小野神社・弥彦神社(塩尻市・辰野町)
善知鳥峠(うとうとうげ)を降りると、ほどなく辰野町に入る。この辺りは小野という集落なのだが、この小野という地域が面白い。もともとこのあたりは、筑摩と伊那の郡境が近接する地域で、戦国時代には小野のあたりを境に飯田城と松本城の領主がそれぞれ争っていたという。秀吉の裁定で、小野は北小野と南小野に分けられ、現在でも行政区画は塩尻市の北小野と、辰野町の小野に分かれている。現在、この2市町にまたがる北小野と小野を合わせて両小野と呼んでいるようだ。
そして、同地にある神社も二つに分けられ、現在、小野神社と弥彦神社という神社がそれぞれ並び立って鎮座している。
一つの神社が二つに分割された結果、今でも同一の境内に二つの神社がある。このような例は、あの群馬・長野県境に跨る碓氷峠の熊野神社を思い起こさせる。
まずは、塩尻側の小野神社から見ていこう。
石造りの大鳥居。
うっそうとした森の中。参拝客は他におらず、とても静かだ。
小野神社という社号は、武蔵に多いように感じられる。
武蔵国総社の六所明神に祀られるうちの一つだ。
ただし、ここの小野神社は明らかに諏訪信仰を意識したものではないだろうか。
祭神が諏訪の上社に祀られる建御名方命 (たけみなかたのみこと)である。
社殿の雰囲気も何となく諏訪の社容を感じさせる。諏訪の上社の造りはこんな感じだった。
とても立派な拝殿。それもそのはず、小野神社は信濃の二の宮の社格を持つ。
上田の生島足島神社(いくしまたるしまじんじゃ)に残る仁科盛政の永禄10年(1567)の起請文の神文の部分に甲信の神々が列挙されている中、「小野南北大明神」の神号が書かれている。
この「南北大明神」とは、諏訪の上下明神を模したものなのではないか・・・
そして、「上下」のセットとは、小野神社と弥彦神社のことではないか・・・
そんなことを思った。
理由は後で述べる。
拝殿奥の社叢の中に、摂社の八幡宮本殿、本殿、副本殿、手前に勅使殿がならぶ。
いずれも長野県宝(長野県指定の重要文化財の名称)である。
同一境内を南へ。
なお、ここは北小野に所在するものの、行政区画としては弥彦神社の境内は辰野町の飛び地である。
市町境は、ここより600mほど南となる。
なお、至近には両小野小学校がある。
両小野小学校の運営者は、塩尻市と辰野町で構成される一部事務組合であり、この学校は「塩尻市辰野町小学校組合立」となる(上記のGoogleMapの地図では、「辰野町立両小野小学校」が誤記載。正しくは「塩尻市辰野町小学校組合立両小野小学校」)。
同様の中学校もある(「塩尻市辰野町中学校組合両小野中学校」)。
なお、両小野小学校が辰野町小野に、両小野中学校が塩尻市北小野にそれぞれ所在している。
組合立学校というのは、馴染みがないかもしれないが、複数の自治体によって構成される一部事務組合によって運営されている学校のことである。地方の農山村で、特に市町村境に存在している。
組合立学校は、稀に県境を跨ぐ場合もあり、多くは県境や市町村境における通学の利便性を高めたり、小規模な農山村における学校運営の効率化のために設置されている。
現在は市町村合併が進んだ結果、組合立学校の多くが解消され、その校数は数えるほどしかない。
ただ、この両小野小中学校の場合は、分断された小野という地域独特の理由から設立された、と言うこともできそうだ。
行政区画が分かれていても、小野という地域のまとまりは、このような部分でなされているのだろう。
同一境内に並び立つもう一つの神社。
こちらも造りは非常に諏訪社に似ている。
特にこの立派な神楽殿が前にあり、その奥に拝殿があるのは、諏訪の下社の形態だ。
この拝殿の作りも諏訪の下社に一致している。
やはり諏訪の上下宮の構造を強く匂わせるものだと確信した。
「小野南北両大明神」とは、「諏訪上下大明神」と同じ形態をとっているのだ。
通りで、小野神社(=諏訪上社を意識)は、上社の祭神・建御名方命が主祭神だ。
弥彦神社(=諏訪下社を意識)は、主祭神こそ大国主と、事代主命(ことしろぬしのみこと)だが、副殿に諏訪下社の祭神・八坂刀売命(やさかとめのかみ)を祀っている。
弥彦神社の社殿も、ずいぶん立派なものであったが、カメラのバッテリーが絶え絶えであまり写真をとれなかったのが残念。弥彦神社の本殿などに至っては、撮り忘れた。
神号や、神社の「上下」宮とはいったい何なのだろう。
諏訪を代表に、わりとよくある。今でも諏訪の上社・下社、上賀茂神社、下鴨神社といった具合に。
古文書では「諏訪上下大明神」、「子守上下大明神」、「賀茂上下大明神」(たまに「賀茂下上」と書かれる場合もある)などと出てくる。
よくよく考えれば、伊勢だって「内宮(ないくう)」と「外宮(げくう)」で祭神が違う。
二つの神様を並び立て、「上下」とする。
この小野神社・弥彦神社のように二つの神社を並び立てる。
うーん・・・なんか興味惹かれるけど、モヤモヤしてわからない・・・
ともかく、このまま辰野町の小野へ向かいます。
(つづく)
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