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声劇台本「頭のない死体」ジャンル:ホラー 2人~3人

※ピカピカにも同じ台本を棚霧書生名義で投稿しています。中の人は同じなので安心してください。

必要人数(男1:女1:他0-1) 所要時間10-20分
最小2人で回せます。その場合、めたもふ役が0と警官を兼ねてください。
   0ー ナレーション
めたもふー イケボ配信者
  君津ー めたもふ枠のリスナー、めたもふとコラボをよくする
  警官ー 怪しい警官、おそらく人ではない


0:8月9日午後10時頃、日もとうに暮れて暗くなった視界をぽつぽつと申し訳程度に設置された街灯と車のヘッドライトが照らし出している。

君津:はぁ、今日も疲れた

0:車のハンドルを握る君津は仕事終わりの重だるい疲労を抱えながら、帰路についていた。変わり映えのない山道、鬱蒼としげる森林は昼間でも暗い雰囲気があるのに夜である今はいっそう陰気な感じがする。

君津:もう、めたもふくんの配信やってるかなぁ。今日も声劇できるといいのだけれど

0:君津には周囲には教えていないひそかな趣味があった。それは声で演じる劇、声劇。インターネット上で集まった者同士が声のみを使って劇をつくりあげていくエンタメの一種だ。

君津:家に着いたらすぐに始めたいし、スマホの声劇アプリ、もう立ち上げておくか。……あっ、めたもふくん、見っけ。配信ルーム入っとこ

0:めたもふとは、君津がよく声劇アプリ内で交流をしているダウナー系の声質を持つイケボ配信者である。

めたもふ:いやぁ、僕はそんなキャラじゃないですよぉ……と、キミツさん、いらっしゃいませ、こんばんは~

君津:今いえかえってるとこ、あとで声劇やろ

0:君津は素早くコメントを打ち込んだ。送信から数秒も経たずにめたもふが君津のコメントを読み上げ、返事をする。

めたもふ:はい〜、できればやりたいですねぇ。

0:続けて、めたもふは現在の枠の話の流れを君津に教える。

めたもふ:今ね、リスナーさんと僕のアイコン変えようかなって話をしてたんです。ほら、今使ってるやつは僕にはカッコ良すぎるからアイコンと僕のキャラが乖離しちゃってるのかなぁって

0:めたもふの使用アイコンは白髮に碧眼のクールな美青年である。彼のイケボには似つかわしいが、親しみのある庶民的な性格を考慮すると確かに少しイメージと合わないかもしれない。

めたもふ:「ふむ、頭をすげかえるってことですか……」って、すげ替えとか言い方怖いですよ! アイコン変更って言ってください!

めたもふ:「頭すげかえちゃったら、めたもふさんの声、変わっちゃうんじゃないですか!?」……ふふふ、すみません、僕ちょっともう皆さんのボケをさばききれないです

0:めたもふの配信枠にはすでに数人のリスナーが来ていた。他愛もない冗談コメントを投げて、場を賑やかしているようだ。

君津:私も早くちゃんと参加したい……って、なに!?

0:ヘッドライトが照らし出すのは、うずくまった影。よく見るとそれは動物の死体のようだった。

君津:車にはねられたニャンコかな。でも、今の死体……頭が……頭がなかったような……

0:ここは自然と間近の山道、野生動物が飛び出してくるのは珍しいことではないし、生き物との衝突事故の話もよく聞く。

君津:だけど、頭がないのはさすがに初めて見た……

0:君津はちょっぴり動揺したがスマホから聞き馴染みのある、めたもふの声が流れているのもあって、そこまで不安にはならなかった。次の死体が道路に現れるまでは。

君津:ハァッ!? またなの……!?

0:君津は思わず叫んだ。今度の死体は尻尾が太く胴体は寸胴でたぬきのように見えた、が、これがまた頭がすっぱりなくなっていた。

君津:死体多すぎ……、しかもどっちも頭がないとかめっちゃ不気味……、えっ……なにこれ!?

0:君津の目に信じられない光景が飛び込んでくる。頭のない死体がいくつもいくつも点々と道に落ちているのだ。

君津:うそ……うそうそうそ! どうなってるの!?

0:心臓が早鐘を打っている。一度、車を停めて落ち着いたほうがいいんじゃないか。しかし、この道で停まるのもなんだか恐ろしい気がする。早く家に帰りたい、帰ってめたもふの配信にまざりたい。

0:君津はアクセルペダルを強く踏み込もうとした、だが不意に見えた赤い光に思いとどまる。

君津:あの光は警察? こんなとこで検問なんてやってるの?

0:どうして警察がこんな辺鄙な場所で検問をしているのだろうか。君津は疑問に思った。しかし、先ほどまでに見てきた異様な数の動物の死体になにか関係があるのかもしれないと思い直す。

警官:すみませーん。検問です。免許証のほう、ご提示お願いします。

君津:あの、なにか事件でも、あったんですか?

警官:ええ、この辺に猟奇的な連続殺人鬼が出ているとの通報がありまして。あなたもここに来るまでに通ってきた道で見たかと思いますが、あの頭をもがれた動物たちは被害者ですよ、可哀想にね。

君津:ひどいことをする人もいるものですね……

警官:いいえ、人じゃありませんよ

君津:えっ……?

警官:首鬼(くびおに)ですよ

君津:首、鬼……?

警官:ご存知ないですか? 昔々に退治屋に首をはねられた鬼のことです。体はなくなってしまって、頭部だけが今もこの世をさまよっているとか

警官:きっと、自分の頭にあう新しい体を探して、手当り次第に試しているのでしょうね。迷惑な話です

君津:はぁ、そうですか……

0:この警官は人をおどかすのが趣味なんだろうか。勤務中なんだから、真面目にしてればいいのに。君津は現実味のない噂話をする警官に呆れた。

警官:確認できましたので免許証をお返しします

君津:どうも

0:君津は財布に免許証を戻し、車を出そうとハンドルを握り直した。

警官:ご協力ありがとうございました。あなたも首鬼に首をとられないようくれぐれもお気をつけください

君津:…………きもちわるい

0:君津はウィンドウが閉まってから小声で言った。おかしな警官に当たってしまったものだ。車を発進させ、バックミラーに映る警官の姿をちらりと見る。

君津:えっ!?

0:見間違いか。いや、見間違いであってくれないと困る。なぜならば、バックミラーに映る警官の首から上がすっかりなくなっていたのだ。

0:君津が瞬きをした次の瞬間には警官の姿は鏡のどこにも映っていない。スッと首筋に冷たいものが走る。

君津:はぁはぁはぁっ……やだ、もう、やだぁ!!

0:君津は息を乱し、思考を混乱の渦に絡め取られながらも運転を続けた。というより、続ける他なかった。後ろから、オオォォォ……! と人とも獣とも判断のつかない低い唸り声が近づいてきているのだから。

君津:なんなのっ! ホントになんなのぉッ!? いやあああああァァァッ!!

0:半狂乱の車の中で、スマホから場違いでのんきな声が流れてくる。

めたもふ:あははっ、頭をすげかえちゃったらそれってもう別人ですよぉ

0:どんな話の流れでめたもふがその発言に至ったのかはわからない。きっとアイコンを変える話から転がったのだろうが、君津には配信を聞いている余裕などなかった。

君津:ああっ、あああ、あああああああああああ……!!

0:―――――――――――

めたもふ:いやぁ、今日の配信はなんだか時間が経つの早く感じます。もう1時間以上経ったのかな。あれ、そういえばキミツさん、まだ来ませんね。枠にはリスナーとしているんですけど……コメも来てないし、寝ちゃったかな?

君津:ごめん、ちょっと帰ってくるのに時間かかった。キャストとして上がっていい?

めたもふ:おっ、噂をすれば影。どうぞどうぞ! 今、申請に許可出しますね~

君津:も〜、今日ホントに大変だったぁ

めたもふ:ふふ、お疲れさまです

君津:いつも使ってる道路に動物の死骸がいっぱい落ちててさぁ。警察も来てたし、車停められるしで、チョーめんどくさかったぁ

めたもふ:それは災難でしたね。……あのキミツさん、いつもと声が違うような気がするんですが風邪とか引いちゃいました?

君津:え〜。なんだろ、いつもと同じだと思うけど。疲れてるからかなぁ?

めたもふ:僕の気のせいですかね? 変なこと言ってすみませんでした! お気になさらないでください!!

君津:「いや、俺もキミツさんの声いつもと違う気がする……」ふーん、リスナーのみんなも違和感覚えてるんだ。……耳がいいね

めたもふ:えっと……、まあ声帯って繊細な器官ですからね、同じ人間がずっと同じ声を出せるってわけでもないですし、体調によっても変わっちゃいますから……

君津:そうだね

めたもふ:……えー、あっ、僕、新しいモノマネを習得したんです! みなさん、聞いてくださいよ!

0:君津の声についての話題はすぐに立ち消えた。その後、めたもふの配信では君津の口数が少ないだけで特段変わったことはなく、夜はいつものように更けていった。

ー終ー

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