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紫陽花は涙雨

※御依頼により執筆したものになりますので、朗読用ではありません。

作 /tana
読み/桜吹雪様、朗読あん様

ナ: ナレーション
男性 あなた様
女性 君どの そなた

ナ: 黄梅の雨が終わりを迎えそうな日、
私は18歳になった。
今日、私はお嫁へ行く。
顔も知らない、名前も知らない人のもとへ。
家と家だけの結びつき。
何も持たず、身一つだけで嫁入りするように言われた。
鏡に映る白無垢の私、黒ずんだ私の心。

女性「私は今日からお人形のように生きてゆくのね」

ナ: 扉が開く…ふと、後ろを振り返ると見知らぬ男性が立っていた…
雨上がりの外は、なんだか少し肌寒い…
地面に咲いている葉や花達からは水滴がこぼれ落ちている
突然現れた見知らぬ男性…自分の婚姻相手であることを認識するのに時間はかからなかった。

男性「お初にお目にかかります。さぁ!ゆこう!さむくはない?」

女性「少し寒うございますが…でも大丈夫です」

男性「君いくつ?」

女性「18歳になりました。あなた様は?」

男性「25歳になりました」

女性「あなたのお名前は?」

男性「知らなくてよい、私に何も興味をもたなくてよい、お互い、何の感情も持たない方がよい」

女性「政略結婚…家と家だけの結びつき…という事ですよね」

男性「そういうこと」

女性「では、あなた様のことを何とお呼びしたら?」

男性「あなた様でよい、わたしは、そなたの事を、そなたであったり、君どのと呼ぶ」

女性「あなた様?君どの?…はい…」

男性「それでは、一つ条件を作ろう!お互いに感情を持たない、好きにならない」

女性「もし…お互いにお互いの事を知りたくなってしまったら?もし、好きになってしまったら?」

男性「その時は、君どののことを、自由にしよう…」

女性「自由?どういうことでしょう?」

男性「君どのを初めて見た時、まるで、そなたは、鳥かごに入る鳥のような目をしておられた、今は難しいが、いつか、そなたを自由にしたいと想っている」

女性「好きになってしまったら、あなた様のそばに居たいと想ってしまうはずでは?」

男性「だからだ。自由なのだから、私のそばに居るのも自由、離れるのも自由」

女性「その時のその感情、心情で、私の想うままに行動して良いという事ですか?」

男性「そういうことだ、私は、そなたの想いに従う」

女性「あなた様のお気持ちは?」

男性「私の気持ちはどうでもよい」

ナ: ふたりは、付かず離れず、ゆっくり、ゆっくり、ひたすら雨上がりの道を歩いた。

女性「あの…少し、休みたいのですが…慣れないものを身にまとってしまっているせいか…足も辛くなってきました」

男性「あーぁ…そうであった…白無垢姿のそなたを歩かせるのもと思いつつも、
つい、そなたとゆっくり歩きたくなり…
申し訳ない…近くに、腰掛けて、少し休もう」

ナ: 2人は30分ほど休み、また歩き出した

女性「あの…あなた様に、お尋ねしても?あなた様とわたくしはどちらへ向かっておられるのですか?」 

男性「家が用意させれている、そこで暮らすように…全て揃ってある、心配はいらない、必要なものがあれば、女中に用意させる」

ナ: 淡々と話す彼の姿に、なぜだか寂しさを感じた

女性「私たちには、自由も未来もないんでしょうか?」

男性「もしかしたら、私たちには、自由も未来もないかもしれない。でも、この先、時代が今よりも数十年、数百年と、時が進んで時代が移りゆく時に、時代の変化と共に自由や未来や希望が持てる時代になっていたらいいなと想う」

女性「そんな日が、そんな時代が、
いつか、くるのでしょうか…そんな時代がくれば私も嬉しゅうございます…
そして、いつか…いつか…私も、あなた様も自由に…」

男性「きっと、来世では、わたしも君どのも、この世のもの達も、自由で希望が溢れているであろう、そう願いながら今を共に過ごしてゆこう」

※説明書き
明治、大正時代を背景に描いたものです。
いつかきっと、自由や希望が…と
時代の変化が訪れることを願った男女の淡い物語。

※宛書きである為、フリー脚本ではありません。

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