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令和4年度司法試験 民法 参考答案例

こんにちは,たまっち先生です。
今回は,先ほど投稿した令和4年度司法試験行政法の参考答案に続いてbe a lawyer講師による民法の参考答案を作成しましたので,受験生の皆様に共有させていただきます。
おそらく業界最速での参考答案となりますので,来年度以降に受験される方はぜひ一度ご覧ください。

たまっち先生は「be a lawyer],「ココナラ 」を中心に答案添削,月謝制の個別指導を行っております。「be a lawyer」には令和3年度司法試験合格者を中心とする経験豊富な講師が在籍しております。

ぜひご利用ください。



【令和4年度司法試験 民法 参考答案】

第1 設問1(1)
1 CはAに対して、所有権に基づく引渡請求権を根拠として、甲土地の引渡しを請求していると考えられる。
(1)Bは令和2年4月20日、甲土地を4000万円でCに売却する旨の契約をCとの間で締結した(契約②)。しかし、当該契約は他人物売買であり、原則として甲土地の所有権はCに移転しない。
(2)もっとも、Cが甲土地を購入した時点で、甲土地の所有権登記はB名義であった。かかる登記の存在を信用したCは保護されないか。
 ア まず、AB間に通謀がないため、94条2項を直接適用することはできない。
 イ しかし、同項の趣旨は、虚偽の外観作出に帰責性のある本人の犠牲において、かかる外観を信頼する第三者を保護するという権利外観法理求められる。そこで、①虚偽の外観が存在し、②虚偽の外観作出について本人に帰責性が認められ、③第三者の正当な信頼が認められる場合には、同項を類推適用し、かかる第三者は保護されると考える。そして、②については、帰責性の程度が、自ら外観の作出に積極的に関与した場合や、これを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重いものと認められる場合には、本人に外観作出の意思がなくても肯定できると解する。
 ウ 本問では、Cが甲土地を購入した時点で甲土地の所有権登記はB名義であり、虚偽の外観は存在した(①)。しかし、AがBに対して所有権移転登記手続きに必要な書類等の交付を行ったのはBから抵当権の抹消登記手続に必要であると偽られたからであり、契約①の売買契約書の偽造もBが単独で行っている。これらの事情から、Aの帰責性の程度が、自ら外観の作出に積極的に関与した場合や、これを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重いものとは認められない。(②不充足)
 エ よって、同項は類推適用されない。
(3)よって、Cのかかる請求は認められず、AはCからの請求を拒むことができる。
第2 設問1(2)
1 Dとしては、AB間における令和2年4月12日の甲土地の売買契約の締結(契約④)がDに対する詐害行為であると主張し、詐害行為取消請求権に基づく本件売買契約の取消請求権(424条の5)を行使した上で、Cに対し、自己へ所有権移転登記手続をするように求めることが考えられる(請求1)。
(1)まず、詐害行為取消請求権に基づく契約④の取消請求権の行使が認められるのか検討する。
ア かかる請求権の行使が認められるためには、㋐受益者に対して詐害行為取消権(424条)の行使が可能なこと(同条本文)、㋑転得者が転得当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたこと(同条1号)が必要となる。受益者に対して詐害行為取消権(424条)の行使が可能」といえるための客観的要件としては、㋐-1被保全債権の存在、㋐-2被保全債権の発生原因が詐害行為前に生じたものであること(424条3項)、㋐-3保全債権の必要性、すなわち債務者の無資力、㋐-4財産権を目的とする行為であること(424条2項参照)、㋐-5詐害行為に当たること(424条1項)が、主観的要件としては、㋐-6債権者を害することについての債務者の悪意が必要となる。
 ここで、本件のように登記移転請求権を被保全債権とする場合、特定物債権たる移転登記請求権が被担保債権となるかが問題となる。この点について、特定物債権も究極的には金銭債権たる損害賠償請求権に転化するので、これに転化する場合には被保全債権となると解する。本件において、甲土地の所有権が契約④によりAからBに移転しており、同契約に基づいて甲土地の所有権移転登記がBになされていることでAのDに対する甲土地の所有権移転登記債務が履行不能になり、移転登記請求権が損害賠償請求権に転化しているといえる。よって、本件において特定物債権たる移転登記請求権が被担保債権となる。
 そして、取引の安全のための177条と責任財産保全のための424条とでは制度趣旨が異なる以上、177条の「第三者」に当たる者に対しての詐害行為取消は可能であると解されるところ、Aに対しての詐害行為取消は可能である。
 イ(ア)㋐について
まず、㋐-1 DはAとの間で契約③を締結しており、同契約に基づく所有権移転登記手続請求権を有するため、被保全債権の存在が認められる。次に、㋐-2かかる被保全債権は契約③の締結日である令和2年4月2日に発生したものであり、詐害行為と主張する契約④が行われた令和2年4月12日以前であるといえることから、「その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである」(同条3項)といえる。また、㋐-3甲土地はAが所有する唯一のめぼしい財産であり、Aは無資力にあり、債権保全の必要性があるといえる。さらに、㋐-4契約④は甲土地という財産権を目的とする行為である(同条2項参照)。その上、㋐-5契約④はAが所有する唯一のめぼしい財産である甲土地をBへ売却するものであり詐害行為に当たる。そして、㋐-6 Bが契約④を締結するに至ったのは、Aが甲土地を売却した相手が、かねてより恨みを抱いているDであることを知って、契約③を阻止し、Dに損害を与えようと考えたことにあることから債権者を害することについての債務者の悪意が認められる。
(イ)㋑について
 ㋑Cは契約⑤の締結にあたり、契約③の存在やAが十分な資力を有していないことについてBから説明を受けていたことからすれば、転得者が転得当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたといえる。
ウ よって、㋐㋑の要件を満たし、詐害行為取消請求権に基づく契約④の取消請求権の行使が認められる。
(2)その上で、直接自己に対する所有権移転登記請求をすることができるか。
 この点について、詐害行為取消権は、債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものである(425条)。かかる制度趣旨に照らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできず、直接自己に対する所有権移転登記請求をすることができないと解する。
(3)よって、かかる請求は認められない。
2 Dは契約④について詐害行為取消請求権に基づく本件売買契約の取消請求権を行使した上で、Cに対してAへの所有権移転登記手続きを請求することが考えられる(請求2)。
上述の通り、Dは詐害行為取消請求権に基づく契約④の取消請求権の行使が認められる以上、かかる請求は認められる。
第2 設問2
1 FはGに対し、賃貸借契約に基づく賃料支払請求として、債務αの弁済期経過前に発生した同年5月分の賃料と弁済期経過後に発生した同年6月分の賃料を請求することが考えられる(請求3)。
2 かかる請求に対して、Gは㋐の主張を行っている。㋐の主張は、本件賃貸借契約の目的物である乙建物の所有権が契約⑦によりFからHに移転し、Gが乙建物の引き渡しを受け、対抗要件(借地借家法31条)を具備したことで、賃貸人たる地位もGからHに移転する(605条の2第1項)ことを根拠とする。
3 ㋐の主張に対して、Fは㋑㋒の反論を行っている。以下㋑㋒の根拠及び当否について検討する。
(1)㋑について
まず、㋑は、契約⑦が譲渡担保契約であるところ、605条の2第1項は適用されないことを根拠とする。
次に、かかる反論が認められるか。本件における所有権移転登記の原因事実はFH間における消費貸借契約に基づく1000万円の貸金債務を担保する目的で乙建物をHに譲渡する契約(契約⑦)を締結したことにある。そして、譲渡担保契約の法的性質は、所有権移転形式を重視し、所有権は譲渡担保権者に移転するが、所有権を担保の目的以外には行使しないという義務を負い、受戻権が消滅するまで確定的な所有権は移転しないと解する。そして、605条の2第1項の根拠は、賃貸人の主たる債務である目的物を使用収益させる債務は、賃貸人が誰であっても履行方法が特に異なることはなく可能であることにある。上記の通り、譲渡担保権者は所有権を担保の目的以外には行使しないという義務を負い、確定的な所有権は移転しない以上、賃貸人の主たる債務である目的物を使用収益させる債務を賃貸人に対して履行することはできない。よって、605条2の第1項の根拠は、譲渡担保契約においては妥当せず、同項は適用されない。
したがって、かかる反論は認められる。
(2)㋒について
 まず、㋒は、債務αの弁済期が経過するまでFが乙建物の使用収益をする旨の合意があるから、「賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意」及び「譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意」があるとして、賃貸人たる地位が移転しない(605条の2第2項)ことを根拠とする。
 次に、かかる反論が認められるか。本件において、FはHとの間で債務αの弁済期が経過するまでFが乙建物の使用収益をする旨の合意をしている。かかる合意を「賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意」及び「譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意」とみることができるかであるが、建物の使用収益を認めている以上、前者の合意と見ることは可能である。しかし、賃貸借契約の成立要件である、賃料についての合意がなされているとは評価できないため、後者の合意とみることはできない。
 したがって、かかる反論は認められない。
4 その上で、令和5年5月分と6月分の両方について本件請求が認められるか。
 上述の通り、譲渡担保契約においては、受戻権が消滅するまで確定的な所有権は移転しないと解する。そして、期日に弁済されないというだけで担保設定者の受戻しが不可能になるとするのは妥当ではないため、清算等の処分が完了した場合にはじめて譲渡担保権設定者の受戻権が消滅すると解する。本件において、本件譲渡担保契約が帰属清算型なのか処分清算型なのかが明らかではないが、仮に帰属清算型であったとしても、担保権者であるHからFに対して適切な清算金の支払いないし提供又は清算金がない旨の通知はなされていない以上、受戻権は消滅していない。
よって、Hは確定的に乙建物の所有権を取得しているとはいえず、Fとしては、Gに対し、令和5年5月分と6月分の両方について本件請求が認められる。 
第3 設問3
1 MはLに対して死因贈与契約(554条・549条)に基づく履行請求として、丙不動産の所有権移転登記手続請求をすることが考えられる(請求4)。
(1)Kは令和6年1月17日、Mとの間で「Kが死亡したときには、丙不動産をMに与える」旨の贈与契約(「契約⑧」)を書面で締結した。また、Kは令和9年5月1日に死亡(882条)しており、Lはその子(887条1項)である。そして、丙不動産の所有権の登記名義人はKのままである。
 よって、請求の基礎が認められる。
(2)これに対してLは「契約⑧は、その後にKがN県に丙不動産を遺贈する遺言をしたことにより、撤回されたはずである」旨の主張(㋓)を行っている。かかる主張の根拠は1023条が死因贈与契約においても準用されることにある。
Lのかかる主張に対してMは、まず、死因贈与は契約であり、KとMとの間には契約関係が存在する以上、譲渡人が単独行為として撤回を行ってもかかる撤回は無効であると反論することが考えられる(反論①)。次に、書面による贈与の撤回は認められないところ(550条反対解釈)、本件においても撤回は認められないと反論することが考えられる。そこで、Lの㋓の主張及びMの反論の当否について検討する。
(3)ア 反論①について
この点について、死因贈与契約においては、その性質に反しない限り遺言についての規定が準用されるところ、死因贈与をした後に遺言をしたような場合には1023条を適用して、死因贈与契約を撤回したものと判断することができる。
 よって、Kは令和8年10月1日、丙不動産をN県に遺贈する旨を記した適式な自筆証書遺言を作成し、同日LとN県に通知しているところ、かかる遺言の存在により、本件死因贈与契約を撤回したものと判断することができる。そのため、Lの㋓の主張が認められ、Mの反論①は認められない。
イ 反論②について
 550条の趣旨は、贈与の意思を明確にするとともに軽率に贈与しないよう戒め、紛争の発生を防止することにある。一方、遺言による意思表示は極力尊重されるべきものであり、一般的な紛争予防を趣旨とする550条の要請よりも尊重すべきものと言える。
よって、遺言でなされた贈与の撤回は認められるべきと解するべきであるところ、Mの反論②は認められない。
(4)したがって、かかる請求は認められない。
                                   以上

最後まで閲覧いただき,ありがとうございました。

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