悪しからず悪しからず

【詩】

 

街のあちこちで悲鳴があがり
地下通路は涙で膝まで浸かる
何が起きたかって日常の光景
見えない人には見えませんよ
だから悪しからず悪しからず

電車のなかでは怒りが渦巻き
手錠に繋がれゆらりゆれます
窓にはどこかの知らない誰か
あなたのこと見つめています
けれど悪しからず悪しからず

木星から戻ってきた男と今夜
止まり木のうえ杯を進めます
寒い寒い霧の大地で肩を抱き
見あげた空に太陽も月もなく
だから悪しからず悪しからず

ぜんぶあなたのことですよと
すれ違う誰か感情のない声で
あなたの顔も見ずに呟きます
聞こえない聞こえない振りで
けれど悪しからず悪しからず

ほんとの言葉うその言葉探し
俯いて歩いています道のうえ
吹きだまり小さな無数の光が
あなた見えようが見えまいが
だから悪しからず悪しからず

 

tamito

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