歌謡曲
【詩】
もう季節は変わったんだと駅の地下道
ショーウィンドウ映る人びとコートが急ぐ
探し続けてきたものが見つからないまま
僕もまたウールの下にほんとうを隠す
夢みるような街の彩りにごまかされず
ありのまま事実だけを認識しようと
道端に落ちた誰かのため息
壁に描かれた落書きのフォント
雑踏を縫ういつかの歌謡曲
誰もが気づかないフリして通りすぎるそれを
僕は一つひとつていねいに拾いあげては
「これだろうか」と首を傾げる
探すのをやめればいいさと星がいう
地下道から顔覗かせた僕を目敏く見つけ
めずらしく不機嫌な態度で僕は
君に言われる筋合いじゃないと撥ねつけ
今度は北風の吹く大通りに目を落とす
「何か落としましたか」と誰かが声をかけ
澄みきったその目をそっと盗み見て
誰かの親切に触れるなんてことがこの僕に
まだあったんだなと少し心が震える
「いえ、大丈夫です」
それ以上言葉を継げず僕はその場から
肩を丸め逃げるように立ち去る
さっきの歌謡曲が後から追いかけてくる
tamito
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#詩
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