令和3年予備試験再現答案 民法(D)

第一 設問1
 1 本件ワイン売買契約について
 (1) Aは本件ワイン売買契約は履行不能に陥っているため、債務不履行に基づく解除(542条1項1号)を主張する。
 (2) (ア) 債務不履行解除をするためには「債務の全部の履行が不能である」と言える必要があり、全部の履行が不能とは社会通念上当該債務の履行が不能であることをいう。
 (イ)本件債務は冷蔵倉庫甲に保管中の乙農園の生産に係るワイン1万本である。本件ワインと同種同等のワインは他に存在しておらず、飲用を目的としてその種類に着目した契約であるため特定物の引渡し(400条)といえる。
 本件ワインは異常な高温により飲用に適さない程度に劣化してしまったため、契約の目的を達することができず、社会通念上当該債務の履行が不能となっているといえる。
 よって「債務の全部の履行が不能である」といえる。
 (3) これに対しBは本件ワイン売買契約は、本件賃貸借契約が成立した時点で、占有改定(183条)によりAに占有が帰属しているため、Bは代理占有しているにすぎず、善管注意義務を果たしていればAが危険を負担すると反論する。
 (4) まず占有改定が成立するためには、客観的に占有が代理人から本人に移転していると認められる必要がある。
 本件では、AがBに対してBの所有する冷蔵庫を借りたいと伝えて、Bがワイン以外の酒類を全て搬出している。Bは酒類を輸入販売をすることを業務としており、そのような会社が本件ワイン以外の酒類を全て搬出するということは、BがAのために本件ワインを管理しようとしていることが客観的に認められるため、客観的に占有が代理人から本人に移転していると言える。
 したがって占有改定が認められる。
 (5) また、本件ワインが履行不能になった理由は、落雷を原因とする火災が発生したことによる冷蔵庫甲の故障にあり、落雷については善管注意義務をしても防げない不可抗力によるものであるため、善管注意義務違反は認められない。
 したがって、Bの反論は認められる。
 (6) よって本件ワイン売買契約は解除できない。
2 本件賃貸借契約について
 (1) 本件賃貸借契約は令和3年8月27日に賃料20万円として、賃借期間を同年9月1日から1年間とする約定で定めており、この契約は同年9月1日時点においても履行することが可能であるため、解除することはできないとも思える。
 もっとも、本件賃貸借契約は本件ワインの保管のために締結したものであるにもかかわらず、本件ワインは履行不能となっている。
 このような密接な契約の履行が不能となった場合においても、解除することはできないのか。
 (2) 当事者意思の下、密接な契約が履行不能となった際に、当該契約が意味をなさない場合には信義則により解除することが可能であると考える。その際の判断としては、解除の相手方保護のため、契約が密接した関係であることが社会通念上相手方が了知できるといえるか否かにより判断する。
 (3) 本件では、本件ワインの保存のため、AはBに対して適切な規模の冷蔵倉庫が見つかるまでの当面の保管墓所として同人の所有する冷蔵倉庫を借りたいと伝えており、解除の相手方であるBは本件ワインの売り主であることからも、契約が密接した関係であることを了知できているといえる。
 そして、本件賃貸借契約は、本件ワインの保管以外の目的を有していないと考えられるため、本件売買契約が履行不能となった場合には、本件賃貸借契約は意味をなさないものだということができる。
 したがって、本件賃貸借契約は解除することができる。
第2 設問2 小問1
1  (1) 本件譲渡担保契約が有効に成立しているか。本件金銭消費貸借契約に係る貸金債務を担保するために、倉庫内丙にある全ての酒類を目的物とした集合物譲渡担保にあたるが、全体につき一つの譲渡担保権が成立するとした場合一物一権主義に反しないか。
 (2) 一物一権主義の趣旨は、数個の物の上に一個の物権を設定するだけの必要性がないこと、および数個の物に一個の物権を認めてもその公示が困難であることにある。ここで、集合物の譲渡担保化には必要性があるし、集合物全体について占有改定(183条)により公示方法を講じることも可能である。
 もっとも明確化の観点から担保権の範囲を、種類や場所から特定する必要がある。
 (3) 本件では、本件では、倉庫丙内という場所において、全ての酒類を目的物としていて、種類と場所から特定されているといえる。したがって本件譲渡担保契約は有効に成立している。
2 (1) では本件譲渡担保契約を第三者に対して主張することができるか。譲渡担保契約の対抗要件が問題となる。
 (2) 1個1個の物について対抗要件の具備が必要となると当事者意思と乖離することとなるし、煩雑だといえる。
 そのため、占有改定の方法により、集合物について対抗要件が具備され、対抗力は構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が失われない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶと解するのが相当である。
 (3) 本件では、本件譲渡担保契約の③の内容として、「補充された酒類は倉庫丙に搬入された時点で、当然に①の譲渡担保の目的となる。」としているため、占有改定により本件譲渡担保契約成立後に搬入された物についても対抗要件が及んでいるといえる。
 したがって本件譲渡担保契約の有効性を第三者に対して主張することができる。
第2 設問2 小問2
1 (1) DはCに対して本件ウイスキーの所有権を主張することができるか。本件ウイスキーは譲渡担保の範囲内にあるものであるといえるか。AD間の本件ウイスキー売買契約は、Aが代金を支払っていないことから本件譲渡担保契約の効力が及ばないのではないか。
 譲渡担保の効力が及ぶ時期が問題となる。
 (2) この点譲渡担保の所有権の移転的性質に着目し、引渡しを受けた時点で譲渡担保の効力が及ぶと考えることもできる。
 もっともそのように解すると、悪意の設定者の相手方が不当に不利益を及ぶこととなり妥当でない。そのため、契約が有効に成立して有効な引渡しがされたといえる場合に譲渡担保の効力が及ぶとする。このように考えても担保権の前提が設定者の所有権であることを考えれば、譲渡担保権者が不当に不利益を及ぶとはいえないからである。
 もっとも、その際にも既に集合物として一体となっており、当該物の判別がつかない場合には、担保権者保護の観点から効力が及ぶとする。
 (3) 本件では、本件ウイスキーの売買代金を設定者であるAがDに対して支払っていないため、契約が有効に成立しているとはいえない。
 また、本件ウイスキーは倉庫丙内の他の酒類と共に棚に保管されたが、どのウイスキーが本件ウイスキーかは判別できる状態にあったため、判別がつく状態にあったといえる。
 したがって本件ウイスキーは本件譲渡担保契約の効力が及ばないと言える。
 よってDはCに対して本件ウイスキーの所有権を主張することができる。
                               以上

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