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さるすべりのこと

昨年、種から生えたさるすべり(百日紅)の新芽がすごい勢いで伸びている。

去年の新芽がこれで、

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今年の新芽がこれ(茶色い枝は去年のもの)。

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最近知ったのだけど、さるすべりは前年に生えた枝には葉っぱをつけない。だから大きな木は樹形を崩さないように、毎年同じところで枝を落とすものらしい。近所の木が秋ごろにばっさり剪定されてたのは、そういうことだったのね、と合点がいった。


このさるすべりの種は、もともとある人からのいただきもの。会ったこともない、インターネット上の盆栽愛好会の人だ。

その人は趣味が高じて盆栽を半分仕事にしているような感じだった。会ったことがないので、Webサイトと毎週水曜に送ってくるメルマガを通じてしか人となりは知らなかったけど。

住む場所も年齢もかけ離れていたはずだが、不思議にその人の文章が好きだった。
メルマガには新しい盆栽のことや四季折々の出来事だけでなく、樹の植え方から剪定のこつまで、盆栽についてのあらゆる知識が惜しみなく書かれていた。盆栽には関係のない身の回りのできごとについての話も多かった。

わたしは一人で盆栽を始めたから毎週とても学びが多くて、顔も知らないけど勝手に師匠だと思っていた。その人は毎年庭や家のまわりで拾ったたくさんの植物の種を希望者に送ったりもしていて、このさるすべりもそのときにもらった種のうちの一つだ。去年の夏、芽が出てとても嬉しかったことを思い出す。

でも、今年の冬の終わり頃、突如メルマガの配信が終わってしまった。
最後のメールには、やむをえない事情があり引越しをしなければならなくなってしまったことがつづられていた。親父ギャグが連発されるふだんのメルマガからはまったく想像できない静かな文面で、わずかな盆栽と家族とともにあらたな人生を歩むことになりました、と書いてあった。

朝起きて、午前5時きっかりに送られてきたメールを読んでひどく動揺したことを覚えている。先週のメルマガではそんな危機的な状況になる雰囲気は微塵もなかったのに。見知らぬ人との突然の別れにここまで大きなショックを受けたのは初めての経験だった。

今となっては、このできごとがコロナの影響によるものなのか、そのほかの理由によるものなのかはわからない。今も受信ボックスに残っているメールから連絡を取ることはできるかもしれないけど、自分の勝手な心配からその人を傷つけたくなかった。
ただただ無事でいてくれたらと思う。大好きな盆栽を、少しでも続けてくれてたら嬉しい。

だから、わが家のさるすべりがいつか花を咲かせたら、お礼とともに報告をしたい。数年先になると思うけど。あのとき送っていただいた種です、って、せめてもの恩返しに。

最後まで読んでいただき、うれしいです。 サポートをいただいたら、本か、ちょっといい飲みもの代に充てたいとおもいます。