戦略ごっこ 【広告編】

08 メディアプラン、クリエイティブのエビデンス

8-1 広告をやめると売上・シェアをどうなる?

大規模ブランドおよびシェアの安定したブランド大規模ブランドは広告停止の影響がすぐには表れないが、多くのケースは2〜3年目に影響が出てくる

参考数値データ 例)広告停止した場合
売上:平均して1年で-16%、2年で-25%、3年で-36%
シェア:平均して1年で-10%、2年で-20%、3年で-28%

・特に大きなブランドより小さなブランドの方が、
 成長中より衰退気味のブランドの方がより下げ幅は大きくなる
 (さらに衰退気味のブランドが最も影響を受けやすい)

また、広告には短期効果だけでなく、長期効果もあるため
✖️ 短期的には広告予算縮小=広告費の節約
→ 長期的には機会損失した売上の方が大きくなる

参考 例)広告予算を削減した場合
広告予算を1年間半分に売上が元に戻るのに3年かかった
広告予算を1年間ゼロに売上が元に戻るのに5年かかる計算に

つまり、広告をしたからといって、いきなりシェアが伸びることはなくても
広告をしておかないとシェアを維持することすら困難になる

意見:とはいえ、小さいブランドが少ない予算の中で広告へ予算投下する場合は、自社運用によるノウハウの蓄積や媒体の選定、効果検証のスピードが重要

8-2 広告にできること、できないこと

そもそも広告の役割は

  • 説得ではなくセイリエンスである
    =つまり広告で購買説得は難しいという前提のもの設計すべき

広告は消費者が自分なりの買う理由を思いつくための導線
=つまり広告はパブリシティである
ーーー具体的には?
広告を見た時に消費者がブランドを自由に意味付けできること、消費者側に理由づくりを任せる余白があることが重要
→広告を見てブランドを思い出した時に、消費者が好きなブランドを結びつけることができる仕組み

広告においては、データを重視しすぎたり、合理性を追求すると競合と似た施策に行き着いてしまう
ーーー具体的には?
それだけロジカルに説明しても、どれも大体同じだろうと思われるのが関の山。
→これを認めた上で、どうしたらセイリエンスを高められるかという視点に行き着くが
実際は上司やクライアントを説得しなければ…という大人の事情が相まって消費者目線が薄れ、ブランドが全くリフレッシュされないという構図に行き着くことが多い
意見:コモディティ化するコテゴリにおいては、データを用いた合理性を重視しつつも、競合から一歩秀でる独自の切り口での訴求が必要なのでは?

8-2 広告の適したフリークエンシーは?

  • カテゴリ毎に効果的と言われる回数は異なる

  • 基本的に消費財カテゴリで購入感覚の短いものは収穫逓減型である可能性が高い

=初回の接触が一番効果的であり、徐々に下がっていく
→2,3回接触させるのではなく、最初の1回を当てる人数を増やすべき(リーチに軍配が上がる)

  • 一方である一部の新カテゴリ耐久財においてはS字型の反応関数が見えることも

=ある一定の回数を超えると一気に効果が高まる

  • 大きなブランドが既存顧客をターゲットにするときは、複数回接触させることやLTVを高めて密もコミュニケーションを取ることで購入意向の変化や態度変容に影響を与えると言われる

  • 小さなブランドが未顧客に想起を拡大するときは、事前想起の形成が重要であり、第一想起は不可であり助成想起を狙いにいくことがポイント

広告が需要を生み出すのではなく、生活の中で需要が生まれ、その需要に合った広告に気づく(需要→広告)
=需要が発生したタイミングやオケージョンに近づいていって、「こんな商品あるよ」と背中を押す、あるいは想起集合の中で少しだけ背中を押す

  • 広告の主な役割は説得ではなくパブリシティであり、すでにある記憶を更新することや経験に基づく連想を強化することが目的

    1. →短期間で高頻度の接触<長期間で低頻度の接触を継続させることが重要

  • しかし、新商品や季節性の高い商品の発売時は、「短期×高頻度」が有効(3ヶ月程度→徐々に「長期×低頻度」へ移行させる)

  • 予算がないから一部の反応が良いセグメントに絞ったエンゲージメント系の施策に走ると、リーチが取りづらい、また広告しなくても買う人にわざわざ広告してるだけ…になりかねない

  • 小さなブランドかつ予算がない時は、広告ではなくフィジカルアベイラビリティの強化に徹した方が良い(電話、メール、外回りなどのいわゆるドブ板営業)
    意見:広告が需要を生むこともあると考える(競馬女子)

    ROIやROASに執着しすぎることでのリスクに着目すべき
    =つまり上記はあくまでパフォーマンス指標であり、ビジネスを成長させるには「効率」の前にまず「効果」を重視すべき
    ーーー具体的には?
    そもそも短期でコンバージョンさせられるのは5%などごく一部に過ぎない
    「5%に対する効率性」ばかり追っていても、「残りの95%に対する効果」は得られない

8-3 ターゲティング思考の罠 広告の質や解像度でリーチ不足をカバーできるか?

「中小企業やデジマ出身のマーケターは、マスは費用対効果が不明瞭、リーチよりターゲティングの解像度が重要、プラットフォームで細かい設定ができる、費用対効果を見ながらリーンにPDCAを回すことが魅力」
ーーー具体的には?
手数を増やすことにお金を使うべき?特定の顧客層に絞ることで高倍率を高めるべき?
→後者によって「メッセージとニーズの合致性」や「ブランドからの提案と顧客が求める価値のフィット」が高まるのでは…

  • ターゲティング施策が非ターゲティング施策と同水準の利益を出すには、広告パフォーマンスを大幅に高める必要が出る(ターゲティングを絞り込むほど、CPC上がるためCTR大幅改善必須)

問題は?

  1. 広告クリエイティブを調整したところでCTRは改善できてもCVを2倍することは難しい

  2. サードパティ規制の状況下においてデータの精度…費用…

ターゲティングによる広告効果の向上とリーチの拡大のバランスが重要であり、どちらか一方に偏りすぎると広告の全体的な効果が薄れる可能性がある。適切なターゲティングとリーチの拡大を行うためにも、広告戦略の綿密な計画と評価が求められる。

8-4 ターゲティングの打開策は徹底的な実験(ABテストで精度を高める)にあり


一方で新しい増分リーチを増やすためのセグメンテーションやターゲティングは積極的に行うべき
ーーー具体的には?

  1. 地理的リーチ(競合トップは取れてるけど自社は課題がある特定の場所や地域は?)

  2. 時間的・季節的リーチ

  3. 顧客層リーチ

  4. チャネル別(特定の流通チャネル)

  5. 機能別リーチ(自社だけ対応できていない機能や成分、UX的に利用しにくい層)

  • 競合するブランド同士の顧客プロファイルはほとんど変わらない(事業成長するときの顧客構成はある程度決まっている)

→「トップブランドと同じような顧客構成になっていないなら、何かがおかしい」
まとめ ターゲティングと広告の質

  • まずは自社が獲得できていない上記をあぶり出し、弱い部分を補強していく

  • 広告の量と広告の質は等価ではない(リーチ減るほど高パフォーマンスが求められる…)

  • ターゲティング脳になると視点が内へと向き、利益や顧客基盤を狭めてしまう

  • 中途半端にターゲティングするよりは、リーチを広げる方が手っ取り早くビジネスインパクトを得られる

ーーー具体的には?
古いブランドで若年層ゲットできてない→若い層のリーチを増やすべき
利用タイミングに偏りがある→新しい利用タイミングを提案すべき
新規の増分リーチを増やすためのターゲティングは◯
ただ訴求軸はターゲティング層に向けたものでも、メディアプランはなるべく市場全員に向けた設計にするべき

8-5 メッセージやクリエイティブは一貫性が大事?変化させるべき?


市場環境、ブランドの新旧によって望ましい傾向が異なる

それぞれのコミュニケーション戦略 書籍より引用


CEP……カテゴリーエントリーポイントの略。ある商品を購買または利用する際に、それを検討するきっかけとなる状況」を指す言葉

※注意※ 独自のブランド資産(DBA)の一貫性は極めて重要
例えば、統合コミュニケーション戦略においては、異なるタッチポイントでの一貫性が重視されますが、異なるキャンペーン間での一貫性については看過されがち。
同時にメッセージやポジショニングの一貫性はよく話題に上がりますが、視覚的な資産や言語的な資産、スタイルの一貫性などについてはあまり取り上げられない。むしろ、「積極的に変えていこう、新しくしていこう」という声の方が大きい…
これらが招く危険は?
「いかにこれまでと違うか」を追求するあまり、DBAが変わる、使われなくなるというパターン。
「消費者は新しさを求めている、ブランドが生まれ変わる必要がある」ともっともらしい理屈でブランドアイデンティティーを変えようとするケースが見られるがこれは誤り。
こういった改善提案からブランド資産を守ることが大事
結果、気づかれない(意味がない)、現在の認知や想起が乱され投資が無駄に(これまでの投資が無駄に)、不満を与える(戻すはめに)

  • ブランド価値の解釈が新しいことは良いことだが、DBAは徹底して同じであるべき

ーーーじゃあどうする?

  • 次の一年で重点的に取り組むDBAを一つ決める

  • DBAを管理する計画やルールを設けるなどして、それにコミットする

8-6 広告においては、カテゴリーメンバーシップの確立が重要:POPが先、PODは後

POD=相違点連想(difference )
POP=類似点連想(parity)
大きなブランド:ヘビーユーザーを基準にPODばかり訴求 → ライトユーザーが置き去りに
小さなブランド&新しいブランド:大手との差別化やニッチポジションに目がいく…
→そもそも当たり前のことが実現できなそう
カテゴリーメンパーシップを広めることが先決。これを確立したのちにPOD訴求が良い
カテゴリーメンバーシップ……あるブランドが特定の製品カテゴリーに所属していると消費者が認識している状態を指す。消費者が製品を購入する際の選択肢を考えるための基準となる。
例)消費者がスポーツドリンクを購入しようと考えた時、その選択肢となるブランド(カテゴリーメンバー)が何かという認識がカテゴリーメンバーシップ。

8-7 購買ファネルという錯視 | なぜ無意味な比率を計算し納得感でKPIを決めるのか?


購買ファネルや行動モデル
なぜなら、これらを再現性が検証されているものは非常に稀であり、
実際のBtoCにおける消費者行動は、
1. 生活文脈の中で勝てカテゴリーニーズが生まれる
2. その状況に関連する長期記憶が検索され、いくつかのブランドが想起される(=想起集合)
3. その中から確立的なものでブランド選択が行われる
※一方、関与度の高いカテゴリーやBtoBのように意思決定プロセスが定型化されている場合はモデルもある程度有効。

特にマーケティングにおいては、議論の中心となるのは
行動モデルを"正"とした上でどんな認識変化を起こすのか、そのためにどのようなメッセージやマーケティングミックスが最適なのか、あるいはファネルであればどこにボトルネックがあり、どうすれば解消できるかといったH OWの部分。
ここで、忘れてはいけないのは
「ブランドが選ばれるためにはその変化が必要である」もしくは「その変化を起こせば買われやすくなる」ことが大前提となる。これが担保されていないのなら意味がない。

  • ファネルは企業側の「管理ツール」であり、歩留まりとは単なる「集計ロジック」と捉えるべき

  • ファネルに含まれる大半の指標(中間KPI)はシェアや浸透率と相関する
    →つまり、何かマーケティングしたからといって一つのKPIのみ変化する、特定の歩留まりだけ解消されるなどといった単純な結果とはならない。これらのスコアが高まるのは、売上成長やシェアや拡大した"後"に結果として現れる。

ファネルをKPIとしてではなく、下記のような目的で用いるべき
・プロモーション全体の整理=「ういう状態の人にはこういう施策が有効だよね
・マッピング=こういうコンテンツも必要だよね

認識変化や行動変容に段階を想定するならば、データドリブンでカスタマージャーニーを作理、現実に即した整理をするべき

8-8 パーセプションチェンジの科学 | エビデンスで学ぶ認識変化の設計と落とし穴

認識変化における、よくあるパターンの企画書
「現状のブランド認識」→「あるべきブランド認識」
これらの中間的なパーセプションチェンジを段階的に起こしていく、それに必要なマーケティング活動を設計するという構造
★疑うべき点 
 本当に任意の順で変化が起こる?それが売上やリピートにつながる?

参考 例)売上から中間因子に対する統合型階層モデル
・最も多い反応シーケンス「A情緒や感情→C認識や思考→E経験や行動」
・購買プロセスをスタートさせる起点は感情訴求 →悩みや願い
特に差別化認識の低い機能性重視の消費財こそ、感情訴求が購買の起点になりやすい
・売上に対する直接的な効果を高めるには行動訴求 →購買文脈や利用体験の描写

※「快楽財×差別化が強い」の場合は、関与度が高く熟考しやすい
自分の趣味嗜好にあっているかどうかをしっかり吟味する、検討する選択肢の数も多くなり、時間や労力も増える

参考 実用財と快楽財におけるプリファレンスの逆転
それぞれ単独で提示されると、快楽材が選ばれやすく
同時に提示されると、実用材が選ばれやすくなる
例)カーディーラーがスポーツカー(快楽)とSUV(実用)を売りたい場合
前者はピンでショールームに展示し、他の実用性の高い車種とは並べておかない方が良い
また、快楽財に対しては、金銭より時間や労力をかける傾向があるとされる
例)スニーカー販売の場合(両者を併せ持つカテゴリー)
通常の購買オプションに加えて、時間や労力をかけて"ゲット"する(
限定品を開店前から店に並んで買う)選択肢を用意するとよい

広告反応シーケンス(カテゴリー × 差別化の強弱) 書籍より引用

エビデンスに基づいた認知変化の設計ステップは?

1.  まず、フォーカスするCEPを決める
2.  次に「実用財か快楽財か」「差別化が強いか弱いか」の2軸で、自社カテゴリーに当てはまる角度の高い上位3つのシーケンスを特定
3.  CEPのカスタマージャーニーデータを取得し、どのシーケンスが最も当てはまりが良いかを分析、起こすべき認識変化の順序を同定
4.  仮定したパーセプションチェンジごと、具体的にどんな変化を目指すのか、そのためにどんなメッセージを訴求中心におくのか、マーケティングミックスをどうするかなどを検討していく

ポイント:「CEP決定→カスタマージャーニーデータ収集」とすることで、
     タッチポイントの選定やメッセージのアイデアも出しやすい
     特に「差別化の強弱」の判断は、マーケター判断ではなく消費者
     にどう映っているかを確認すべき

8-9 広告クリエイティブの科学 | オリジナリティーを売上につなげるためのエビデンス

オリジナリティー単体の効果はそこまで強くない、オリジナリティーは他の要素と「掛け算」することで効果が高まる

参考 例)クリエイティブ要素を5つに分類した場合の売上への効果
5つの要素:独自性+柔軟性+具体性+意外性+表現力
1. 独自性+具体性
2. 独自性+表現力
3. 具体性+表現力

一方、一番多いのは柔軟性+具体性であるが効果は低い。
→一つの広告内で複数のアイデアやコンテクストを描くのは避けた方が良い

また、クリエイティビティーの追求が必ずしも良い結果につながるとは限らない(一部カテゴリーではクリエイティビティの高さが売上にマイナス影響を与えた研究結果も…)

×  クリエイティビティ+戦略との関連性
         ↓
◯ 戦略に対して最適化されて初めてクリエイティビティーが役に立つ

ーーーでは、各側面に適した具体的な広告表現は?

書籍より引用

→例)感情面には「エンターテイメントとイメージ / ビジュアル」が効果的
つまり、視覚的な楽しさや映像表現にこだわったストーリーテリングで感情を惹起すると良い

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