オフィスラブ (野生時代 月日不明)

 ノンノンノン

 オフィスラブ ノンノンノン

 これがわたしたちの合言葉でした。

 わたしたちとは、わたしと雪絵ちゃんです。

 わたしは、去年の4月、某百貨店に入社し、やはり新入社員だった雪絵ちゃんと出あいました。彼女は今年の3月に、わたしは5月に辞めてしまったので、1年足らずの短いあいだでしたが、わたしたちふたりは、

 ノンノンノン

 オフィスラブ ノンノンノン

 を合言葉に仕事ひとすじに会社人生を送ったのでした。なぜか? 答えはカンタン、わたしたちにはオフィスラブがなかったから、ひがみ根性でこの言葉をはやらせていたのだ。しかも、わたしたちにはオフィスラブどころか、ラブと名のつくものはなにもなかった。そんな女がふたり集まるとどうなるか? またも答えはカンタン。食い気に走るのよね。

 わたしもけっして小食ではないが、雪絵ちゃんの食べる量はふつうじゃなかった。ある給料日の晩の雪絵ちゃんは、お好み焼き3枚に焼ソバとオムレツを食べたあと、喫茶店でケーキ2コを食べ、さらに焼鳥屋で肉じゃがと焼きおにぎりを頼み、「どんなにお腹がいっぱいでも、ケーキと焼きおにぎりは、はいる場所がちがうの、ウフフ」と、ぶきみな笑いをうかべた。わたしは、上司との不倫の愛に悩むこともなく、雪絵ちゃんとの食べ歩きで、1年間で体重が5キロもふえてしまった。

 わたしがこんなに清いOL生活を送ったというのに、某商社に勤めている友だちは、今どきオフィスラブ ノンノンノンなんて遅れているよ、余裕たっぷりなのだ。彼女は婚約者がいるにもかかわらず、課長にホテルでお食事やお酒をおごってもらっているそうだ。書類といっしょにさりげなくメモを渡してデートの約束をし、

 ルンルンルン

 オフィスラブ ルンルンルン

 と楽しんでいるというではないか。ルンルンルンとは許せない。オフィスラブはノンノンノンだよと、それしかなかったわたしは思う。




(投げ銭、お願いいたします)

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?