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声劇台本 テディベアのゆうれい

夏休みの思い出を学校で発表する児童が主人公。ほっこり系のお話。
女の子を想定して、書きましたが男の子でもいけると思うので、演じる際の性別は不問です。年齢は8、9歳(小学三年生)。
一人称や語尾など、軽微な変更は可とします。
所要時間は10分程度で、短めです。


利用規約

テディベアのゆうれい

 みなさんは、ゆうれいは怖いって思いますか。じっさいに見たことはありますか、それともありませんか。実は、わたし、たかしろめぐみは夏休みのあいだにゆうれいに会いました。でも、ぜんぜん怖くはありませんでした。それはなぜかというとそのゆうれいはわたしにとって大切なお友だちだったからです。
 わたしには小さいころ、小学生になる前からずっといっしょのテディベアがいました。そのテディベアはとちぎ県のなすという場所に旅行に行ったとき、お父さんにおみやげとして買ってもらったものでした。
 わたしはそのテディベアにハーちゃんと名前をつけてあげました。胸のところにハートのアップリケがしてあったので、ハートのハーの音をとってハーちゃんにしました。わたしはかわいいハーちゃんが大好きで、家ではハーちゃんとおままごとをしていたし、出かけるときもいっしょに外につれていくほどでした。
 わたしが小学生になるすこし前、弟がうまれました。弟ができたことはうれしかったけど、お母さんは赤ちゃんの弟のお世話にたいへんになってしまって、わたしのことはわすれがちになってるみたいでした。さみしいなって思う日が数えきれないくらいありました。ですが、そんなときはハーちゃんをギュッとハグするとさみしい気持ちが減っていきました。
 ハーちゃんはわたしの大切なお友だちです。だけど、今年の夏休みに入ってすぐにハーちゃんはいなくなってしまいました。お父さんとお母さんとわたしと弟で大きな公園に行った日のことです。
 わたしはいつものようにハーちゃんをつれてきていました。お昼ごはんを原っぱで食べたあと、弟がハーちゃんをかしてと言ってきたのですが、わたしは最初、ハーちゃんをかすことをことわりました。
 だけど、お父さんに「めぐみはパパと一緒にバドミントンをしよう、そのあいだハーちゃんを貸してあげてくれないかな」と言われて、わたしはバドミントンもしたかったので、ちょっとのあいだ弟にハーちゃんをかしてあげることにしました。それがよくありませんでした。わたしはハーちゃんといっしょにいるべきでした。
 公園には犬をさんぽさせにきている人がいました。わたしはお父さんとバドミントンをしていたのでハーちゃんにたいへんなことが起こった場面は見ていません。見ていたら、わたしはぜったいにハーちゃんを助けにいきました。
 お母さんの話によると、体の大きな犬が弟の近くを通ったときに、弟はびっくりしてハーちゃんをその大きな犬のほうに投げてしまったそうです。そしたら、その犬はハーちゃんを自分のおもちゃだと思ったようで、するどいきばでハーちゃんにかみつきました。かみつくだけじゃなく、首をぶるんぶるんとふってハーちゃんをふり回したそうです。
 かわいそうにハーちゃんのふわふわした布の体はビリビリにやぶれて、ハーちゃんの中に入っていた綿がそこら中にちらばりました。わたしはバドミントンからもどってきて、変わりはてたハーちゃんの姿を見たとき、悲しくて大泣きをしました。
 ハーちゃんが死んじゃったと思いました。わたしは弟とお母さんにいっぱい怒りました。なんでハーちゃんの近くにいたのに守ってくれなかったの、と。泣いているわたしをなんとかなぐさめようと声をかけてくるお父さんにもムカムカして「お父さんがバドミントンをしようなんて言わなければこんなことにはならなかった」と、どなってしまいました。
 家に帰ってから、お母さんがやぶれてボロボロになったハーちゃんをおさいほうで直そうとしましたが、元通りにはなりません。うでと足の長さがバラバラになって、丸くてかわいかった耳もぺったんこになって、黒いお目々も落としてなくしてしまったのでもうありません。ハートのアップリケだけが変わらずに胸のところにありましたが、やっぱりハーちゃんはいなくなってしまったんだとわたしは思いました。
 それからわたしはいっぱいいっぱい泣きました。かなしくてさみしくてしかたないのにこわれたハーちゃんをギュッとしてみても、もっと辛い気持ちになるだけでした。
 八月後半、夏休みの終わりも見えてきたころ、家ぞく旅行でとちぎ県のなすに行くことになりました。本当はさいしょ、なすではない場所に行く予定でしたがお父さんとお母さんががんばって旅行先をなすに変えてくれたのです。そのりゆうはわたしをハーちゃんが売っていたところにつれていくためでした。そこにはテディベアがたくさんいました。その中にはハーちゃんと同じすがたをしたテディベアもいました。
 お父さんは「この子にする?」と聞いてくれましたが、わたしは「うん」とは言いませんでした。だって、その子はわたしのハーちゃんではなかったからです。けっきょく、わたしは新しいテディベアを買ってもらうことはありませんでした。
 その日の夜はホテルにとまりました。ごうかな夕ごはんをいっぱい食べてから、ふかふかのベッドにねころぶのは幸せな時間でした。だけど、ねるとき電気をけしてまっくらになったへやで今日見てきたテディベアのことを思い出すと自然とハーちゃんのことも考えてしまいます。
 さみしいなと思いながら目をつぶりました。でも、むねがざわざわしてねむれません。目を閉じたり開けたりをくりかえしていると、そのときはとつぜんやってきました。なんと、わたしのねているまくらの横にハーちゃんがちょこんとすわっていたのです。わたしはびっくりして声を出しそうになりましたが、がまんしました。お父さんもお母さんも弟も近くでねていたので起こさないようにです。それに大きい声を出したら、ハーちゃんもびっくりしていなくなってしまう気がしました。
 わたしはゆっくり起きあがって、ハーちゃんをギュッとしました。さっきまでさみしくてねむれなかったけれど、ハーちゃんをハグするととても安心できてあったかい気持ちになりました。
「心ぱいしてきてくれたんだね。ありがとう、ハーちゃん」と、わたしはハーちゃんにお礼を言いました。
 ハーちゃんを抱っこしているとだんだんとねむくなってきてわたしは、ねてしまいました。朝になるとハーちゃんのすがたはどこにもありませんでした。
 あの日の夜、やさしいハーちゃんはゆうれいになってまでわたしのところにきてくれたのだと思います。わたしはそれがうれしかったです。
 ハーちゃんのゆうれいがそばにきてくれたのは、その一度だけです。また、きてくれたらいいなと思います。ゆうれいでも、ハーちゃんならぜんぜん怖くないし、会えたらすごくうれしいからです。
 わたしの大切な友だち、テディベアのハーちゃんのお話でした。これで夏休みの思い出の発表を終わります。三年二組たかしろめぐみ。

おわり

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