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おすしは好きだけどちょっと切ない~10代のこと

おすしは美味しい
嬉しいこと、喜ばしいことがあった時に
食卓にのぼるメニューのトップ3かも知れない
こどもたちも大好きで、みんなの笑顔を見るのがこの上なく嬉しく
幸せな気持ちにさせてくれるご馳走だ

そんなおすしも、出てくる時と所と場合によって
とても苦痛なものになることもある

それは中3の頃
常に家庭不和の我が家
母は父親の暴力に耐えかねて何度も逃げ出したり戻ったりを繰り返していた
その時も家を空けてた時期だった
お昼は自分でお弁当作ったりパンを買ったりで
その日はパンを買うつもりが、何を思ったのか父親が
『昼休み、弁当届けてやるから校門まで来い』
と言い出した
一度は『パン買うからいいよ』と断るも
『せっかく届けてやると言ってるのに』と怒り出し
仕方なく『お願いします』と…

昼休み、重い足を引きずり校門へ行くと
門の向こうに手に紙袋を下げた赤ら顔の父親が待っている
『遅かったな』
『ありがとう』
ひったくるように受け取り、急いで教室に戻る
袋を覗いた後、全身の血が集中するのが分かるくらい
顔が真っ赤になった

それはおすし屋さんの包装紙に包まれたおすしだった
触ってみて、それが巻きずしの類ではないことはすぐに分かった
隠すように紙袋を膝の上に置いて包みの端っこから確認すると
それは紛れもない【握りずし】だったのだ
しかも、2人前はあるぞ…
(折箱をケチったのか、三つ折りの経木?に直に並べられてた!)
慌てて包み紙を戻し紙袋の口を折り込んだ
泣きそうになったけど、必死で我慢した
『何で握りずしなんか、お弁当にもってくるの!?』
怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤っかのまま戻らない

そのうち、においが気になり始めた
暑い時期ではなかったけどそのままだと傷むだろうし
すし飯の酢のにおいが漏れてくるような気がして
ニオイませんようにと祈りながら
こっそり体操服でくるんでロッカーにしまい込んだ
捨てたらバチが当たるような気がしたし
それ以前にこんな究極の生ものをどこに捨てたらいいのかも分からなかった

そわそわしながら授業が終わるのを待ち一目散に走って帰った
予想通り、おすしを食べずに持ち帰った私に対して
父親は『せっかくお前のために買って持って行ってやったのに』と
激しく怒り、晩ご飯に食べるよう命じた
さすがにそれは出来ず、泣きながら謝り続けて
夜中になってやっと解放してくれたのだった

きっとあぶく銭でも入ったんだろうな
で、単純に娘が喜ぶと思って買ってやったのに
それを拒絶されてたいそう立腹したんだろう
親となった今はその気持ちは少しは分からないでもないが
さすがに微妙な年ごろのこどもの気持ちがわかってなさ過ぎて
笑いさえ込み上げてくる

おすし、好きなんだけどなぁ
やっぱり教室で食べるものではないよな(苦笑)

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