時代の空気

【詩】

 

時代の空気が薄くなる

あの広場の噴水は枯れ

不規則な配色のネオンは欠けて

通りに傷ついた猫が横たわる

これが望まれた今

望まなかったとは言わせない

いずれミツバチのように生まじめな

ロボットたちが無機質でこざっぱりした街をつくり

そこでは何も知らない若い恋人たちが愛をささやく

パリッとしたスーツの男や女が早口で論じる

もうひとつ別の未来に焦がれた僕らは

長距離バスの後方にかろうじて席を確保して

きまぐれな運転手に道をあずけている

それだって僕らが望んだことであり

望まなかったとは言わせない

明けない夜を走り続けるバスの窓から

流れる時代の空気が見える

三十六色のクレヨンをデタラメに塗り

ムンクの描く地獄絵図のような

キューブリックの描く宇宙の果てのような

そんな景色がいつまでも続いてゆく

目を伏せることはゆるされない

あらゆる禁止事項を読みもせずに承認して

席を立つこともバスを降りることもできず

僕らは瞬きさえせずに夢を見る

水量豊かな噴水のまわりに人が集まり

ピカピカのネオンが街を彩り

若い猫たちが我が物顔にかけまわる

濃厚な時代の空気が鼻腔をつく

朦朧とした意識で僕らは尋ねる

運転手さん、まだ着かないのかな?

けれど僕らの声はとても小さく

運転席まで届かずエンジン音にかき消される

まあいいさ届いたところで何かが変わるわけじゃない

バスを降りることは誰にもできやしないんだ

 

tamito

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