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さつい。⑤

-ぶちくらすぞこのジジイ-

勤務中思わず声が出そうになった。
異動の引継ぎでストレスが溜まってるのか
らしくないなと思って
帰り道ローソンでストロング系チューハイを買う

色白で細身のバンドマンのようなバイトの子が
やたら肩幅のデカイ店長に注意されていた
その青年は平謝りしながら一点を見据えていた
恐怖心をその辺に置いてけぼりにしたように

そう、ああいう奴が1番危ない




-きっかけすら分からない記憶の断片に酔う-

ん?いや、お前誰?どこ中?



俺: オイ、傘下ろせよ


アイツは確か1年8組で、
教室から出てくるのを待ち構えていたが
ゴツい体育教師にしょっ引かれて
アイツは生徒指導室に連れて行かれた

俺は仕方なく靴箱で待つことにした
1時間くらい待っただろうか
アイツは不貞腐れながら
ひょこひょこと歩いて近づいて来た

俺: なあ、、お前文化祭で
 ギタボ(ギター&ボーカル)だっただろ?

口下手な俺は自分から話しかけるのが苦手だ

アイツ: あ、、はい、そうですよ

そう言いながらアイツはゴソゴソと
傘立てから適当に
持ち主が分からなくなってそうな
100均の薄汚れたビニール傘を引っこ抜き
力を込めて握り締めた

俺: 何漁ってんだよ、雨降ってないだろ
  喧嘩しに来たんじゃねえんだよ笑

アイツ: あ、いやその、、違うんです
   傘持って帰るのずっと忘れてたから

俺: 武器にする気マンマンだっただろ笑
  俺、ベースやってんだけど
  お前バンド今やってねえんだろ?

アイツ: はい、文化祭の後すぐ解散して
    今はたまに駅前で歌ってます
    
俺: 1人で弾き語してるイメージねえな

アイツ: 仕方ないじゃないすか
   僕この学校に友達いないっすもん笑

俺: 、、俺ん家来る?

アイツ: え?あ、はい


オラオラ系でも
流石にこんな誘い方しないだろって感じで
不器用な俺は気付いたら家に招いていた
そして、2個下のアイツは
お互い名乗りもしてない状態で
当たり前のようについて来た

俺の家は学校裏の閑静な住宅街にある
15分くらい歩きながら俺達は自己紹介した

アイツは電車で30分くらいかけて
過疎の地区から通学してるらしい
遠いことを言い訳に
朝課外は毎日サボってるらしい
(九州には0限目の授業がある)
たまに午前中はそのまま近くのD校に行って
D校近くのコンビニで立ち読みして
昼休みに彼女と会ってるそうだ
そして昼から学校に戻り
クラスの連中も教師も空気のように扱い
ロッキンオンジャパンを読んで昼寝する

それがアイツのバグった高校生活
俺が言える立場じゃないが
ちゃんと卒業できるのか心配になった


アイツは自分自身のことを話すのが苦手で
基本的に俺が聞いた時だけボソボソ喋る
歌以外では一切声を張らない
無駄なエネルギーを使いたくないらしい
どこまでも合理的にバグってる


俺が去年まで所属してたバンドのデモMDを
とりあえず渡して聞いてもらった

アイツ: 先輩、、上手いっすね
   ボーカルに寄り添ってる感じなんですね
   見た目怖いのに笑

俺: 俺そんなゴリゴリ動かねえから笑
  なあ、俺と組めるか?
  ちなみに、地元のF大かN大に受かればだけど

アイツ: おお、両方とも軽音盛んじゃないすか
   落ちたら浪人なんすか?

俺: まあな
 大学を隠れ蓑にしてバンドするなら
 それなりに勉強しとかなきゃダセーだろ?

アイツ: その方が踏ん切りがつくってことすか?

俺: そうかもな


それから高校卒業までの数ヶ月
俺はアイツを何度かライブハウスに連れて行った
九州で最も熱い音楽の街で
アイツとギターロックに入り浸る未来を願った

初めは無口な奴なのかと思ったけれど
俺の複雑な家庭状況にも
ズカズカと踏み込んで聞いてきた
案外デリカシーのない奴かもしれない

俺は親父の仕事の都合で
幼少期をフランスやドイツで過ごした
中学の頃両親が離婚して
俺は親父に、2個下の妹は母に引き取られ
親父はすぐに再婚して
この街に引っ越してきた
今は方言が板についているが
中学の時は日本語が変だとよく馬鹿にされた


アイツ: 家族が複雑だったり、貧乏だったり
   すげーブサイクで馬鹿にされたり
   そういう環境の方が
   ロックバンドするなら武器ですよ多分

俺: いや俺トラウマとかねえから笑
 あと俺人付き合いわりいけど彼女いるから笑

アイツ: じゃあ先輩もっと女の子に対して
   だらしなくなって下さい
   カッコいいからダメですよ
   クズだなあって思えるくらいまで
   そしたら良い歌書けそうですよ


クラスの連中から無視されたり
教師から空気のように扱われることを
アイツは寧ろ誇りに思っているようだった

黙ってれば色白で童顔で可愛げがあるが
喋るとバグった人格が滲み出て
それが俺にはどうしようもなく心地良かった


そして結局、俺は大学入試に失敗し
浪人して東京の学校に進学した
(アイツとも音信不通となった)
軽音サークルには入ったけれど
浪人中に何かを失くしてしまったのか
衝動に駆られる程の熱意は沸かず
俺は可もなく不可もない日々を過ごし



今はこうして市役所勤めだ
福祉課から市民課へ異動したわけだが
それにしてもあのジジイは面倒だ

もう俺は担当ではないと何度も説明しているのに
「秋山さんに話を通した方が早いですから」
と、市役所に対し根回しをしてくる輩は初めてだ

ストロング系チューハイが直ぐに空いた
まだまだ酔えそうにない

そう言えば口下手な俺は
いつから人前で
ベラベラ喋れるようになったんだろうか


、、、バンプか、久しぶりに聴くか

はは、再生回数1億かよ

アイツ、ロクに練習せず
めんどくせーコードは
しょっちゅう当て振りしてたな笑

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