「殺人出産 著村田沙耶香」を読んで。

「殺人出産」にはいくつもの象徴的となる言葉が出てくる。その中に「殺意・殺人」や「正義・正しさ・正常」がある。
そして殺意や殺人は正当化される。それは命を救うもの、命を生み出すものとしてだ。

この小説は近未来の日本を舞台にしている。今とはまったく違う常識、文化、考え方になった世界だ。村田沙耶香の話によく使われる設定だ。よくこんな気持ち悪い世界を思いつくなと思う。褒め言葉だ。

彼女はタブーに触れ、囚われや常識をぶち壊し、問いかけてくる。

悪とされていたことが、正義へと変貌するとき、救われる人もいれば苦しむ人もいる、柔軟に対応する人もいれば抵抗する人もいるだろう。

話が変わるがいま頭の中でつながって理解できたことがある。村田沙耶香の世界はある種独特のワンネスを表現しているようにも見える。自分の意志ではないどうしようもないものに突き動かされ、支配され、それを受け入れて振る舞っている。

小説に出てくる人たちは、衝動に素直に突き動かされている。
そこに抗ってはいない。それと一体化している。

衝動は無意識を通じて立ち現れてくる。
それまでのすべての人々との記憶、先祖代々受け継がれてきた遺伝子情報、動物としての性質、宇宙の誕生のビックバンから引き継がれてきた因果(物理的な連鎖)。

村田沙耶香の小説に出てくるキャラクターの魅力は、それらを表現している。

みんな、自分があるようで自分がない。
自分の中、外に起こることが起こっている。

あなたのその感覚も思考も感情も衝動も、あなたのものではない。
あなたを通して表現された世界のあらわれに過ぎないのだ。
それはすごいことのようでもあるし、大したことのないものでもある

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