「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」
クラウド・ファンデイング発表以来、心待ちにしていた映画がやっと公開になりました。
Roxy Musicのオープニング・アクトとして起用されたサディスティック・ミカ・バンド。英有力音楽誌に取りあげられたり、BBCの音楽番組「Old Grey Whistle Test」にも出演し、現地で大きな話題となったという彼らのイギリスでのパフォーマンス。
スタッフによるカセット録音「Live In London」が僕のトノバンを新たに意識したきっかけでした。コミックソングを超えてシュールとも言える「帰ってきてヨッパライ」、感動的なほどの名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」などSSWとしてイメージしていた彼の転身ですが、当時 僕はそれ程違和感がなく、もしかしたら、アルバムのジャケットで軽やかにロンドンの街を歩く、自信に満ちた表情ゆえかも知れません。
そしてその写真が、この映画のポスターにも使われています。
日本人離れしたセンスと身長のトノバン。
生まれは京都で祖父は仏教の世界の人 そしてその後、東京で育ち長く日本橋に住んでいたという生い立ちがどのようにキャリアに影響していたか。
ミーハーで欧米の流行に敏感でカメレオン(DavidBowieを思わせますが、僕はトノバンの方が、何か変わらないものを持ってる気がします。)のように変わっていった彼。何がそうさせたのか。
そして、当時トキメクYMOのメンバーたちをスタジオミュージシャンとして使いこなし制作されたヨーロッパ3部作で頂点を極め、その後亡くなるまで 徐々に時代と乖離はじめ、ミカバンドやフォークルの再結成などを行うも、トップランナーではなくなってしまった彼が何を感じていたか。
などもうちょっと知りたい事がこの映画で何かヒントがあるかもと期待していました。
フォーク・クルセイダーズ時代からの盟友であり、精神科医でもある北山修さんの彼の内面を覗いたコメントなど、僕の疑問を解いてくれそうなもので期待できる始まりでしたが、関係者のコメントに重なるレコードジャケットとすぐフェードアウト楽曲の繰り返し。なんか浅い感じが漂います。バブル前の芸術が咲き乱れた時代を奇跡的な完成度で具現化したヨーロッパ三部作もさらっと取り上げられるだけで、また ミカバンドやフォークルの再結成、和幸、屋敷豪太、土屋昌巳とのVitamine-Qの活動はほぼ取り上げられず、最後はクラウドファンデイング協賛者も含めての「あの素晴らしい愛をもう一度」の合唱で感動的に締めるというのは、トノバンのカッコ良さとはちょっと違うかなと思いました。色々言いたいことを書きましたが、クラウドファンデイングの出資者への目配せも必要だったとろうし、それほどトノバンの才能や活動を総括するのは並大抵ではないと思うので、彼のキャリアを描く映画がもっともっと観れたらいいなと思います。