別れましょう (とらばーゆ 1986.4)
だいぶ前のことだが、ある男のひとに、女と別れたいがどうしたら別れられるかと、きかれた。
彼は二人の女とつきあっていて、そのうちの一人をだんだん本気で好きになり、もう一方とは別れたくなった。ほかの女ともつきあっていることが本命にバレれば、ふられてしまうことは確実だと、あせっていた。
女と別れるなんてカンタンよ、ようするに、相手のイヤがることをして、嫌われてしまえばいいのよと、わたしはいった。すると、その男は、とんでもない、彼女に嫌われるぐらいならこのままでいたほうがましだと、いった。
どうも、男とは、自分が悪者になって、女と別れるのを、あまり好まないものらしい。女はたとえ嫌われてもいいと、なりふりかまわず白黒をハッキリつけたがる。男は女を追いこみはするが、最後のことばは、なかなか吐かない。女の、「もう、わたしたち、別れるしかないのね」のひとことを、待っている。
それは、いったん肉体関係をむすんだあとで結婚しなければ、男は加害者、女は被害者という意識があるからだろう。加害者の男から、「別れてくれ」とはいいづらいのだろう。
でも、男と女のあいだで、加害者も被害者もないし、別れたいと思っているのにいいだせないで男とつきあうなんて、ぜったいにイヤだと、わたしは思う。別れたいなら、どんどん別れてあげたい。それには、別れたがっている素振りをいちはやくキャッチすることだ・
まず、デートできない理由として、「忙しい」といいだした男には要注意。人間、ヒマだから恋をするわけではなく、忙しいから会えないなんて、理由にならない。一週間に一時間や二時間の時間が、つくれないわけがない。
また、むこうから電話がかかってこなくなったときも、もう、ダメだと思ったほうがいい。
ある女の友だちが、地方に転勤になった彼から、ぜんぜん電話がかかってこなくなったと、心配していた。前は、毎晩のようにかかってきたのに、最近では、けっしてむこうからはかかってこない。彼女から電話すると、それなりに相手をしてくれるが、どうもおかしい。しかし、彼女が、だれかほかに好きなひとができたのときいても、そんなことはないと、こたえるそうだ。
そこで、わたしはいった。彼から電話がかかってこなくても、ガマンしてそのままにしておけばいい。もし、彼女の声がききたければ、かならず、むこうからかかってくるはずだ。かかってこなければ、もう、二人の仲を終わりにしたいという意思表示だと思い、あきらめればいい。
けっきょく、彼女は電話をかけつづけ、自分から、「もうダメね」といってしまった。彼はだまっていたそうだ。彼女の、そのことばを待っていたのだろう。
別に恋はいちどきりのものではない。ダメならダメでスッキリして、ほかのひとをさがしたほうがいい。
でも、気をつけなければいけないのは、ほんとうに忙しくて、電話をかけてこないこともあることだ。電話をかけるぐらいの時間はあっても、けっして彼女のことを忘れたわけではなくても、ほかのことで頭がいっぱいだということもあるだろう。そんなときに、「つめたい」だの、「わたしのことが嫌いになったんでしょう」と責めたてたら、逆効果。
しかし、わたしも、そこのところをうまく見きわめられない。別れたいのにいいだせないままつきあってもらいたくないと思うあまりに、つきあっている男と別れる気もないのに、ついつい、「別れましょう」を連発してしまう。そして、「別れましょう」は、ほんとに別れたいとき、一回だけいってくれと、イヤな顔をされる。うまくいかないものだ。
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