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親が子に会うのに、子が親に会うのに、理由は要らない

と、言ったのは坂田銀時。
少年漫画「銀魂」の主人公、通称・銀さん。
どういう話でどういう流れで言ったのかは覚えていないが、この言葉だけ印象に残っている。

私が生まれ育った鳥取県。
日本一人口が少なくて、それはもう田舎だ。
その鳥取県のさらに山奥の小さな町で、
私は高校まで過ごした。
それでも私の家は町の中心にあり、一応、スーパーも郵便局も交番も学校も保育園もバス停も(コンビニは当時なかった)徒歩圏内にあった。
家の周りの集落はみんな知り合い、道で会えば短い会話くらいするという仲だ。

私は大学進学のため地元を離れ、卒業後2年間実家で暮らし、結婚してまた地元を離れた。
盆と正月に帰省する年が何年か続き、三度の出産のため里帰りしてからは、子どもたちを連れて何度も帰省した。
地元で結婚した妹にも同時期に子どもが産まれ、従兄弟ができた。私の夫は一人っ子なので、妹の子ども達だけがうちの子の従兄弟だ。

従兄弟も加わり、夏には父が切った竹で流しそうめん、軽トラの荷台に乗って墓参り、池で魚の掴み取り、海、花火、秋祭りでは天狗に号泣、御神輿、お正月、と、書ききれないくらい楽しい思い出でいっぱいだ。
子どもにとっては祖父母にあたる私の父母は適度に子ども好きで、適度にかわいがり、適度に放任してくれるので、子ども達も心地よかったのだろう。2020年までは、そんな時を過ごしていた。

2020年、新型コロナウイルスの感染防止のため、人々は県を跨ぐ移動を自粛するようになった。我が家も、春もGWもお盆も秋祭りも、そしてお正月も、帰省はしなかった。
寂しい、残念な思いをした人は、私だけではないだろう。地元がある人は、みんなそうだ。

そして2021年2月下旬、私の住む県の緊急事態宣言が解除された。鳥取県の感染者も少ない。春休み、子ども達の顔を見せにいけるかな、そんな期待を抱いていた。子ども達も、実家に行くことを楽しみにしていた。

春休み、行こうと思うんだけど、と送ったLINEの返信はこうだった。
◾️
こっちはまだまだだよ。もう少し後の方がいいんじゃない?
◾️
え、どうして?宣言解除されたのに。
なんてことは私は言わない。
「まだ」と言ったらまだなのだ。
そのくらいの弁えのある大人だと思っている。
(大人でありたいと思っている、が正しい)
そうかー。残念。子ども達も楽しみにしていたんだけど、また今度だね。
みたいな返信をした。

もう、元気な父母には会えないかもしれない。

母の姉は数年前他界した。
父の義兄は、先日脳溢血で入院した。
まだ70代半ば、もう70代半ば。
いつ何があっても不思議でない。
私だって。
明日にでも地震で、交通事故で、
死ぬかもしれない。

まさに、ひすいこたろう氏の「明日死ぬかもよ」の世界だ。
https://www.amazon.co.jp/あした死ぬかもよ-ひすいこたろう/dp/4799312626/ref=mp_s_a_1_1?dchild=1&keywords=明日死ぬかもよ&qid=1614858757&sr=8-1

もし明日死ぬなら、地元に帰りたいなぁ。
父母に会いたいなぁ。
今までありがとうと伝えたいなぁ。

いや、どうしてそんなに父母に会いたいのだ。
楽しいからか?居心地がいいからか?里帰りがイベントで、非日常だからか?
楽しいことなら、地元よりやや都会の、現住所の方がたくさんある。あたたかい家庭、快適な家、かわいい子ども達。キャンプやお出かけたくさんして、イベントを作ればいい。気が紛れる。会うならテレビ電話でいくらでも、時間をかけずに顔が見られる、会話ができる。お金もかからない。
もう、いいじゃないか、帰らなくても。
楽しいことはいくらでもある。
それを見つけるのは得意だ。

父母にこんなに会いたい理由はなんだろう。
もう今の生活を大事にしたらいいじゃないか。
ここでの生活をもっと楽しく充実させたら。

と、ここまで考えていたら、冒頭の銀さんの言葉が浮かんだ。

◾️
親が子に会うのに、子が親に会うのに理由が要るのかよ。ただ顔が見たい、顔を見せたい、それだけじゃいけないのかよ。
◾️

みたいな。

元気な顔が見たい。
大きくなった子ども達の顔を見せたい。

いつか会えると思う。
元気じゃなくても、この世からいなくなってしまっても、いつかは会える。
会えたら、ありがとうと伝えたい。

追記
もうすぐ3.11ですね。
あの日、突然家族とお別れしなくてはならなかった方々、子ども達。私なんかよりも、もっと辛く、悲しい、寂しい思いをされたと想像します。その方々を思うと、私の気持ちなど本当に小さくて、こんなことでいちいち落胆して発信しているなんて恥ずかしい限りです。
3.11に亡くなられた方のご冥福と、新しい未来を歩まれている方々のご多幸を心からお祈りします。




私の創作活動の糧は「読書」です。より多くの書籍を読み、より有益な発信ができるよう、サポートいただけると嬉しいです。