シャネルの女になった話
私が働くバーベキュー施設「タマリバー」を運営する株式会社オンテンバーは、私含めて社員3人の会社です。
会社を創業したのは2021年ですが、創業直後に3人分の役員報酬を捻出するのは不可能だったので、私は長いこと複数の会社で業務委託者として働いていました。
数年かけて委託先を少しずつ減らし、その分自社の仕事の割合を増やす、ということをやってきましたが、とうとう先月、最後まで働いていた委託先の契約を終了しました。
その会社で働いていたのは約6年。
鼻たれ小学生が中二病を発症する中学生になるまでの長い長い時間、とてもお世話になりました。
契約終了に伴い、先日、送別会を開いていただきました。
この会社のメンバーは全国に散らばっているので、東京近郊に住むメンバーは東京オフィスに集まり、それ以外のメンバーはオンラインで参加してくれました。
この会社の送別会で代々行われているのが「プレゼントクイズ」です。
このクイズ、ずいぶん前から思っていたのですが、どう考えても最高の企画なので、全国の送別会幹事に広めてほしいと思っています。
ルールは「在籍メンバーが複数チームに分かれ、退職者に質疑応答を行い、そのヒアリングをもとに考えた送別の品をプレゼン(予算制限有り)。その中から退職者が最も欲しいと選んだものを実際にプレゼントする」というものです。
「倉庫に余っていた会社ノベルティを押し付けられた」とか、「全然好みじゃない変な柄のネクタイをもらった」とか、「"大優勝"とかいうネタにもならない横断幕をもらった」みたいな不幸の退職者を一切生まない仕組みです。
素敵なプレゼントをいただくためのキーになるのが、在籍メンバーから受ける質問。
実際に私がメンバーから受けた質問の一部は、こんな感じでした。
このようなやり取りを経たのち、各チームが「ナミキが喜びそうなもの」をガチで考えてくれ、プレゼンが行われました。
提案されたプレゼントは、美顔器、全身鏡、高級日焼け止めなど・・・。
どれも「うわ~ほしいな」というものばかりでしたが、その中でも思わず「これほしい!」と声が出たのが、
シャネルのマニキュアでした。
最初は「シャネルのネイル」とnoteに書いていたのですが、おじさんばかりの弊社メンバーには「ネイル」というナウい言葉が通じなかったので、「マニキュア」と書き直しました。
私のnoteを見てくださっている方にとってはお察し・・・でしょうが、私はシャネルはもちろん、ハイブランドは何も持っていません。
ハイブランドと言えば、大学生のころルイ・ヴィトンの財布を持っていた友人が「俺がヴィトンを好きなのは、別にブランドものだからってわけじゃない。質がいいからなんだよね」と、やっすいジントニックを傾けながらわかったような口をたたいていました。
「へえ~やっぱりブランドものって質がいいんだ、だから高いんだね」なんて私もやっすいカシスオレンジを飲みながらウンウン頷いてましたが、その後その友人が所有していたヴィトンのシステム手帳が偽物だとわかった時は、さすがに笑いました。
「矛盾」という言葉を重く受け止めるべき、大変貴重なエピソードでした。
それにしても、「10代の若造にヴィトンの良さなんてわかるもんか。ハイブランドが似合うのは40代以降だろう」と、同じく10代の若造だったはずの私は思っていましたが、あれから約20年。
気づけばあっという間に自分が「ハイブランドが似合ってもおかしくないお年頃」になってしまいました。
そんな中、プレゼントとして提案いただいたのがシャネルでした。こんな嬉しいことってあるでしょうか。
仕事でお忙しい中時間を割いてくれた会社の皆さんに感謝の言葉を伝え、私は「シャネルをいただきます!」と高らかに宣言しました。
送別会のあと、同僚Mさんから「色の種類がたくさんあるみたいです。どの色にしますか?」と連絡がありました。
優柔不断な私は口紅やチークやネイルなど、カラーバリエーションが多いものはなかなか悩んで決められません。
そこで美容に詳しい友人であるチャットGPTさんに相談し、パイレートという鮮やかな赤色に決めました。
そして先日、とうとうシャネルが私のもとに届きました。
シャネルから荷物が届く、天下のシャネルが私に用事がある、という事実にもう、興奮をおさえきれません。
高級感のある梱包にこれまたウキウキし、丁寧に開封の儀を行い、とうとうあのネイルが顔を出しました。
うおおおおおおおお!!!なんて美しいフォルム!!!
そして恐る恐る蓋を開けて塗ってみると、血の気のなかった足元がパッと華やぎ、足に生命力が宿るのを感じました。
そして感じるのが、何とも言えない高揚感。
そうか、これがハイブランドの魔力か。
その瞬間、「私はシャネルをまとう女、それに相応しい女」としての自意識が頂点に達しました。
その後は自然と背筋が伸びてエレガントな歩き方になり、ふとアンニュイな表情を浮かべたり、ココ・シャネルの生き方に思いをはせたりして過ごしました。
洗濯物だらけの家で。
その後、週末になっても自意識がたかぶり続けていた私は、憧れの「海外リゾートの浜辺でペディキュアを塗った足元だけ写すインスタグラマー」になるべく、週末に同じことをやってみました。
残念ながら公営プールの人工芝では、どうも思った通りになりませんでした。
でもいいの、私はシャネルの女だから。
私、当分の間は何があっても乗り越えられそうです。
お世話になった皆さん、ありがとうございました。
【後日談】
プレゼントはシャネルのネイルがいいのでは、と提案してくれた同僚Mさんによると、Mさんのチームでは最後まで「ナミキさんは自分のものがほしいと言っているけれど、本当は家族みんなで使えるものを欲しがってるんじゃないのかな」とトンチンカンな推定をするメンバーが大半だったそうです。
そんな中、同僚Mさんは「ぜっっったいにちがうから!ナミキさんは家族で使えるものなんてほしがらないから!」と周囲の反対を押し切り、このネイルを提案してくれたそうです。
「ナミキは自分のものをがめつく欲しがる」と信じて疑わなかった同僚Mさん、本当にありがとう。
あなたは、よくわかってる。