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声劇台本「不安多事ヰ」ジャンル:コメディ 2人

※ピカピカにも同じ台本を棚霧書生名義で投稿しています。中の人は同じなので安心してください。
必要人数(男2:女0:不問0) 所要時間 10-20分

春彦ーツッコミのようなボケ
幹也ーボケのようなツッコミ



0:ワンルームの部屋、中央にローテーブルがあり、夕飯の鍋を春彦と幹也がつついている。

幹也:ちょっと今からトラックにひかれてくる

春彦:パァドゥン?

幹也:チョットォ、イマカラァ、トラックヒカレテクルデス

春彦:ワイ、ドゥーユースィンクソウ?

幹也:ワタシ、エイゴワカラナイネ。まあ、流れからしてトラックにひかれにいく理由を聞いてるでオーケー?

春彦:イエスイエース。ついに当たり屋デビューして、無実潔白の運転手から示談金でも、せびろうって腹? アコギだねぇ

幹也:俺はそんな迷惑野郎にはならない!

春彦:幹也がトラックにひかれたら、普通にトラックの運転手は過失傷害罪か、幹也が万が一死んだなら過失致死罪に問われると思うけど、そこは迷惑じゃないの?

幹也:歩行者が急に車の前に飛び出してきたときも運転手って罪に問われるのか?

春彦:まあ基本そうでしょ。車と人間の衝突とか車のほうが責任の比重がデカいよ。幹也は免許持ってないから知らないかもしれないけど

幹也:へいへい、俺は春彦と違って英語はできないし、車の免許だって持ってませんよ。いちいちマウント取るなよな

春彦:取ってるつもりないよ。幹也が勝手に突っかかってるだけ。……で、トラックにはねられたい訳はなんなの?

幹也:よくぞ聞いてくれた! 俺はな、一度死んで、別の世界に転生しようと思う!

春彦:ハハハ、トラックにはねられて事故死した主人公が異世界に転生するウェブ小説でも読んだのかな?

幹也:チョー面白いよな!!

春彦:うわ、マジか。なんのひねりもなく異世界転生ものの話かよ。冗談にしてもつまらなすぎでしょ

幹也:冗談じゃねえって。俺はインターネットの広大な情報の海を泳ぎまくって、世界の真実にたどりついたんだ!

春彦:世界の真実……。今度は陰謀論っぽいこと言い出しちゃったよ。ホントにこの子はもう……頭ごなしに否定するのはよくないから一応、春彦お兄ちゃんにお話してくれるかな?

幹也:キショ。俺と春彦、タメじゃん。なんだよ、お兄ちゃんって、俺のことバカにしてんの?

春彦:30パーセントくらいは

幹也:まあまあ現実味のある数値出すのやめろ? 泣くぞ?

春彦:幹也が泣いたところで僕は何も困らないから

幹也:じゃあ、泣くだけ水分の無駄だわ。やめる

春彦:幹也のわりに賢明な判断だね

幹也:うるっせ! あんま俺のこと煽ってっと春彦には世界の真実、教えてやんねえからな!

春彦:ゴメンね、ミキヤクン。お兄ちゃんが悪かったよ

幹也:だから、俺とお前はタメェ!!

春彦:緑色で甲羅があるのは?

幹也:カメェ!!

春彦:夏の海に出現、人食い?

幹也:サメェ!!

春彦:ヤギの鳴き声は?

幹也:メェエエェェ! ってなにやらすんじゃ、ボケェ!!

春彦:おあとがよろしいようで、どうもありがとうございましたー

0:不安多事ヰ、完ッ!!

幹也:終わらすなッ!!

春彦:は?

幹也:いや、終わらすなって! 全然おあとがよろしくないから!

春彦:僕、飽きちゃったからさ。この辺で幕を下ろすのもありよりのありかなって

幹也:なしよりのなしだよ! 俺にもっと興味を持てよ! まだ本題に入ってすらいなかっただろ!

春彦:なんだっけね

幹也:異世界転生したいって話だよ!!

春彦:まあ、みんなしたいんじゃないの。よくあるよくある〜

幹也:相づち雑すぎ。春彦、急にやる気ないじゃん!

春彦:幹也と話してたら鍋がどんどん冷めていって、せっかくの夕飯が不味くなるってことに気づいちゃったんだ

幹也:それはごめん! 飯は大事だ。日々の活力の源だもんな

春彦:そういうわけでね。語りやるならひとりでやってね

幹也:俺なんで春彦とルームシェアしてるんだろって、今すっごい思ってる……

春彦:ふたりとも金が無いからだね

幹也:そう、金、金が無い。すべては金が無いから悪いんだ……。俺が異世界転生をしようと考えたのも、根っこをたどれば金が無いことに行きつく

0:ワンルームの部屋、ローテーブルに置かれた鍋から春彦が自分の分と幹也の分を取り分けようとしている。

幹也:なんのために人間は生きるのか、考えたことがあるだろうか。俺は、ある!

幹也:飯を食って、うんこして、寝る。極端に言えば人生とはその繰り返しにすぎない! だが!

春彦:夜ご飯食べてるんだから、うんことか言わないでよね

幹也:ごめん! 飯は大事だもんな、美味しく食べたいもんな!

春彦:で、その大事な今日の晩御飯、お鍋を幹也はまだ食べないわけ?

幹也:食べる! あ、俺のお椀ににんじんは入れないでくれ

春彦:はーい、好き嫌いせずにカロテンいっぱい摂りましょうねー

幹也:悪魔ッ、鬼ッ!

春彦:おに、……あ、お兄。つまり僕のことをお兄ちゃんだと認めたんだね! ミキヤクン、春彦お兄ちゃんだよ!

幹也:……春彦お兄ちゃんッ、みきやぁ、にんじんさん苦手なのぉ。みきやの代わりにぃ、にんじんさん食べてほしいなぁ?

春彦:いや、僕とお前タメじゃん。なに、お兄ちゃんって、気持ち悪いよ?

幹也:お前が言い始めたことぉおおおお!!

春彦:は?

幹也:なんでそんな低い声で、は? って返せんの? お前の記憶力は鳥以下か!? 春彦のメンタルどうなってんだよ、俺もう怖いよぉ……

春彦:幹也は共食いになっちゃうから豆腐は食べられないんだっけ?

幹也:流れるように俺のこと豆腐メンタルってバカにするのやめろ?

春彦:僕は大根が好き

幹也:えっ、無視? いじるだけいじって、無視ですか春彦お兄ちゃん?

春彦:ごちゃごちゃうるさい子だねぇ。さっさと食べなさいよぉ!!

0:春彦、幹也の前にお椀を勢いよく置く。

幹也:うわっあちちち!? 飛んだ、今、あっつい汁、飛んできた! これは大火傷だわ。慰謝料だ、慰謝料を請求する!!

春彦:僕はお金がないから幹也とシェアルームしてるんだよ。幹也の記憶力は鳥以下なの?

幹也:自分がした煽りとまったく同じ煽りを返されると人間ってこんなにも腹が立つものなんだな

春彦:幹也はこうして、ひとつの悟りを得たのであった。ちゃんちゃん!

0:不安多事ヰ、完ッ!!

幹也:だからぁッ終わらすなァアアアア!

春彦:は?

幹也:まだ本題入ってないでしょォオがああああ!!

春彦:早く進めてよね。前置きが長い話はすぐに見切られちゃうんだからさ

幹也:まったく、誰のせいだと

春彦:この話の作者

幹也:メメタァ! だが、そのとおり!!

春彦:ウスノロで馬鹿な会話ばっかりさせてさ。やつは僕らを操り人形にしてつまらないコメディドラマを演じさせる気なんだ!

幹也:うん、話をひっかき回して遅くしてるの今んとこ春彦だからね? 俺が本題にたどり着かないの、お前が面白半分に言葉のマドラーで話をぐるぐるしてるのが原因だからね?

春彦:僕は誰の指図も受けない!! 自由に生き、自由に行動し、語り、そして……鍋を食べる!

幹也:いや、鍋かい! もっと壮大で盛大な台詞があっただろ!

春彦:鍋が美味い。つまらないコメディじゃなくて、今から美食グルメのドラマにしよう、幹也

幹也:台本クラッシャー!

春彦:タイムオーバーだよ。十五分以内に話が始まらないドラマはほぼ全てが駄作だ。だから、僕と幹也で一からやり直すのさ

幹也:なんか通っぽいこと言ってる! でも、まだ十五分は経ってないんじゃないか?

春彦:なんだって……チッ、仕方ない、続けたまえ、幹也くん

幹也:何キャラだよ……。えーコホン、では俺の本題を……本題を……

春彦:トラックにひかれて異世界転生をしようと思った理由。

幹也:そう! まず俺は異世界転生をしたいと思いついた! なぜなら、金が無いから! 貧しくて、大した能力もなくて、努力もしたくない! となったら、やっぱり異世界転生しかない!

春彦:すごい論理の飛躍があったけど、僕は優しいから幹也の話を最後まで聞くよ

幹也:異世界転生すれば、魔法とか超能力とかが使えるようになって、見た目ヨシ、声ヨシ、頭ヨシのパーフェクトヒューマンになれるんだ!

幹也:なせがお金も無限湧きで、女にモテて、テキトーにだらだらしてても、俺またなんかやっちゃいました? で、いつの間にか周りの人々にも称賛されるんだ! いつ転生するか、今でしょ!

春彦:とりあえず、幹也が人生に疲れてるってことだけわかったよ

幹也:年金二千万問題! 派遣切り! 正社員だろうが賃金は上がんねえのに、保険料は上がり、さらには物価も上がってる!!

春彦:まあねぇ。トレンドだねぇ

幹也:だからもぉ、俺はトラックにひかれるしかないんだ!

春彦:だからトラックにひかれるしかないって……こんなにつながってない、「だから」は初めて聞いたよ

幹也:俺はとある情報筋から異世界転生もののウェブ小説は実際に異世界に転生した人が、現代を生きる俺たちを助けるために発信しているメッセージであること突き止めた!

春彦:ふふふ……いいねぇ、香ばしくなってきたじゃないか

0:ワンルームの部屋、幹也が真剣に春彦に語る。

幹也:異世界転生ものが一大ジャンルを築いたのは仕組まれたムーブメントだったのだ。現代から異世界へ転生する人間が増えれば増えるほど、向こうの世界では優秀な人間が現れる

幹也:今の世界では大したことなくても、異世界転生して色々能力を得て、そっちの世界でなんかすごいことをしたら、多元宇宙的観点から見るとプラスになるらしい

幹也:そして、現代日本のきっつい状況を身をもって知っている転生人は人助けも兼ねて異世界の楽しい生活を小説にし、現代人に転生を選択肢に入れるよう、うながしているのだ

春彦:わー、パチパチパチパチ〜。すっごぉい、知らなかったー。多元宇宙ってハルヒコよく知らないからぁ、もっと説明してくれるぅ?

幹也:なんか世界がいっぱいあるってことだ! たぶん!

春彦:幹也ってシンプルバカだよね

幹也:なんだとぉ!? 完璧な説明だっただろ!

春彦:トラックにひかれれば確実に転生できるわけじゃないし、仮に転生できたとしても転生先はもっとひどい世界かもしれなし、今以上に能力のない人間になるかもしれない

幹也:そ、そんなことねえよ。ほとんどみんなスローライフしてるもん……

春彦:それは幹也が暴力とか血が苦手で、スローライフ系ばっか読んでるからだよ。ちょっと考えてみなよ、エアコンなくて、スマホもゲームもない世界だよ。今より、しんどくない?

幹也:そ、そんなことは

春彦:ギルドの任務を受けて日銭を稼ぐ冒険者って結局のところただの日雇い労働者だし、保険制度もしっかりしてないだろうから大きなケガをしたらおしまいだし……

幹也:俺が転生するのはスローライフ系の世界なんだ! そんなことにはならない!

春彦:いや、だから転生先の世界選べるわけじゃないでしょ

幹也:選べるもん! 死ぬときに強く思えばなんとかなるようになってるもん!

春彦:幹也って旗色悪くなるとすぐカワイコぶるよな。今まで思いやりで言ってなかったけど、それキショいからやめたほうがいいよ

幹也:そこは今日も俺を思いやってくれよ! 俺の疲れ具合が春彦にはわかるだろ!

春彦:疲れてないやつはトラックにひかれて転生するんだ、とか血迷ったことは言わないからねぇ

幹也:あー、誰かぁ、俺を助けて、不安でたまんねえんだよぉ!

0:夕飯を食べ終えた春彦が幹也をまっすぐ見つめる。

春彦:幹也……今まで黙ってたんだけどさ、僕の告白聞いてくれる?

幹也:あっ、BL展開は間に合ってます

春彦:僕とお前、どっちが受けだろうねって、そういう告白じゃないから! 秘密を打ち明けたいって言ってんの

幹也:えー、重いやつは勘弁だぜ。自分のことで手いっぱいなんだからよぉ

春彦:実は僕、転生者なんだ。日本に転生する前はエファミエルランドって大陸のマナスの森というところでエルフとして暮らしていた

幹也:えふぁ……ナスが、モリモリ?

春彦:全然聞き取れてなくて草。ゴミみたいな記憶力だね

幹也:いや、今のを一発で聞き取れるやつはいないからぁ!

春彦:幹也はこう言ってるけど、リスナーのみんなはどう? 聞き取れた?

幹也:配信者みてぇな声出すなよ、キショいぞ

春彦:そのセリフ、あちこちに喧嘩ふっかけてるからね?

幹也:知らね。叩かれんの俺じゃねえし

春彦:すごい開き直りだけど、正論でもあるね

幹也:で、えーっと、ナスの話してたんだっけ?

春彦:僕が転生者って話をしたかったんだけどな

幹也:そうそう、そうだった、そうだった……って春彦が転生者!!!?

春彦:あらぁ~、おっそいリアクションでございますこと。鮮度もなければ、面白みもない。あなた、エンタテイナーとして失格でしてよ

幹也:いや、俺エンタテイナーじゃねえし、お前は何キャラなんだよ!

春彦:エルフキャラ

幹也:マジッ!? エルフってそんなタカビーなお嬢様みたいなしゃべり方なの?

春彦:そんなわけないでしょ。エンタメをわかってないなぁ……

幹也:今すぐお前をもう一回、転生させてやろうか?

春彦:転生時に女神さまからあらゆる能力をさずかった僕に勝てるとでも?

幹也:そうだったぁッー!! 転生者はチート! ただの人間である俺が勝てるわけが……って、あれ?

春彦:どうしたの幹也? この世の真理に気がついたポメラニアンみたいな顔してるよ

幹也:春彦、お前……転生者なのになんで俺とルームシェアしてんの?

春彦:節約のため

幹也:か、かかかかかか金は?

春彦:現代日本の若者の懐事情は厳しいってことは幹也も知ってのとおり

幹也:転生者はチートパワーで金持ちになれるんじゃないの!?

春彦:世の中そんなに簡単じゃないよ

幹也:そんな、転生すればぜんぶ解決すると思ったのに……

春彦:転生に夢見すぎなんだよ

幹也:オーノォーー!!

春彦:今日も一日楽しかったなぁ、明日はもーっと楽しくなるよね、ミキタロウ!

幹也:ミキヤだよ! いいかげんにしろ!

0:不安多事ヰ、本当に完ッ!!

ー終ー

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