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『新・舞台照明講座』発刊

このたび、私の初めての著書
『新・舞台照明講座 光についての理解と考察』
をレクラム社から上梓いたしました。

(B5判 120P / 装幀:髙林 昭太)

この本は、題名から明らかなように、舞台照明を学ぶための新しい教科書です。舞台照明の教科書は、これまでにもいくつか発刊されていますが、この『新・舞台照明講座』は、今までの教科書とは少し違う考え方に基づいて作られています。これまでの舞台照明の教科書は、そのどれも、舞台照明が一つの“職業”であるということを前提にしています。すなわち、照明という仕事をする上で必要となる知識や技術を学ぶ、そのための教科書として作られているということです。しかし私は以前から、それとは違う考え方で教科書を作りたいと思っていました。この『新・舞台照明講座』は、照明の<仕事で必要になる>ということを必ずしも優先していません。そこが、これまでの舞台照明の教科書とはコンセプトが大きく異なっています。

今までの舞台照明の教科書が、なぜ<仕事で必要になる>ことを学ぶという考え方で作られてきたかと言うと、そもそも舞台照明というものが<仕事>以外ではあり得ないものであったからです。基本的に舞台照明の機材や設備は、その取り扱いや、設置、調整などの際に、専門的な知識や技術が必要となることが多いです。少なくとも今まではそうでした。その意味で、舞台照明は「専門的職業」であり続けてきたわけです。ですから、舞台照明についての書物の多くが“職業”であることを前提とした内容になるのは当然だと言えます。

しかし実際に普及している舞台照明の機材やシステムは、現在ではとても多種多様になりました。中には必ずしも職業照明家でなくても扱えるような簡易なものも、実は多くなって来ています。そもそも、舞台照明設備と言えば元々は基本的に“劇場”に固定的に備えられているものでした。しかし現在では、小型化あるいは軽量化が進んだ機材も多くあり、どこでも好きな場所へ簡単に持ち運び、行った先で一時的に仮設するといったこともできるようになっています。また、最近は一般の人でもインターネットの通信販売を使って、かなりプロユースに近い照明関連製品を買うことができます。つまり現在では、広く一般の人が照明関連製品を簡単に購入し、扱うことができるようになっていると言えます。

まとめると、かつての舞台照明は、

  • 劇場の中に固定的に備えられた設備を

  • 専門的な知識と高度な技術を習得した照明家だけが

  • 専有的に取り扱う

という性質のものでした。それが現在では、

  • 小型化・軽量化された安全で扱いやすい照明の機材やシステムを

  • 誰でも所持することができて

  • 劇場に限らず、たとえば生活空間のような場所で舞台照明の効果を作る

ことができる時代となっているのです。

その意味で、現在の舞台照明は、昔と比べると必ずしも職業的ではないものに変質してきていると言えます。今では照明を職業としていない人が照明機材を個人的に所持するようなケースも増えています。そうした専門家でない人たちの手によって、学校の教室や体育館、あるいは公民館や民家、店舗といった“非劇場空間”に簡易な照明機材を仮設で設置し、自分たちなりの舞台照明効果を作るといったことが行われるようになっています。舞台照明そのものに興味や関心を持ち、職業としてではなく“趣味”として、照明の機材やシステムについて学び、実践を続けている「アマチュア照明家」や「学生照明家」といった人たちも、現在ではたくさんいます。

さらに、現在は各種の技術情報が誰でも見られるような形でインターネット上に公開されています。ですから、時間と手間をかければ舞台照明についてのかなり高度な知識を誰でも学べるような状況になっているということが言えます。今や、舞台照明は、それを職業とする専門家だけのものではなく、一般の人に広く開かれた文化的な活動というべきものに発展していると言えるでしょう。

ただ、これは私の個人的な印象になりますが、そうして一般の人がアクセスできるようになった舞台照明関係の情報が、機材や設備などの「ハードウェア」に関することに寄ってしまっているように思われるのです。全体として情報にそうした偏りがあるため、まるで

舞台照明ができる人
= 舞台照明の機材や設備(ハードウェア)を扱える専門技術者

というような捉え方をする人が、今は多くなってしまっているのではないかと、私には思えます。

しかし、舞台照明を作る際は、機材や設備といった「ハードウェア」の知識だけでなく、それをどのように使用して、観客に対してどのような効果を感じさせるかという「ソフトウェア」の知見も必要になることは間違いないと思います。そういったソフトウェアに関する考察や論考が、バランス的に、流通量が少ないという現状があるのではないかと私は思うのです。

また、そのような舞台照明のソフトウェア面についての考察というのは、照明以外の人たち、たとえば演出家や俳優、ダンサーといった人たちにも関心を持たれる領域だと思われます。舞台に関わる人であれば誰であれ、照明というものがどのような仕組みでできていて、それが自分たちの作品にどのように効果をもたらすのかということについて興味を持つのは自然なことだと思います。

かつては、舞台照明の知識や技術は専門家どうしの間だけで専有され、基本的に秘匿(その意図は無かったとしても結果的には)されていました。しかし、現在はインターネットの発達により、どんな情報も流出し、また共有されることを避けられない時代となりました。専門家が技術を秘匿して、その情報の希少性によって価値を保とうとするような時代は、今や終わろうとしていると言えるでしょう。

舞台照明の知識や技術は、遅かれ早かれ、すべての人の共有財産となっていくものだと私は考えています。舞台照明は、“舞台芸術”というより大きな文化の一部分を成すものであり、そのための知識や技術は、知りたいと思うすべての人に公開され、共有されていくべきものだと私は思います。

この『新・舞台照明講座』は、そのための一つの試みとして作成しました。舞台照明を、職業としてではなく、あくまで興味の対象として、総合的に解説することを狙いとしています。ですから逆に、職業としての照明家を目指す人にとって直接的に役に立つ内容は、あまり含まれていないと言えるかも知れません。本書の対象はあくまで、仕事として必要とする人よりも、好奇心や興味を持っている人です。

『新・舞台照明講座』は、個人的な関心の対象として、あるいは舞台人の基礎的な素養として、舞台照明の全体を俯瞰的に知りたいと感じている方を読者に想定して書きました。

興味をお持ちの方、ぜひご購入をご検討いただければと思います。

ご購入は全国の書店にて。発行部数が少ないので小さな書店の棚には無いと思いますが、どの書店でも取り寄せ注文が可能です。

書名:『新・舞台照明講座 光についての理解と考察』
著者:岩城 保
出版社:(株)レクラム社
定価:2530円(2300円+税)
「地方・小出版流通センター扱い」と書店に伝えてご注文下さい。

また、お急ぎの方はレクラム社のサイトから直販でもご購入いただけます。
どうぞよろしくお願いします。


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