感染症に関わる3冊の小説 『ペスト』『ドゥームズデイ・ブック』『鏡は横にひび割れて』

コロナ疲れしている人や、なんとなく鬱っぽい人は、この種の本は読まないほうがいいと思います。メンタルを保つということは、すごく大切ですからね。メンタルは大丈夫なので感染症に関わる本を読みたいという方に、メインストリームから1冊、エンターテイメントから2冊、いずれも外国文学を選びました。

アルベール・カミュ『ペスト』

『ペスト』はあちこちで紹介されていますから、今さら紹介するのもどうかな、とも思ったんですけど、大学に入ったばかりのころ読んだ大量の本の中で、ひときわずしんときた小説の一つが『ペスト』です。ラストが重いんですね。
日本には「純文学」という言葉があります。外国文学における「メインストリーム」というのは、この「純文学」相当するものと考えていいでしょう。
カミュは『異邦人』を書き、『ペスト』を書き、非常に若い歳でノーベル文学賞を受賞して、交通事故でなくなりました。
煙草を手にした立ち姿が、非常にカッコいい作家でもあります。
ただ喫煙はコロナ の重症化リスクを上げますので、真似しないでね。
個人的には、エッセイの『シーシュポスの神話』も好きですが、小説ということになるとやはり『ペスト』ですね。

コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』

この人は一応SF作家に分類されるんですが、この人の傑作『ブラックアウト』や『航路』を読んでいると、メインストリームとかエンターテイメントとか、そういう分類にはあまり意味がないのではないか、という気持ちになってきます。『ドゥームズデイブック』もそうした傑作の一つ。
WHOは1980年に天然痘根絶宣言をしており、そのころ人類は「感染症を克服した」という気分に浸っていました。その中で警鐘を鳴らす映画や本が書かれ、本書もその一つといえるでしょう。
人類の歴史とは、感染症との闘いの歴史でもあるのだな、ということを痛感させる一冊です。
ただ、この本はとても長いです。しかも、登場人物たちが一見どうでも良さそうなお喋りをいっぱいします。
長編小説を読み慣れていない人は、退屈でイヤになるかもしれません。本は最後まで読まないと時間とお金の無駄になりますので、慣れている人向けの本と考えてくださいね。
ただし半分をすぎて、ラスト三分の一にいたると、ずしっと心にひびいてきます。

アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』

中高生のころ、ミステリやSFを読みまくりましたが、その多くはいわゆる「忘却の彼方」に消えています。ただ、アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」は別。
単に面白いというだけでなく、思考法といいますか、物事にたいしてどういう立ち位置で考えるか、ということのかなりの部分を、私はたぶんミス・マープルから学んだのだと思います。
たとえば、無自覚な犯罪、犯罪とは呼べないよいうな犯罪が人の一生をめちゃくちゃにすることもある、ということを教えてくれたのが、この『鏡は横にひび割れて』です。
ただ、ミス・マープルの教えで一番すごいと思うのは、「レッドヘリング」に引っかかるな、ということですね。

2020年1月、札幌には大勢の中国からの観光客がいて、公共交通機関に乗ると、インフルエンザが流行っているわけでもないのに、あちこちからたくさん咳が聞こえるという状況でした。とくに観光の目玉の一つである市電の状況はひどかったと思います。
しかしそのころの報道は、「軽い風邪のようなもの」「マスクは不要」「中国の失敗」という論調が多かったと記憶しています。(というか、そもそもまともに報道しているメディアそのものが少なかった)
でも、ミス・マープルならおそらくこういったでしょう。

「レッドヘリング(偽の手がかり)に引っかかってはいけないわ。その新しいウイルスというのは、ものすごくタチのわるいやつよ。だって中国はSARSを制圧しているんだから、初動で失敗したのが本当だとしても、ずっと失敗し続けるなんてことはありえない。科学技術についてもそうよ。HUAWEIを見てごらんなさいな。アメリカが本気で喧嘩を売るほどの技術を持っているのよ。そういう国が、あっさりと制圧に失敗するかしら?」

ミス・メープルは正しい。つねに正しい。
老婦人の人間観察、恐るべし、です。


付記:個人の好みで本を選んでいます。Kindle版の場合、専用のKindleアプリで本の一部をサンプルとして読むことができます。自分に合った本かどうかサンプルで確かめてから読むことをおすすめします。図書館が再開されたら、図書館を利用してもいいかもしれません。『ドゥームズデイ・ブック』の文庫は上下2冊組み。








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