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「古書たまたま」のはじまり

「美しい、きれいだな」
北海道の、そういう景色の向こうを見てみたいと思ったのはいつからだろう。

どちらかというと移住者を取材する機会が多い私は、「北海道の景色はヨーロッパみたいだ」と聞くことがよくありました。ヨーロッパに行ったこともないのに、いつしか「そうなんだろうな」と思うようになっていました。

気候も似ているから、ワインやチーズ、パンなど生み出されるものもヨーロッパ原産のものが多く、それはすでに北海道の魅力の一つになっています。見た目だけでなく、作られるものもヨーロッパに近い。なんだかおしゃれでワクワクする。

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あるときそんな話を北海道生まれの人としていたら、「北海道はヨーロッパじゃないのに、北海道=ヨーロッパと言われるのは違和感がある」と言われました。

その時頭に流れ込んできたのは、かつて取材した羅臼のおばあちゃんの、霜焼けを繰り返してパンパンに腫れた手の平。10代の頃から凍った魚をひたすら捌いて生きてきたと言っていた。他にも、引っかかっていたことはあった。扉のノブに手をかけたことは何度もあったのだ。だけど、開けようとしてこなかった。

私は、今見ているものの向こう側に耳を傾けようとしていなかったのではないか。それは、決して悪いことではない。けれど、北海道で書いている身としてどうなのだろう。自分自身の無知と出会って、そこへ向かうことに蓋をしていた自分に気づき、小さくショックを受けました。

やがて、見た目の美しさをただ受け取るだけでは物足りなくなってきました。湧き上がる、知りたいという思い。そして集め始めたのは古い、香ばしい匂いのする北海道の本です。

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そんなに遠くない昔、本州から一抹の望みをかけてやって来た人たちが、過酷な暮らしの中切り開いてきた景色を見ていること。そして、その前にはずっと住んできたアイヌの人たちがいたこと。

知るほどに深まる後悔、恥ずかしさ。自分は本当に表面だけを見て、書いて、撮ってきたのだなぁ、などと。そういう態度のとき、取材は搾取になってきたのかもしれない。傷つけてきた人がいたに違いない。たくさん我が身を振り返りました。

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「歴史」だけに関わらず、植物や暮らし、動物。いろんな本を集め、読みました。あたりまえだけど、北海道はヨーロッパでもどこでもない、北海道でした。

手元に数十冊集まった頃、知り合いからイベント出店の誘いがありました。まだまだとても勉強不足だけど、興味のある人と繋がれたらとてもうれしいと思いました。景色の、その先を見たくなってしまう人たちと。

そこで、「古書たまたま」という名前で出店してみることにしました。帯広の北の屋台で知り合ったアーティスト、かやさんを誘って。

かやさんは絵を描いたりデザインしたり、スワッグを作ったりなんでもする人。まるで午後3時のカーテンのゆらめきのような雰囲気の、すてきな人です。

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最近はスワッグのワークショップを開催することが増えて、自ら仕入れも始めたとのこと。
以前北海道の野の花で作ったスワッグを見せてもらったとき、くすんだピンクのイネ科の草がひと際おしゃれにまとめられていたのを見て驚きました。
イネ科はあまりにありふれていて、これまで注目したことはほとんどなかった。けれどそのスワッグを見てから、道端のなんてことない雑草を見る目が変わった。そんなささやかな変化をくれるでしょう!

せっかく二人で出るならと、私も北海道の植物や花に関する古書を中心に持って行くことにしました。

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仕事の合間に必死に集めている状況。あまりに数が少ないと突っ込まれたのでも少し頑張って集めます😂

イベント詳細はこちら

そして、ほんとは誰の手にも渡したくないほど素敵な本ばかりなので、「売る」ことが私や買い手にどんな作用を及ぼすのか、少し実験を含んだ出店にしようと思います。

もしかしたらこれを機に古書たまたまは閉店するかもしれません。それに、あまりにニッチだから一つも売れないかも。でも、それでもいいと思っています。

なので実験に参加してくださる方がいたら、ふらり寄ってください。


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