見出し画像

【3分解説】景気サイクルのつかみ方②(米国)

・景気サイクルをつかむためには、米国、欧州(ドイツ・フランス)、中国、日本の景気サイクルを統計情報から分析する必要があります。
・ここからは、前回ご説明した共通指標(①GDP、②鉱工業生産指数、③物価指数)は前提としながら、各国の景気サイクルを見る上で必要な考え方・経済指標をご説明します。
・まずは米国の見方についてご説明します。
考え方
・米国は世界最大の経済大国であるとともに、世界で生産された商品を輸入して消費する、世界最大の消費大国です。
・ですので、米国の景気が悪くなれば、世界各国の経済も米国向け輸出の減少を通じて景気が悪くなる、といったように、米国の景気サイクルが世界に波及する形になるわけです。
・なぜ、米国の個人消費が強いかというと、米国の個人は個人資産における株式の比率が高いことによるものです。
・どういうことかというと、そもそも、世界の多くの国の景気サイクルのドライバーは輸出となっています。米国経済が堅調になり、米国向け輸出が増えて、企業収益が拡大し、企業の雇用も増え、お給料も増えると個人消費が伸びて、企業収益が拡大し、、、といったループが回るのです。

・では、こうした国と米国が何が違うのか、というと、米国の場合、個人資産に占める株式・投資信託の保有比率が高い点にあります(個人資産の半分程度が株式・投資信託、日本だと1割強)。
・どういうことかというと、景気サイクルが回復局面に入ると、株価は景気に先行して先んじて上昇しますので、個人資産の価値が上昇した米国消費者の消費が増加します(資産効果)。これにより、輸出に頼らずに、企業収益が改善し、あとは先ほどと同じループが回るのです。つまり、先行きの期待が高まり株価さえ上昇すれば、自律的に個人消費が回復していくすごい国なのです。

統計
・米国の統計で重要な統計は、①雇用統計、②ISM製造業景況指数、③米消費者信頼感指数になります。

雇用統計
・先ほど確認したとおり、米国の景気サイクルを判断するうえでは、個人消費の動向が重要になります。個人消費は所得と連動しますので、この所得に関する基本統計である米雇用統計が最も重要な統計になります。
・雇用統計の中でも3つの指標、①失業率、②非農業部門雇用者数、③時間あたり平均賃金、が重要な項目になります。
失業率
・①失業率については、景気が良くなる程下がりますが、失業者には就業を諦めた人は算入されていませんので、景気回復期には、就業を諦めていた人が就活を再開することで、逆に失業率が高くなる減少が起きることがあります。逆も然りで、景気後退期には就業を諦める人が増えることで、逆に失業率が低くなります。
・米国の中央銀行であるFRBは、政策目標に雇用の最大化を掲げており、この失業率が5%をターゲットにしています。なぜ0%ではないか、というと、景気がマックスに良いときでも、希望する転職先とのマッチングやキャリアアップなど転職活動には一定の時間を要するため、一定人数は失業者がでることを想定しているからです。
・この雇用が最大化されているときの失業率を自然失業率とよび、5%程度と見込んでいるというわけです。
・以上から、失業率を景気サイクルの参考にするためには、前月からの改善状況と、自然失業率である5%からどのくらい乖離しているか、を確認する必要があります。
非農業部門雇用者数
・②非農業部門雇用者数は、農業部門を除いた雇用者数を指します。所得を雇用者数×賃金単価と因数分解すると、雇用者数に該当する数値です。前月からの増減幅が確認指標になりますが、特殊・季節要因で変動が大きい数値ですので、3ヶ月の移動平均(過去3ヶ月分を平均する)で均して確認する必要があります。この数値が20万人を下回っていると、失業率が改善する水準と言われており、景気にはポジティブと考えて良いでしょう。
時間あたり平均賃金
・③時間あたり平均賃金とは、農業部門以外の1時間あたりの平均賃金です。所得を雇用者数×賃金単価と因数分解すると、賃金単価に該当する数値です。平均賃金が上昇しているということは、景気回復が労働者にまで波及している、ということです。
・どのように見れば良いかというと、前月比の増減を見ることで、景気サイクルのどこにいるかの参考になりますし、前年同月比の数値と消費者物価の前年同月比の数字を比較することで、実質ベースでみた賃金が上昇しているか確認することができます。
・というのも、賃金が上昇しても、物価の上昇ペースが上回っていれば、実質的な所得は下がっていて、景気にはマイナスの影響が出ていると言えるからです。
・雇用統計がいつ確認できるかというと、米国労働省が毎月第1金曜日に公表しますので、翌日には主要な報道機関のニュースで確認できます。また、過去の時系列データは以下で確認できます。

※米国労働省HP

消費者信頼感指数
・雇用統計と同じく、米国経済・世界経済を左右する米国個人消費の担い手である米国消費者の景況感を示す重要指標です。
・非営利団体である全米産業審議会が算出しており、毎月5000世帯にアンケート調査(現状と半年後の景況感に関する項目)から回答結果を指数化(信頼感指数)しています。
・指数化に際しては、現状の景況感を示す指標が現状指数、将来の景況感を示す指標が期待指数となり、両者を合成したものが信頼感指数となります。
・毎月下旬には、その月の数値が公表されますので、速報性の高さがポイントです。
・見方としては、前月から信頼感指数が改善しているか、が重要です。
・また、期待指数は景気のトレンド変化を示す先行指標として確認できます。期待指数が上昇しているということは、消費者が将来の所得について楽観的になり消費が増加する可能性があることを示しています。

ISM製造業景況指数
・先ほどの2つの指標は消費者サイドから見た景気サイクルの情報ですが、こちらは生産者サイドから見た情報になります。
・米国の非営利団体である全米供給管理協会(ISM)により1915年から算出される統計で、米国の製造業300社以上に対して実施する毎月のアンケート調査から算出する指数です。
・生産量といった実額ではなく現場の感覚を表す数値です。逆に言うと、在庫調整のための減産や季節要因といった生産額に入りがちなノイズが入りづらいというメリットがあります。
・また、景気との連動性が非常に高いという特徴があり、見方としては50以上が景気拡大、42が実質GDPが0%水準と言われています。
・この指数がいつ確認できるかというと、翌月第一営業日には公表されます。景気との一致性が高いことから、景気動向をいち早く把握するために重要な統計情報です。時系列データは以下で確認できます。

※ISM

長くなりましたので、日本の景気サイクルのつかみ方については、以下にてご説明します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?