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「シング・ストリート未来へのうた」ジョン・カーニー監督作品(アイルランド映画祭2023)

時代を共に過ごした海外の友達が出ているような愛着感で何度も観てしまうこの映画。
インスピレーションを感じあった仲間が集まり、音楽が生み出される“特別な瞬間”を描くことができる希有かアイルランド人映画監督ジョン・カーニーの「ONCE ダブリンの街角で」(近くミュージカル版が日本でも上演)、「はじまりのうた」に続く作品「シング・ストリート未来へのうた」。
舞台となったダブリンは、その後、産業転換や市場開放策で、「ケルトの虎(Celtic Tiger)」と言われた急激な経済発展を遂げる前の1985年。彼の地に住むことの閉そく感が描かれるとともに、パンク、ニュー・ウエーブを起爆剤に新しく生まれ変わったイギリスの音楽が、MTVの力もあり、大衆化し、アメリカへも進出しようとしていた時期。
ティーンエイジャー特有の恋のときめき、現実と妄想がごっちゃになりながら、主人公がバンドを集め、稚拙な曲を自作、親のクローゼットから拝借したさえない衣装と下手な化粧で、プロモーションビデオを製作と当時誰もがやったことが描かれます。
加えて、裕福な家庭の子弟として、通っていたイエズス会運営の私立学校から、父親の失業によりカソリック経営の公立学校への転校を余儀なくされる大英帝国映画お決まりのモリッシーが歌ったような絶望的な学校生活。当時アイルランドでは離婚が認められなかったようで、それが子供たちに与えた家庭環境。
『トップ・オブ・ザ・ポップス』やMTVを十分リサーチをしたと思われる映像のムードsそして、敢えてメンバーに黒人を入れることも,あこがれのThin Lizzy のPhil Lynottや
主人公が片思いをしていたモデルの彼氏のスポーツカーから流れるダサいPhil Collinsなど、当時の価値観が描かれるディテールも素晴らしく、バンドが学校の体育館で初ライブを行うまでが当時を体験した監督の自伝的要素も含み描かれます。
Duran Duran「Lio」,The Cure 「Just like Heaven」 Hall& Oats 「Man Eater」が流れ、
バンドがその曲を参照しながら作る曲を監督が元Danny WilsonのGary Clarkに依頼した如何にもな楽曲が、素晴らしい。
当時のイギリスの音楽シーンがいかにキラキラし、みんながかの地へ向かおうとしていた時代。
エンディングで、映し出されるカーニー監督のメッセージは、"For Brothers Everywhere"
そう。あの時代、なにかを感じて、稚拙な歌詞と演奏にも関わらず、音楽を始めた世界中の若者たちへのオマージュ。


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