お化けに会う
【詩】
西の空が紅く染まるようすをぼんやりと見ていた
川原の土手のうえ風の吹かない三月のある日曜日
分厚い上着を脱いで散歩を楽しむ人の足どり軽く
白サギがツーと空から舞い降りて川辺で虫を啄む
僕の足下へ転がるボールを子どもが追いかけ来て
僕の目も見ず奪うように持ち去ってゆくその先に
やさしい笑顔の父と母が手と手を繋ぎ待っている
どことなく僕の親と似ている気がして目を伏せる
僕はいま沈む夕陽の美しさを見にきたのであって
父親と母親を求めに来たんじゃないと目を伏せる
山の端近く雲の合間から幾筋かの光が地に降りて
真っ赤に妬けた星が姿を表し咄嗟に僕は顔を背け
消え去ることのないよう縮こまって身を丸くする
やがて妬けた星はふたたび雲に隠れ光の筋だけが
まるでサーチライトのよう僕を探してる気がした
日没前の最後の力強い光が世界を紅く染め抜いて
誰もが西の空を黙って眺めたその背中がどうにも
どうにも寂しくどうにもせつなくて僕は瞳が潤み
あふれようはずもない涙があふれ両の頬を伝った
空の紅が灰色を帯び人々は散り散りに家路につく
さっきの親子が僕の前を通り過ぎようとしてふと
子どもが足を止めまん丸な目をして僕を見つめる
両親もつられて僕の方を見て目を凝らすそうして
「何もないじゃない」子どもを促して先を急いだ
昼と夜の交わるほんのひと時、あの子と目が合う
tamito
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#詩
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