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【3分解説】時間を決めるのはだれか

・時間はどうやって決まるのでしょうか。
・例えば、お日様が出ている昼間であれば、その高さ・光の強さで時間を感じますので、地球の回転運動と連動している気がするのではないでしょうか。
・ですが、今の時間の正確な定義は、セシウムという原子の振動によって決まっているのです。
・しかし、時間が原子の振動で決まると言っても、なかなかイメージが結びつきませんよね。
・どうして時間はセシウムで決まるようになったのか。そもそもの時間の歴史をご説明しながら解説します。

・古くは、太陽の動きによって時刻が決められていました。
・世界最古の時計は、紀元前4000年頃の古代エジプトで使われていた太陽の動きで時間を決める日時計です。例えば、地面に立てた棒の影の長さや向きから時刻を確認していました。
・その後も、水や砂を使った時計が発明されましたが、正確性が高まったのはヨーロッパで機械式時計が登場した頃です。
・1300年頃のヨーロッパでは、キリスト教が広く普及したことで教会・修道院が各地に設置されました。そうした施設では、時刻毎の作法(祈祷や労働など)が厳しく定められていたため、時刻もまた正確かつ自動で教えてくれる仕組みが必要になったわけです。

・そこで、自動で時を知らせる鐘を鳴らす機械式時計が発明され、教会等の塔の上に設置されました。当然鐘の音ですから、教会だけでなく周辺住民にも聞こえてくるわけで、次第に都市部で生活する住民達の生活リズムを決めるようになっていきました。
・日本でもヨーロッパと同時期の室町時代の頃から時刻を鐘の音で知らせるようになりました。正午(12時)頃に9回鐘を打ち、その後は1刻(2時間)おきに鐘を打つ回数を1回ずつ減らしていき、真夜中(24時)のタイミングで9回に戻して、その後は再び1回ずつ減らしていき、正午(12時)で9回打つ、といった具合でした。
・結局、1日を24等分しているわけですが、これはもともとヨーロッパで始まった分け方で、その分け方が中国経由で日本に伝わったようです。
・1日を24等分するということは、日の入りと日の出でそれぞれ12等分していることになります。なぜ12を用いたかというと、おそらく12は非常に使いやすい数だったから、とが考えられます。1回12等分すれば、半分、3等分、4等分、6等分と分けられるので、便利な数になるわけです。(仮に13等分すれば半分にすらできず非常に使いにくいですね。)また、12をさらに5つに分割した60分割は、5等分にも対応可能になりますので、より使い勝手が増します(だから1時間は60分で、1分は60秒なわけです。)。

・時刻の標準化が行われたきっかけはヨーロッパで起きた産業革命です。蒸気機関を使用した鉄道や蒸気船が地域間を結ぶようになりましたが、地域によって異なる基準で時刻を測っていると、運行上問題が生じるようになりました。
・例えば、2時にA国からB国に3時着の予定で電車で出発した場合、A国の時計で2時がB国の時計では3時に1時間ずれているとすると、電車は時間通り3時に着いたつもりでも、B国の時間では既に4時になってしまっていて大幅な遅延になってしまいますね。
・このように、交通の時刻調整を正確に行う必要から、時刻の標準化(標準時)が行われるようになりました。
・具体的には、世界で統一基準となる時刻である標準時が定められました。イギリスにあるグリニッジ天文台を通る経線(地球をたてにスパッときった線)を0度の基準線(子午線)として定めて、地球の反対側の経線(日付変更線)に向けて東西にぐるりと15度ずつの24の時間帯に分けました。
・どうしてこのようなことをしたかというと、そもそも1日とは、古くから太陽の日の入り・日の出で決めてきたわけですが、これは言い換えると、地球がぐるりと自転で1回転する周期で測ったものです。(太陽側なら昼間ですし、太陽の反対側なら夜になります)
・地域間で時刻が異なるということは、この1回転する周期にずれが生じている、ということですから、1回転分の360度を24(古くからの時刻の分け方)で割ることで、便宜上15度ずつずれた24の時間帯に分けて時刻を管理するということです。
・ちなみに、子午線はガタガタした線になっていますが、これは同じ国の中では基本的に同じ時間帯に調整するためです。ですので、厳密には日本の中でも、例えば北海道と沖縄では1日の中でも異なる時間になる(北海道のほうが沖縄より時刻が先に進んでいる)、ということですね。(逆にいうと、正確なのは基準線である東経135度を通る兵庫県明石市や京都府京丹後市のごくごく一部だけ)
・この地球の自転を用いた標準時が生まれたことで、時間の定義も地球の自転によって正確に定義されるようになりました。

・つまり、地球の1回転する時間が基準(協定世界時:UTC)になるということです。ですので、1秒であれば、地球が1回転する時間の86,400分の1が1秒というわけです。(24時間=24×60(分)×60(秒)=86,400秒)
・ただ、地球の1回転というのは、太陽の日の入り・日の出で時間を感じるという人間の生活サイクルには見合った基準ではありますが、実際は速くなったり遅くなったり(潮の満ち引きで起こる海水と海底の摩擦など)するので、時間の長さを測る基準としては、厳密な正確性には欠けるわけです。
・より正確にするために、1967年に地球が太陽の周りを回転する時間(公転)を基準にしましたが、結局、どちらも速くなったり遅くなったりするため、やはり厳密な正確さには欠けるという欠点がありました。

・こうした自転や公転といった天文観測結果ではなく、もっと正確に時間を決める手段はないか、ということで開発されたのが原子時計です。
・原子時計は正確な時間を決めることができる装置で、正式名称は原子周波数標準器です。
・一般に普及するクオーツ時計は100年に1秒のずれが生じますが、原子時計は1~10万年に1秒のずれです。100回生まれ変わっても1秒のずれしか生じないということですね。
・ちなみに、クオーツ時計は、水晶に電流を流すと振動する仕組みを利用しています。小さな水晶に電流を流すと水晶が一定の周期で振動します。その振動を電子回路で電気信号に変換し、歯車を通じて時計の針を動かしています。
・仕組みとしては1927年に開発されましたが、一般の人々の手に届くようになったのは、日本の時計メーカーであるセイコーが1969年に腕時計として商品化してからです。電子回路の低価格化やセイコーが特許を公開したことでクォーツ時計市場に参入する企業が増えたことで、クォーツ時計の低価格化も進み広く人々の手に入るようになりました。
・原子時計は水晶ではなく、セシウムという原子を活用します。セシウムはとても安定した性質の原子ですが、ある特定の周波数(9,192,631,770Hz)の電磁波を浴びた時だけ反応します(エネルギー状態が高く(励起と言います)なります。)。
・周波数とは、1秒間に繰り返す波の数ですので、9,192,631,770Hzとは1秒の間に9,192,631,770回の波があるということです。逆に言えば、セシウム原子が反応したときの周波数のマイクロ波は、9,192,631,770Hzと言えるわけです。
・このとき、周期は9,192,631,770分の1秒になりますので、この周期を9,192,631,770倍したものが、1秒と定義できるわけです。
・原子時計は1955年にイギリスの国立物理学研究所によって実用化され、極めて精度が高かったことから、1967年、地球の標準時は、今までの天文観測による測定から原子時計による測定に移行しました。つまり、このときから時間の定義は地球の自転や公転ではなく、1秒=セシウム原子が9,192,631,77回振動する時間、として定義されることになりました。

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