かたちなきものを言葉にして
【詩】
かたちなきものを言葉にして
胸にナイフで綴る作業を繰り返す
ひとときの発露や遠く呼び起こされた記憶
いまそこに生まれた光景を写真家のように
画角や光量を整え胸の奥フィルムに刻み付ける
ぼくの見慣れた感情もきみの隠された想いも
電車で乗り合わせたうつむいた青年も
信号で立ち止まり空を見上げる少女も
目に止まったすべてを綴り続ける
いつかぼくが死んだずっとあとに
百年千年の後の世界で綴られた言葉が
埋もれた古井戸の底から発掘されて
赤茶けたネガフィルムを光に翳すように
誰かの心に読み取られるならば何も
何も怯える必要などない
tamito
#詩
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