タピオカ

そもそもあんなもの、カエルのタマゴみたいだ。茶色い濁った液に、黒いパチンコ玉大の物体って、もうそれはカエルの生息地の水質ではないか。田舎の裏山にでもいって、田んぼのそこをカップで攫ったら、あんなのに近い液体は採取できるだろう。
しかもあいつら、やたら高い。600円とか700円とか平気でする。たかが飲み物にラーメン一杯分に相当する金額を払うのもどうか。どうせ太るなら、ラーメンで太りたい。
それに、もちもちした食べ物なんて、他にいくらでもある。例えば、あんみつの白玉団子の方がよっぽど美味しくて可愛らしいではないか。白玉団子が白いカービィだとしたら、タピオカはさながらボム兵ではないか。
そう思って、タピオカ店の行列を横目に素通りしてきた。こんなのに並ぶなんてよっぽど暇なのか。それとも罰ゲームか。

しかし、思いがけないタピオカとのファーストコンタクトは不意に訪れた。トークライブの打ち合わせで先輩と打ち合わせをした時に、先輩が黒糖ピンクタピオカミルクティーを用意してくれていたのだ。通常の黒いタピオカではないピンクタピオカは、透き通った妖しいピンク色をしていた。培養したきゃりーぱみゅぱみゅの細胞ではないかと目を疑ったが、それは確かにタピオカらしかった。
太いストローを勢いよく吸うと、思いのほか大量のタピオカが喉に押し寄せてきた。危うく私ののどちんこをタピオカがノックしそうになった。私はむせそうになったが、紳士らしく耐えた。口一杯のタピオカをかむ。黒糖のコクのある甘みとタピオカのモチモチとした食感がたまらなく美味しいではないか。タピオカの感想としては、1週目の感想を思った。元来、甘い物好きな私がタピオカミルクティーを嫌いなわけがなかった。自分自身の毛ほども役に立たないプライドを恨んだ。流行のものに飛びつくのは恥ずかしいことじゃない。なんでもっと早く飲まなかったんだろうと思った。ピンクタピオカミルクティーを飲んでもきゃりーぱみゅぱみゅ化もしなかったので、やはりそれはただのタピオカであった。無論、志茂田景樹化もしなかった。

私はすぐに自分でタピオカミルクティーを買って飲んでみたいと思った。しかしながら前回は先輩が買ってくれたために、私はタピオカ店に出向くという経験はしなかった。したがって、次回はタピオカ店に坊主で丸メガネの大柄の成人男性が一人でタピオカを買いに行くという、私がタピオカを飲まなかった最大の障壁を乗り越える必要がある。一人でピーチジョンに行くくらい恥ずかしい。
しかし、そんなことも言っていられないので、自宅近くのタピオカ店の誰もいない時間を見計らって、一人で訪れることにした。何事も、誰もが初めての時があるんだと自分を奮い立たせる。幸い、客は一人もいない。店員さんが一人、こちらを見ている。若干、眉毛がピクついたかに思われたが、そこはプロだ。平然と私のオーダーを促す。タピオカミルクティー、甘さ控えめ、氷なしで。ストローは通さないでください。事前に用意してきた呪文を唱えた。家でキンキンに冷やしてから映画を観ながら飲もうと思ったので、ストローを刺さないでおいてもらったのだ。同時に、ストローを刺さないことによって、誰かに頼まれて買いに来たというポーズを取ることもできる。まさに一石二鳥。攻撃は最大の防御とはまさにこのことである。
店員さんはそんなことは気にも留めず、テキパキとタピオカミルクティーをこさえてくれた。茶色く濁った液体に黒くて小さい玉が無数に沈んでいる。おばちゃんの顔にありがちな、でかいほくろみたいだな、と言いかけて言葉を飲み込んだ。タピオカを乱暴にポケットに突っ込んで帰路に着く。

帰り道、久しぶりに「にんじゃりばんばん」を聴きながら帰った。

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