戦略ごっこ 【広告編2】

09 広告予算・マーケティングROIのエビデンス

9-1 広告予算の基礎 | 広告弾力性と限界利益

最適な広告予算とは、カテゴリーや市場環境、事業規模、収益構造、企業が置かれた財務状況により異なる。

◯広告費を費用として捉える場合(近視眼的かつ競合影響を除く)
✖️ 100万円の広告費を使って、100万円売り上げたらトントンになる
限界利益=売上から変動費(制作費、原価、配送費など)を差し引いた額で見るのが基本
参考 例)限界利益率(限界利益/売上)=50%の場合
100万円/50%=200万円の売上が必要

かつ、広告弾力性=広告費の変化率に対する販売量の変化率
という2つの考え方が重要
参考 例)短期の広告弾力性は平均0.1程度とされる、これを用いる場合
限界利益率×広告弾力性=0.5×0.1=0.05で売上5%を広告費に回せばよい
広告弾力性がわからない場合は粗利の10%程度を広告に使うのが妥当

なお、耐久財>非耐久財、長期>短期、ライフサイクル初期>成熟期の関係で広告弾力性は大きくなるとされている。
→耐久財で新商品を発売するときや新しいサブカテゴリーを開拓して長期視点のブランド構築をする際は通常より多く予算を使っても良いのでは…

9-2 事業成長に必要な広告量、および不況時の予算の考え方(ESOV)

◯広告費を投資視点を加えて捉える場合(想起形成+ブランド構築)

まず経験からの目安としては売上の5~10%を広告に回すと高い投資対効果を得られるようことが多いとされる

・一般的に広告量シェアが市場シェアを上まった分だけ成長しやすいとされる

・現状の市場シェアを維持するのに必要とされる広告量
 小さなブランド 広告量シェア≧市場シェア が必要
 大きなブランド 広告量シェア<市場シェア でも維持できる
なぜなら、大きなブランドは流通やコスト面での優位性、ロイヤルティやリピート率、口コミなど広告以外の面でのアドバンテージが圧倒的に多いため

特に小さなブランドの中でも「新商品」「ニッチ」の場合は、シェア成長に対する広告量シェアと市場シェアの差の効率が特に高い
つまり、予算が限られる中でも少し頑張って市場シェアよりも高い広告を出せば、新商品やニッチブランドは比較的大きな見返りを期待できる

9-1,2まとめ
短期視点では限界利益と広告弾力性の考え方を目安に
長期視点では市場競争を考慮に入れて最適予算を割り出すべき

不況時の広告予算は、同じ広告費をキープが望ましい

不況時も広告弾力性はそこまで変わらないため、粗利分カットは仕方ないとしても、さらに縮小すべきではない
特に短期の購買喚起策、施策を差し止めは避け、市場シェア=広告シェアを維持すべき
→競合が出稿を控えるため、広告費キープするだけでもブランド形成やメンタルアベイラビリティの獲得といった面においては、不況がチャンスになることも(不況時も広告出稿へ余力あるブランドがそのまま成長を続けたとも言える)

9-3 マーケティングROIの落とし穴 | 事業成長は「効果」が先、「効率」は後

ROIは「効率」の指標であって、「効果」の指標ではないため、
まずはいかに利益成長をもたらすかが重要

効率を優先するとマーケティング活動が小規模になり、結果的にリターンの絶対額も小さくなっていくとされる
「利益成長のドライバー」と「ROIのドライバ」は全く別モノであり、
ROIを追うほど、事業成長に必要なマーケティングから離れていく
※注意※
メーカーや小売店、事業会社が行う統合マーケティングコミュニケーションでのROIを想定、利益率の異なる商品を仕入れて売るECサイトや自社ブランドを持たない一部のD2Cは当てはまらない場合も

9-4 MROI の定義| 正しいマーケティングROIとは?

MROI=(マーケティングに起因する増分売上×限界利益あるいは粗利率ーマーケティング費用)/ マーケティング費用
※注意※
ここでのマーケティング費用はどこまで細かく算出するか、計算を厳密にすればするほど実用性とのトレードオフになるので要検討
(媒体費のみ or コンテンツ開発や人的資源など企業インフラも含むか)

9-5 ROIだけ見ていると破綻する | 「事業成長」と「ROIの最大化」は別モノ

そもそも
ROI=過去のマーケティングや既存の購買習慣に由来するリターン/つい先金行ったマーケティング費用であり
同様にアトリビューションモデルによる効果測定を行うROASにおいても
短期のパフォーマンスマーケティングが約2倍過大評価され、テレビなどの長期ブランド形成が3~10倍過小評価される

下記の前提を踏まえるべきである
・必ずしも「分母に置いた施策を行ったからこそ得られた売上」ではない(過去施策の影響やすでに買うつもりがあり、たまたま購買直前に広告に触れた)
・施策が新しく生み出す見顧客の認知やプレファレンス、メンタルアベイラビリティの拡大に由来するリターンは含まれない(効果が出るまでの時間的なズレ)

将来の事業成長に必要なのはみ顧客。しかし、既存顧客やヘビーユーザーに比べると、未顧客のROIはどうしても低くなる。
→結果、ROI やROASを頼りにターゲットやメッセージ、メディアを絞るほど未顧客の入り口がない状態を生んでしまう。

顧客基盤の縮小→縮小分のアップセルクロスセルを図るが生活関数のため限度がある→顧客が少なくリピートも少ない(ダブルジョパティ)に陥る
=RPOは短期的なリターンを過大評価する一方で、持続的なキャッシュフローを生み出す活動にペナルティーをかける
→結果的にビジネスをはかしてしまう。

✖️短期の積み重ねが長期成果につながるのでは?
成長要因は浸透率であり、MROI と相関しない
事業成長とROIの最大化は異なる取り組み、別のメカニズムだと捉えるべき

9-6 収穫低減の罠:なぜ利益とROI は反比例する?

ROIが高い打ち手=売上利益を増やす効果が大きい打ち手ではない

・収穫逓減を意識すべき(売上増でも、ある時点を超えると増加率減に)
・そもそも大した予算を使っていない小規模な施策の可能性も…

9-7 単に「費用対効果が高い施策を選び、低い施策を切ればいいわけではない」

そもそもメディアプランを考えるときは既存の改善であることが大半。
次にどうするかを割り出すことが重要。

近年の傾向は、データドリブンなメディアプランニングであるMMMが身近となっている。
一方で、これらで策定した戦略は市場環境や競合のリアクション変化、収穫逓減を念頭に当初の最適配分はいつか必ず崩れることを認識しておくべき。
費用対効果についての注意ポイント
・絶対規模の異なるものは比較すべきではない
 例)数億円規模のテレビCMと数十万円のWEB広告
・ROIが良いのはそもそも媒体がマイナーで出稿金額が少額である、まだ収穫逓減が起こっていない時点の数値(見せ方次第で大きなROIは作れる)

9-8 インクリメンタルROI:常に「次の1円をどこに使うべきか」

次に出すなら、その媒体がROI が高いのか?という問いには
インクリメンタルROIの視点が大切。

トータルROI:全てのコストと、そこからのリターン 
       (利益増分×限界利益率ーコスト)/コスト
インクリメンタルROI:追加で行った施策のコストと、増分リターン

例題)
シナリオ1:広告費40万円、限界利益100万円
シナリオ2:広告費を追加で20万円(累積40万円)、限界利益140万円
シナリオ3:広告費をさらに追加で20万円(累積60万円)、限界利益162万円

仮に閾値(投資判断の目安となるROI)50%だとする
シナリオ1→2のインクリメンタルROI=100% ◯投資すべき
シナリオ2→3のインクリメンタルROI=10%  ✖️回避すべき

ROIの計算と評価を社内で標準化し、合意された基準=閾値を持っておく

※注意ポイント※
上記はあくまで短期的な利益を中心にした見方。
事業成長に必要な「広く薄いパーセプションの形成」を考えるときは、
インクリメンタルROIではなく、インタクリメンタルな"リーチ"の視点で未顧客の認知獲得や助成想起への効果を評価するように!

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