立川文庫『真田幸村諸国漫遊記』ここまでの思い出の登場人物② ~奇妙なキャラクター編~

立川文庫続き読みで師匠と玉山で語り進めている『真田幸村諸国漫遊記』は次回で16週目。
先日は登場する大名たちについて書いた。
今日は登場する奇妙なキャラクター、その中でも特に印象に残っている2キャラクターについて書く。

まずは真田幸村一行が諸国を漫遊し始めた初期、四国・宇和島藤堂家を訪れた時に出会った大狒々だ。
この大狒々はすごい。

大きい狒々(ヒヒ)つまり大きい猿なのだけれど、とにかく強い。

山で藤堂家の殿、高虎が狩り遊びをしていると猛然と登場。人知を超える怪力と俊敏さ、残忍さで暴れまわって藤堂家の人々がガンガン殺されていく
本文から引用すると

「無二無三に荒れ廻って、近寄る奴を噛み殺し引き裂き」

である。ひどい。

猿如きに殺される?そりゃあ俊敏で力が強いこともあるだろうけど、さすがに江戸時代の大名家、鉄砲くらいはあるだろう、撃ち殺せばいいじゃないか、と思われるかもしれないが、この大狒々には鉄砲が効かないのだ。
なぜか。

身体中に松やにを塗りたくっているからである。

松やにと混ぜた石やら砂やらをを自らの毛皮に塗りたくって固めまくって、ガッチガチにしているので矢も鉄砲も通らないのだ。

倒しようのない大狒々に藤堂家一同ドン引きしている時に「私が倒す」と言って前に進み出たのが桑名弥治兵衛という豪傑。
大狒々と組み打ちになっていい勝負。しかしながらわずかに大狒々の力が勝って桑名弥治兵衛危機一髪のところで隠れてみていた真田幸村の小刀が飛んできて大狒々の目に当たって大狒々絶命、かっこよく幸村登場、という流れだ。

この大狒々のガッチガチに松ヤニで固められた姿を想像すると、なんだか少し滑稽だけれど人間に近い知能を持っている感じが少しして恐ろしく、猿の惑星感があって、印象に残っている。

もう1キャラクターは旅も中盤、伊達政宗に面会した後出会った山男だ。
幸村が猿飛佐助らを連れて恐山までやってくるが、皆とはぐれて一人きりになった時に幸村の目の前に現れたのがこの山男。

「髪はオドロに振り乱し、眼らんらんとして人を射り、身の毛もよだつその風体」

よくわからない。でもやばそうだ、ということは一目でわかる。時々大阪にも、そういう人はいる。ちょっと恐ろしい。
それが夜の山の中で急に目の前に現れる。怖い。
そしてこの山男、幸村の目の前に現れてひたすら幸村の真似をしてくるのだ。

幸村「ヤヨ、その方は何者じゃ」
山男「ヤヨ、その方は何者じゃ」
幸村「これは怪しからん」
山男「これは怪しからん」
幸村「はて、こいつは不思議な奴じゃワイ」
山男「はて、こいつは不思議な奴じゃワイ」
幸村「ふふん」
山男「ふふん」

意味がわからないが、髪はオドロに振り乱し、眼らんらんとして身の毛もよだつ風体をしているやつに真似をされていると思うと無茶苦茶恐ろしい
小便ちびる。
この作品の中では幸村はとにかく最強で、天下一の知恵者で武芸においても最強、冷静沈着で何のピンチもなく旅が進んでいくのだけれど、この場面だけはさすがの幸村もやばいと思ったのか

「フムウ、こやつはかえって抵抗すれば害をなすに相違ない」

と白旗状態。
これはとても珍しい。

結局この後この山男、幸村が焚いた火にくべられていた栗の実が爆発した音に驚いて逃走をしてそれっきり。ということになる。
幸村は「ハハハ、しょせん山男、栗が破裂して逃げ出すとは面白い」と不思議な笑いのツボ露呈。爆笑して終わり、ということになる。
しかしながら偶発的な栗の爆発が無ければどうなっていたかわからず、最強を誇る幸村を一瞬でも動揺をさせた唯一のキャラクター、ということで印象に残っている。

やっぱり変なやつってのが一番怖いのだ。


他にも四国の行者で炎を操る超能力者・荒見ヶ丘笹之進針で脚気を治す男・瑞巌寺の雲尾禅師など超人的な男たちが現れては活躍をする。忍術使いの猿飛佐助だって十分奇妙なやつだけれど。


そんな奇妙な奇妙なキャラクターたちも、立川文庫の魅力だと思う。
今後も奇妙なキャラクターの登場にご期待ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?