140文字の連読小説
先週の放送では、「第二回タマリバ小説書き出し選手権」を開催しました。140文字に舞台や登場人物、この先の展開への予感などを詰め込みつつ、小説的表現を纏わせた力作を沢山応募いただきました。
朗読するアナウンサーにとっても、書き出しのドキドキ感をどう表現するかという点でとても勉強になる企画で、第三回も是非開催したいと考えています。
今回はオヲタアナも参戦
実はタマリバには、この「小説書き出し選手権」の他にもう一つ140文字の小説企画が存在するのです。それが…
夜の連続ラジオ小説
毎週、番組の冒頭で、長谷川さんが読み上げているアレです!
「夜の連続ラジオ小説」と銘打ったこの企画は、タマリバのパーソナリティ長谷川瞬さんが、毎回140文字以内で自作の小説をしたため、それを自ら音読するという、なんともナルシスティックなもの。
連続小説と謳うだけあって、ストーリーは毎回続いていて、先週の放送までで、27話を数えています。
ただ、この企画、途中から聞いた人には全体の流れが見えずに、何のことやら…といった感じになってしまってるんですよね。
そこで、今回の記事では、長谷川さんが創作する連続ラジオ小説(小説書き出し選手権と同じでこの作品にもタイトルはありません)の1話から10話までを掲載させて戴きます。
夜の連続ラジオ小説 1話〜10話
【第1話】
目が覚めた、朝なのか、昼なのか、夕方なのかはハッキリしなかった。コンタクトレンズをつけたまま眠ってしまい目が極端に乾く。慎重に瞬きをして洗面台まで歩く。鏡の前、自分が二重に見える、再び瞬きをしたら左のコンタクトが落ちた。ボヤけた顔が更にボヤける。その時チャイムが鳴った。
【第2話】
1度目のチャイムは無視した。しかし、3秒程の間を置いて2度目のチャイム、更に5秒の間を置いて3度目がミニマルな部屋に鳴り響いた。小さくため息をして、自分でも不快になる舌打ちで勢いをつけて玄関へ向かう。私が玄関の近くに居ると知られたのか、ドアの向こうから「ごめんね」と聞こえた。
【第3話】
玄関の覗き穴から、外を確認する。視界に、見た事ある顔が飛びこんできた。俯き加減の表情は泣いている様な笑顔の様な不思議な表情に見えて、思わず凝視する。黒いワンピースを着たその人は、見られている事を理解したように視線をドア越し僕に合わせてきた。そこにあったのは無の表情だった。
【第4話】
ドアを隔てた、世界から僕を見つめる女性はミチコだった。笑顔の絶えない人だったはずのミチコは別人の様に感情が見えず、よく出来た人形の様に瞬き一つせず、また微動だにしなかった。僕はドアノブにふれスローモーションの様にドアを開けた。僕と目が合うと、ミチコはいつもの笑顔を作った。
【第5話】
ミチコは何も言わず、強引に部屋に入ってきた。僕は呆気に取られ、何も出来ずにドアノブに手をかけたまま彼女を目で追った。いつの間にか、居間へと到着したミチコは小さな無地の座布団にちょこんと座り、もう数時間はそこで過ごしていたかのように小さくあくびをして、僕を見上げたのだった。
【第6話】
思わず、ぷっと笑ってしまった。ミチコはキョトンとした表情から一度だけ、そのまぶたをパチっと動かし、直後に右頬を器用に膨らませた。「ボクの顔へん?」ミチコは眉間にしわ寄せ責めるように、見下ろす僕に向け言った。いいやいつもと変わらないと僕は無言で首を横に振る。それは嘘だった。
【第7話】
ミチコの顔は真っ白だった。白塗りをしたのかと思うほどに。でも、実際の顔色の様な自然な白さを感じた。いや自然というには白過ぎるのだ。しかし、体調が悪い様な顔色の悪さは不思議と感じられなかった。更にミチコは自らをボクと呼んだ。ごく自然にボクと呼んだのだ。昔からそうだった様に。
【第8話】
平静を装い、ミチコに接する。僕が疲れているのかもしれない。ミチコの違和感は顔色と自らをボク、と言う事以外は変わらなかった。それはそうと今日のミチコはよく喋る。職場の上司の話、実家の父親の話、それから元カレの話。また違和感が僕を襲った。元カレ…ミチコに元カレがいたのか?
【第9話】
ミチコは元カレを「アイツ」と呼んだ。僕の事は「キミ」と呼ぶ。僕をキミと呼ぶ人は、ミチコと中学生時代の校長先生くらいだが、校長は僕だけを呼ぶのではなく周りの生徒も含めて「キミたち」と呼んだに過ぎず、僕だけをキミの呼ぶのはミチコの他居ない。ミチコはアイツについて話し始めた。
【第10話】
ミチコの元カレ、アイツこと玉置浩一は見た目はイマイチだったらしいが、とにかく要領が良く、ミチコの行動を熟知して先回りして動いてくれる人だったらしい。見た目はイマイチながら、痩せ型でメガネでファッションセンスは良かったらしい。性格は温厚で歯並びも良く髪もサラサラ…もう聞きたくない。
著者近影
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