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跳ね返ってきた音から響きを創り上げる

今日は「クラシック音楽専用に造られたコンサートホール」についてのお話です。

奏者は、弾きながら客席へ響く音を聴くことは出来ません。永遠の、叶わぬ夢です。舞台上でそれを的確に想定して弾くこと、演奏の本質はここに在ります。楽器から直接出た音ではなく、跳ね返ってきた音を頼りに創り上げていく小宇宙です。

まず観客の視点で考えると、どのようなホールが良いのかを考えてみましょう。気になるのは、「舞台の高さ」と「客席1列目の高さ」との関係です。舞台の方がかなり高い場合、客席に座る人が潜った状態になってしまうので、舞台上の音は、前の方のお客さんの頭上を通り抜けて放物線を描いて飛んでいってしまいます最前列から客席の勾配が始まる手前までは、あまり音響に包まれないことが多いです

もし2階正面バルコニー中央席があるならば、そこが一番ベストな席です。VIPに用意する特別席は、この位置です。やはり何と言っても、2階正面バルコニー中央席は別格ですね。

次に弾き手の視点ですが、残響時間の長さは、講演プログラムに合わない場合も多々あります。例えば、演目が古典派中心の曲ならば、残響時間が長いホールだと、絶対にかぶさってほしくない前の響きがホールに残っていて、大変弾きにくいです。さしずめ、お風呂の中のようです。

また、ロマン派フランス近代などの演目で、響きの無いデッドな場所だと、前の音にかぶせたい響きをかぶせられなくて、これもまた弾きにくいです。広さや場所柄よりも、「ホールの残響時間」と「やりたい演目」が合っているかどうか、が問題です。

ホールに置いてあるピアノの状態は、とても気になるところです。殆どの場合、諸般の理由で自分の楽器は持ち込めないので、ピアノでホールを選ぶこともあるでしょう。

客席を包み込む響きを、舞台上で演奏しながら想定する力を付けるには、色々なコンサートホールの客席に座ってみることをお勧めします。"観客"としての体験が、その力を育ててくれます。

コンサートホールは、それ自体が楽器です。残響の質や残響時間を精密に設計したもう1つの共鳴体です。奏者は聴いて下さる方々と一体化して、その中に包まれています。

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