ふたり

【詩】

 

ある日、不確かな僕と確かな僕が

ふたりに分かれて別々の道を歩き出した

それまでの人生を比較的

確かな僕がリードしてきただけに

不確かな僕は道標を失い

思いのままに道を進み

雨が降れば何日でも足をとめた

確かな僕は不確かな僕を遠目に見ながら

それでもその日その日の糧を得るべく行動した

ある日、不確かな僕が海辺を歩いていると

釣りをしている少年に出会った

少年は不確かな僕や確かな僕の子供の頃に似ていて

不確かな僕になついて日が暮れるまで一緒に遊んだ

そしてとっぷりと夜に染まる頃に少年の両親がやってきて

不確かな僕から少年を引き剥がすようにして連れ去った

置き去りになった不確かな僕は膝を抱えて暗い海を見つめ

確かな僕のことを考えた

ある日、確かな僕が通勤電車に乗っていると

突然電車が止まり「しばらく停車します」とアナウンスが流れた

確かな僕は取引先とのアポイントに遅れることを恐れて

とても不安な気持ちに苛まれた

いっこうに動く気配のない電車のつり革にすがるようにつかまり

確かな僕は不確かな僕のことを考えた

不確かな僕と確かな僕が分かれた明確な理由はない

互いが互いに対して嫌気がさしたのかもしれないし

ある眠れない夜に強烈に死を意識したことが

きっかけだったかもしれない

いま不確かな僕と確かな僕は互いに求め合っている

でも一度分かれてしまったふたりは二度と一緒になることはない

確かな僕を乞いながら不確かな僕を乞いながら

それぞれにバランスを取って生き続けるしかない

 

いまこの僕は不確かな僕であって

確かな僕を乞いながら不確かな道をひとり歩いている

いまのあなたは不確かなあなたですか

それとも確かなあなたですか

 

tamito

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#詩 #もうひとりの僕

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