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小説

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#掌編小説

初恋、失って、失わなくて。

こちらの企画に参加させていただきます。3月14日まで募集中だそうです。 ❄️ 日和は、初恋と言うドラマを見ながら、自分の初恋にタイムトラベルする。一軒家の玄関先では少しでも暖かさを求めたデブ猫が日向で寛いでいる。 ◇ 思い返せば、小学生の頃、なんであんな奴の事が好きだったのか分からない。 日和は虎太郎のことが六年間好きだった。 虎太郎は日和たちが熱狂していたアイドルとは真逆の容姿をしていた。 髪は丸刈りで、そのくせ少し髪が伸びてきたら必ず後頭部に寝癖をつけて登校

4949(ショートショート)

嫌になったの? 言葉にすら昇華されない、内なる想い。何もかも無くなったマンションの一室。秋。実り。かぼちゃ。さつま芋。ほくほく。紅葉。どんな紅葉を観ても単純には楽しめない。 知っているから。 この後、無惨に散ってドス黒くなるまで踏み付けられるって。 恋愛だってそう。 単純に楽しめてたのっていつくらいまで? もしかしたら初めて付き合ったあの人の時だけだったかもしれない。 知ってしまったから。 原因がどうとか、振ったのがどっちとか、性格が合わなかったとかって関係な

      余白

まだ家具も家電も届いていない引越し先で、独りで夜を過ごしてはいけない。奴が来る。奴が現れた所に暗闇は無い。窓も床も血痕も全て白に染まっている。奴の前では全て無駄。どれだけ悲鳴を上げようが、包丁で幾度突き刺そうが、奴には届かない。誰にも響かない。逃げ場は無い。できることは一つ。奴と対峙したならば、自らの死を覚悟する。それだけは可能。それ以外は不可能。これだけ私が注意喚起しているのに、ほら、またあそこ。カーテンも付けずに眠りに堕ちようとしている若い娘がいるぞ。そこには、必ず、奴が