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「ドイツの白いアスパラガス」 (鎌倉書房 1988.4 "四季の味")

 去年の二月から八月まで、西ドイツのブレーメンにいた。

 東京の二月は、寒い日はあっても、もう、春がそこまで来ている気配がある。ところが大寒波は去ったとはいえ、ブレーメンの二月は、まだ、冬のまっただなかだった。三月になっても、東京のま冬以上に寒い日が続き、長い冬のトンネルを、いつになったらぬけられるのか、春が待ち遠しくて、たまらなかった。小さなクロッカスの花が咲き始めた四月、ふたたび吹雪になったときは、うらぎられたような気分になった。

 そして五月。春は、いっせいにやってくる。丸ハダカだった木々に葉が繁り、はるかむこうまで見わたせた市民公演は、こんもりした森になる。

 八百屋さんの店先にも、青菜やアスパラガスが並びはじめる。この、ドイツの白いアスパラガス、とってもおいしいんだ。

 アスパラガスをドイツ語で、シュパーゲルというが、わたしは、ついまちがえて、シュピーゲルを食べたいといってします。シュピーゲルは、鏡という意味だから、いわれたドイツ人は、びっくりする。

 さて、その、シュパーゲル、物価が安いドイツでは、けっこうぜいたくな食べもの。四人で、満足するまで食べるには、少なくとも一キロ以上、二千円ぐらいは、買わなくちゃいけない。

 買ってきたシュパーゲルの皮をけずるのが、またたいへん。シャパーゲルの皮は堅くて、グリーンアスパラのように、そのまま、さっとバターで炒めて食べるというわけにはいかない。最初、わたしは、それを知らないで、炒めて食べたが、セロリのスジのようなものが、たくさん口にのこってしまい、こまった。

 小さなナイフで、シュパーゲルの皮をけずる。根元は厚めに、先のほうは、すこしだけ。どこまでが皮で、どこからが身が、まっ白で区別がつきにくい。けずりたりなかったら、スジがのこるり、けずりすぎたら、もったいない。けずった皮は、捨てないでとっておく。

 ドイツにはシュパーゲルをゆでるための、だ円形の、平べったいナベがある。長めのシュパーゲルも、ゆっくり横になれる長さだ。

 沸騰したお湯に、塩とバターをいれ、シュパーゲルを、やわらかくなるまで、二十分ぐらいゆでる。ゆであがったら、アツアツに、とかしバターをかけて食べる。あとは、新じゃがのゆでたのと、塩味がきいたハムがあれば、大満足。

 シュパーゲルをひとくち食べると、口いっぱいに、みずみずしさがひろがる。水っぽくて、はっきりした味もないけど、それが、なんともいえない、おいしさなのだ。

 シュパーゲルは、おなかいっぱい、もうけっこうというほど、食べたい。いくら食べても胃にもたれないし、食べたりないと、心のこりだ。

 シュパーゲルをゆでたお湯はすてずに、とっておいた皮をいれて、十分ほど沸騰させ、こしておく。翌日、玉ネギやキャベツをいれて、野菜スープにするとおいしいし、ホワイトソースをつくって、クリームスープもいい。

 ドイツの食事は、まずいというひとがいる。たしかに、和風、洋風、中華と、種類の多さでは、日本が上。でも、乳製品の豊富さ、肉の安さでは、ドイツが勝つ。そして、春にドイツに行ったら、シュパーゲルが、ぜったいのおすすめ。レストランでも食べられます。シュパーゲルと、じゃがいもとハムの一皿が、千五百円ぐらい。

 わたしの夫はドイツ人。ドイツのブレーメンで働いているので、わたしは、ドイツと日本を行ったり来たりしている。

 シュパーゲルのことを書いているうちに、食べたくなった。シュパーゲルの季節が、もうすぐはじます。そろそろ、ドイツに行こうかしら。


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