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成長痛

夜中に、隣で寝ていた娘が、

「足が痛いよう」

と顔をしかめている。

脛あたりを、さすりたそうだが、眠そうで、
ううーん、ううーん。
と唸っている。

時計を見ると2時。


眠い。


気がつかなかったふりをして、
目を閉じるが、
もそもそと横で足をくねくねさせている娘の動きは止まらない。

「痛いようぅぅ」などというので、
仕方なく体を起こして、足をさする。
足の裏マッサージもしてあげる。
足の裏マッサージをしてあげたら、すぐに寝るんじゃないか、と思いつつ
モミモミモミモミする。

眠い・・・・。

私が寝落ちしそうになると、娘が「ああ、まだ痛い」と嘆く。

「大丈夫、寝たら治るよ」

という、これまでいろんな場面で、数々の親たちが無責任に放ってきただろう言葉を思わず放ってしまった。が、娘は

「痛くて眠れない」と返してくる。

隣で優雅にいびきをかいて、一向に目を覚ます気配がない夫に、
イラっとしてしまうのは、子供たちが乳児だった頃の、あの
ミルクあげる時間で泣いてるのに、なぜ目が覚めないのか問題という
遠い昔のイラだちを思い出すからだろうか・・・・。

娘の足をさすりながら、プンスカしてるとだんだん目が冴えてきた。

と思ったら、娘が寝息を立てている。

やれやれ、としばらく目を閉じて、ようやく私も再度寝入った頃、
また娘が

「足が痛いよう」

と、これをこの夜は3回繰り返した。

***

翌朝になって、元気になった娘は学校に行き、
私は、寝不足の頭で、コーヒーを飲みながら、思い出した。

成長痛ってやつだ、と。

私も、娘と同じ、5年生の頃、背がぐんぐん伸びて、
膝がいつも痛かった。
かいても叩いてもその鈍痛は消えず、イライラした。

膝の骨をパカっと開いて、その中にあるぐちゃぐちゃした軟骨や筋肉や、
体液をスプーンでかき混ぜてほぐして、そして痛みをとって、
また膝の骨を閉じる。

そんなことができたらいいのに・・・と思い続けていたことを、
ちょっと懐かしく思い出した。痛い感覚っていつまでも残るものだ。

そして、そういえば、息子の方は、スーパー成長期だったはずの5、6年生の時に、成長痛を訴えることが一度もなかったな、と気づいた。

彼は男子にしては、成長スパークが人より早くきて、4年生の終わり頃から、ぐんぐん身長が伸び始めた。
第二次性徴も人より随分早く始まり、声も変わるわ、顔も変わるわ。

修学旅行では引率の先生より背が高くなり、引率の先生に間違えられていた。

1年半で20cmくらい伸びたのだ。それなのに。

なぜあいつは痛いと言わなかったんだろう?

息子の背中には、熊に引っ掻かれたような、傷がある。
妊娠中にお腹が急激に大きくなりすぎて、傷のような皮膚の割れ目が出ることがあるが、あれと同じやつだ。

背中一面に大きな傷がいくつもあるのだけど、
痛くなかったはずはないじゃないか。

でも、息子はその傷に気づきもしないで、6年生の時体育の時間に着替えをしていると、友達に

「お前、熊にでも引っ掻かれたのか!?」と驚かれてようやく気づいたという。どこまで鈍感なのだろう。立派なことだ。

****

そんなふうに、うちの子たちは二人とも、
無事に成長痛を通過して(?)、
ぐんぐんと成長してくれている。

ありがたいことだ。嬉しいことだ。

昨日娘が和室にやってきて、
私の横に布団を敷いて寝たのは久しぶりのことで、
普段は彼女は、自分の部屋のベッドで寝ている。

時々、気分で戻ってくるものの、もうすぐすれば、
息子と同じように、ご飯の時以外は、
部屋からそうそう出てこなくなるだろう。

背が大きくなったね。
体つきがたくましくなったね。
声が変わったね。
すっかり大人っぽくなったね。

そんな声を、子どもたちが小さな時から見守ってくれている
ママ友や、小児科の先生が、会うたびに聞かせてくれる。

誇らしい気持ちで、子どもたちを見つめる私。

でも、胸がちくりとする。

ああ、もうすぐだ。もうすぐ、この子たちは
ものすごいスピードで、この場所から
もっと遠い場所に、行ってしまうだろう、と。

私の背よりも大きくなって、
私には、できないことができるようになって、
私がみたこともない場所にたどり着いて、
私よりもずっと大切な人と出会って、
夜中に足をさすったことも、
ご飯やお弁当を作って持たせたことも、
思い出さないくらい、
幸せに生きてくれるだろう。

残った私は心配ばかりし続けて、
自分の胸を一人でさすっているんだろう。

ああ、なんて、なんて罪深いのか。成長痛。

私は今から、どでかい痛みが、私の胸を襲うのを、怯えている。

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