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マイノリティってなんだろう?

『その輝きを僕は知らない』
  ブランドン・テイラー 
   関 麻衣子訳   早川書房

なかなかに重い。
『ザリガニの鳴くところ』も存分に重かったけど。この小説はもっと根が深い。
どうなっていくのだろうという喉にひっかかった、忌ま忌ましさが残る。

主人公はアラバマ出身の黒人で同性愛者で貧困層出身のウォレス。
アラバマの大学を卒業して、アメリカ中西部(おそらく著者テイラーの通った
ウイスコン州立大学がモデル)の大学院にやってくる。
大学院では理系で初めての黒人学生だ。ウォレスは偏見や差別を否応なしに
受けることになる。
一見差別などしていないというような態度を学校も生徒も取るが、巧みに陰湿
で遠回しな差別を受ける(すくなくともウォレスは受けていると感じる)

主な登場人物はそれぞれにマイノリティを抱えている。世の常で一番弱い人間に
その矛先が向いているように思う。ここでは当然ウォレス。
何もかも諦めて感情を向けないように、生きているのが切ない。ウォレスは
ウォレスで素直じゃないし。世の中を斜に構えて見ている。冷静であろうと壁を
作りながら。それはそれで、周りをはじき上手く溶け込めない一因ではあると
思うのだけど。

この本は、2020年全米ブッカー賞、ジョン・レナード賞の最終候補になった。
ウォレスはブランドン・テイラー自身のようだ。
原題『Real Life』のリアルとは?
多層にリアルが見られる。マジョリティーとマイノリティーでの差別。
マイノリティ—同士での差別。マジョリティー同士の差別。
それぞれの嫉妬、嫉妬、嫉妬。
でもきっとこれが現実なんだと思い知らされる。リアルなのだと思う。

私自身もちょっとしたマイノリティーの中にいるのだけど、わかり合えないと
諦めてしまうことも多々ある。やけに熱くなって語り、理解して貰えないときの
なんとも言えない居心地の悪さ。
でも、この本を読んで被害者意識が強すぎるんじゃないだろうかと自分を
反省。所詮その立場には慣れないのだから、無いことを憂うのでなく
あること、出来ることをどうやって自分らしくやっていくかを考えるべきなんじゃ
ないのと。

ウォレスやそれぞれに悩み苦しんでいるものが、生きてて良かったと思えるような
世界であって欲しい。綺麗事だと言われようと、そう思うことから初めの一歩が
始まるのだから。そんなことを考え思う一冊でした。

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