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幼馴染の友達、たぶん永遠にさようなら。

幼馴染の F とは、小学校1年生で同じクラスになった。つまり出会いは今から50年前なのだった。
しかし、数年前から連絡を取り合っていない。
彼女から「しばらく距離を置きましょう」と、言われたからだ。


昨夜、実家の母から電話が掛かってきた。F から電話があったという。
「森野さんとは、いろいろあったから」
と断り、実家に連絡してきたそうだ。
要件は、中学校時代の恩師の訃報だった。
詳しくは、電話をくれれば話す、とのことだった。

私の手元にある電話番号は、数年前に仲違いした時のものだ。試しに掛けてみるが、呼び出し音のまま。実家に残った F の着信履歴の番号に掛けても同様だ。

(知らせてはきたものの、私と話したくないんだな)
そう思った。

しかし翌日、Fの家の電話に掛けてみると、なんと彼女が出た。何のわだかまりも無いような声に、私は少し意外に思いながらも、話を続ける。
「久しぶり。昨日、実家で電話をもらって………。先生が亡くなったんですって?」
「そうなのよ。驚いたわ」
と、Fは、先生の訃報を誰から聞いたのか、亡くなった様子などを話してくれた。

「ご両親はどう?」
私の言葉に、F は鼻で笑った気配がした。
「大変だったわよ。父は骨折したのに、3回も病院を脱走するから、強制退院。………………………。母は近くのホームに入ってる。………………」
一通り、彼女のご両親の話を聞いたので、私が、
「私はね、夫が認知症になって、要介護1なの」
と言うと、しばらく沈黙があった。と、そのまま電話が切れたのだった。

もう私とは話す気はない、ということだろう。
回線が切れたのかもしれないので、一応、しばらく待って掛け直してみたが、もう彼女は電話に出なかった。


数年前、彼女から「しばらく距離を置きましょう」と、言われたのは、喧嘩をしたからだ。彼女が何に腹を立てているのか、私には正確には分からない。
ただ、夜に彼女からLINEが入り、絡まれたので(後から思えば彼女はたぶん、酒に酔っていた)、つい、”昔のこと” を持ち出してしまったから、傷ついたのかもしれない。
当時の私は、F と仲良く友達付き合いをしながら、内心では ”昔のこと” で、彼女を許せていなかった。だから、LINEのやりとりがエスカレートして、私も感情的になってつい、蒸し返してしまったのだ。


子どもの頃から私たちには、共通の友人がいた。「共通の友人」という言葉では軽い。姉妹のような、同志のような、間違いなく「身内」という感覚だった。
その友達が二十歳でこの世を去り、私たちはそれぞれ、彼女のお母さんから形見の品を頂いた。
しかし、私が頂いた形見の品は、訳あって一時的にFと交換し(Fの提案だった)、そのまま失くされてしまったのだ。F は形見の品をポケットに入れたまま走り、失くしたという。

”昔のこと” とは、その少し後の出来事だ。
当時、私には好きな人がいたのだが、ある日、F が言った。
「あなたの好きな人に会ってみたいんだけど」
F がそう言うので、私は飲み会の席をセッティングした。私とF、私の好きだった人と、その男友達。
飲み会がお開きになり、私たちは店の前で解散した。
そして翌朝、F から電話が掛かってきたのだ。
「昨日、彼の家に泊まったの。彼と寝た」

なぜわざわざ、私に知らせてきたのかが分からない。
Fとその人がその後、付き合ったというわけでもないようだ。
私にとってFは当時、最も親しい友人であり、同じ喪失を抱える、ただ一人の人物だった。だから、Fの行いによって私は、胸を刃物で刺されたような感覚を持った。

とはいえ私にとっては、過去の男の件などよりも、形見を失くされたことのほうが許しがたい。しかし、形見を失くしたことに悪意はないから、責めようがない。
「失くした」というのが、事実なのであれば、だけれど。

それでも私は、F と縁を切ることができなかった。

その後、F から「距離を置きましょう」と言われたのに、なんだか見捨ててしまったような気がして、気になっていた。こんな発想をしている時点で、「ダメ」な関係の気配しかない。
今から思えば、私は内心では彼女を軽蔑しており(不倫そして不倫、略奪婚の失敗のほか、書くことも躊躇われる彼女の異性関係は、私の感覚からするとバカみたいだ)、彼女はついに、私の内心の軽蔑を感じ取ったのかもしれない。
彼女はきっと、裏切られた気がしただろう。
いや、彼女にはたぶん、全く別の物語が存在し、それによって彼女は腹を立てているはずだ。
私は彼女を軽蔑し続けていた訳ではない。彼女の心配をしたのも、共感したのも、本当なのだった。


私たちはお互いに、暗部というか、ダメな部分、闇の部分を知っている。
F は私の本性を家族の次に、もしかしたら家族よりも知っているだろう。私もまた、彼女とは違う種類の苛烈な性質がある。
私たちは一緒にいることで、明るい、ポジティブな方向を向くことができないようだ。たぶん、そういう「縁」なのだと思う。

だから、今度こそ本当に、さようなら、F 。
あなたの今後の人生における健闘を祈る。





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