条)による所有の意思を持った占有があるといえるか。
(2) 相続は包括承継(896条本文)されるため、占有の性質も承継されるのが原則である。しかし、事実的支配が外形的客観的にみて相続人独自の「所有の意思」に基づくものと解される場合には、「新たな権限」にあたるといえる。
(3) まずFは乙不動産の固定資産税を毎年支払っている。固定資産税を支払うのは通常は所有者であるため、外形的客観的にみて所有の意思があるものと推定できるが、本件では前主であるDも支払っていたため、これだけでは相続人独自の占有とまではいえない。
 もっとも、FはEに対して「登記名義を自分に移したい」と相談し、実際に登記を移している。不動産の登記は、所有権を第三者に対抗することができるものであるため(177条)、登記が有効に行われているとしたら外形的客観的にみて相続人独自の所有の意思が認められ(新たな権限)があると解する。
2 (1) Eはこれに対して登記移転はFが所有者であるとの錯誤(95条1項1号)があったため、取り消しを主張し遡って無効になると主張する(121条本文)。
 (2) EはD・Fが所有者であると誤信しており登記を移転する上で、社会通念に従い重要な事実の錯誤があると言えるため95条1項1号の要件を満たす。
 (3) しかしEは元所有者であるCの権利を単独相続し、固定資産税をDに支払ってもらいたにも関わらず所有者が誰かの調査をしていないため、重大な過失があるといえる(同条3項柱書)。
 もっとも相手方であるFも同一の錯誤に陥っているため、95条2号が適用され、95条3項柱書の例外には該当しないこととなる。
 3 以上の事実を踏まえると、Eは錯誤取り消しの主張をすることができ、Fに新たな権限が認められないことも思える。しかしこのように解すると、所有権があると信じ固定資産税を長年支払っていたFを害し、調査を怠ったEを保護することとなり妥当でない。
 そのためFが錯誤の主張をすることは信義則に反し許されない(1条2項)。
 4 よってFには新たな権限が認められ、自己独自の所有の意思が認められる。
 これにより、20年平穏公然と所有の意思をもって占有したといえるため、長期取得時効の要件を満たす。
 よってFに乙不動産の取得時効は成立する。
                                以上

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