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大阪・十三から川崎・武蔵新城へ

1.南武線四連武蔵駅勢

武蔵溝ノ口、武蔵新城、武蔵中原、武蔵小杉…川崎市を走るJR南武線四連武蔵駅勢の中でも武蔵新城という街は地味である。

武蔵溝ノ口は渋谷方面へと向かう地下鉄が伸びているし、武蔵小杉は新宿三丁目や池袋、新横浜に向かう地下鉄が伸びている。この二駅はその利便性からか、大変に発展をしている。勤めをする人が住みやすいのだろう、住民が集まっている。

武蔵小杉などは普通ならば一駅に一つずつ分配されているはずの、いろんなテナントが入っている商業施設、トイレが各テナントではなく、階に一つか二つある、というタイプの商業施設、がいくつも立ち並んでいる。
ある種大艦巨砲主義の艦隊のような迫力が武蔵小杉にはある。そしてその迫力は街にうらぶれた感じを、陰というものを作らない。
自然街は清潔感をまとう。
安心な街となり、家族連れなどが集まってくる。
30代中盤、意味のわからない職業の柄シャツ寝ぐせの男が目的もなくうろついていると何となく、悪いことをしているような気になる、そんな街である。
ま、わかりやすく言うと「絶対に立小便のできない街」って感じになる。二子玉川なんかもその種の街だ。

武蔵溝ノ口。マルイや、イトーヨーカドー、大きなブックオフ、ドン・キホーテなどが軒を並べ、飲み屋も多く、ニトリや無印などが駅前のモールに入っているために武蔵小杉と比べると若干迫力は劣るものの、駅の周辺ですべての物資が揃い。酒も飲める取り回しの良さから言うと実質の実力は相当のものがある。

さて武蔵中原、そして武蔵新城である。
この二駅はJR南武線の駅で、どこかに接続をしている、ということはない。
武蔵溝ノ口-武蔵新城-武蔵中原-武蔵小杉という順番で並んでいる、その「中」の二駅である。自然、交通の便を重視する日本都心社会においては発展具合にも差異が現出することになる。

武蔵中原のことは圧倒的にわからない。
それはそうである。降りないのだ武蔵中原には。
どこかに接続しているわけでもなく、特に何か必要なオブジェクトがあるわけでもない。
クラフトビールを作っている醸造所があって、そこのビールとフィッシュアンドチップスがたいへんに美味であるから、おそらく開拓していけば掘り起こせるものは多いのだろうけれど、用事がないのでどうにもウロウロとすることがなく、開拓の機運が高まってこないのだ。

おそらく近隣に住む人々は僕の住まいする武蔵新城にも同じような目線を向けているのだろう。

降りる理由がない駅。探索をしない駅。

しかしおそらくではあるが武蔵中原がそうであるように、武蔵新城もこれで相当に住みよい街なのだ。
武蔵小杉にある迫力は確かにない。まったくない。緊張感というものの欠如した街である。寝ぐせも受容してくれる感じがある。
また武蔵溝ノ口のような取り回しも効かない。「ここに行けばなんでもある」という店は正直まだ見つけられていない。
ただ、迫力のなさはすなわち親しみやすさであろうと思う。

2.「あなたも立小便がしたくなる街・十三」


僕は大阪で暮らしてきた…と言えば語弊があるな。
大阪の十三で暮らしてきた人間である。

この十三という街は武蔵小杉の迫力とは逆の迫力を持つ街である。

武蔵小杉が「絶対に立小便ができない街」だとすると、
十三は「あなたも立小便がしたくなる街」である。

猥雑で不潔。小さい飲み屋、汚いバー、どこをマッサージしてくれるのかわからない「オニーサン、かわいい子いる、顔だけ見て、顔だけm一発、一万」などとの呼び込みを行う怪しい店、小さいとライブハウスと映画館、「あそこはやくざの事務所らしいで」という監視カメラ付きの豪邸が軒を連ねている。
だいたいがメインの飲み屋街の名前が「しょんべん横丁」である。
誰がどういうつもりでそんな名前をつけたんだ。

開店時間になると駅前のパチンコ屋にできる大行列。
その横、駅前ロータリーには酒(あの、コンビニとかで売っている、プラカップの焼酎類が多い)を片手にした歯のない高齢者がいつも屯していて、高齢者同士でいちゃついていたりする。

トー横キッズなんて言葉があるが、十三パチ横老人である。
不良だ。家に居場所がないのはトー横キッズと一緒なのかもしれない。知らんけど。
ただ、そういう十三パチ横老人をを包摂する空気や、生き残った個人商店の暖かみなんかは大変に素晴らしいものだ。

近くの米屋は米を買うとなぜか毎回箱ティシューを一箱サービスでくれる。この一箱に助けられた花粉症の夜が幾度あったか。
駅の東側に二軒あるケーキ屋はどちらも三百円でケーキを商うという価格競争のチキンレースでも行っているような風情でいていったいどうやって黒字を出しているのかはわからない。そして二軒とも大変美味い。
最近までハイボール一杯19円の居酒屋があり、夏場の昼間なんてのはサラリーマンがランチを食べながらガンガンハイボールを飲んでいたものである、
そういう街に僕は魅力を感じ、気に入り、長く住んでいた。

が、このたび仕事の塩梅により、武蔵新城という街に住むことになった。

3.武蔵新城と十三


武蔵新城という街は何となくそんな十三の香りがある街である。
もちろんパチ横老人の饗宴はないし、怪しいマッサージのおそらく違法な呼び込みもない。
やくざの事務所らしき建物も今のところ発見できていない。
商店街も「サンモール」で「しょんべん横丁」とはえらい違いである。
当たり前だけど立小便もしないほうがよさそうな街である。

しかしながら個人店が多く、商店街がしっかり稼働していて、飲み屋が充実している感じ、それらが織りなす猥雑さ。それでいてやたら縁日やバ.ザール、祭を行い、子供たち、新城キッズたちが闊歩している様子。
十三の猥雑で危険な感じをうまく抑えて、人情味、人間味、といったものを残し、子供も居てもいい感じの街に仕上がっていて、僕にとっては大変に過ごしやすいのである。

で、武蔵新城という街、街にお世話になっているということもありますから時々このnoteにおきまして、その武蔵新城での暮らしのほどを書き連ねていきたいと思います。

本当に実質的に、お世話になっていますから、基本的には良い面を書いていくことになると思いますよ。…十三っぽい、ってのが良いのかどうかはわかんないけど。
まあ、ともかく書いてゆきます。

そして僕は大変なさみしんぼう、でございますから記事を読んで「いいじゃない武蔵新城」と思った人は気軽に訪ねててみてくださいね。善い街です。
で、気にいったら住んじゃえ、と思っています。
いいですか、間違えて十三に行ったり住んだりしないようにね。

これからも僕は武蔵新城で暮らしていきます。

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