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猫、公園

携帯もイヤホンも何も持たずに家を出てきてしまった

夜の人気のない公園
砂場に残された遊び道具は
暗い海に浮かぶ船のようにみえた
しかし海にしてはあまりに静的で、奇妙だった

夜が暗くて良かった
誰にも見つからない
誰にも驚かれない
誰にも心配させない

暗い公園の中には私以外にも影があった

少し目を凝らしてみると
そこに一匹の猫がいた

猫は私を見つけ、鳴き始めた
私は足を止めて砂場のフェンスにもたれかかり
鳴き声をきいていた

なんでお前はないてるの
迷子なのか
お腹がすいたのか
それともさみしいのか

その猫は痩せ細っているわけではない
どちらかといえばずっしりとした身体つき
でも、首輪を持っていない

猫がこっちに近づいてきた
しっぽを綺麗な曲線状に保ったまま
私は何も抵抗せずその猫を眺めていた

猫は私に身を寄せてきて、鳴いた
猫は時々しっぽで触れてきたり
顔を私の膝に擦りつけてきたりして
しばらくずっと、離れなかった

あまりに人に物怖じしない
落ち着いた猫を私は撫でた
毛は柔らかく
身体は重みがあり
手には体温が残った
その時、残りものの涙が頬を伝っていった

不思議で落ち着けて静かな体験だった

人への甘え方を知る猫を
私はどう理解していいのか
私はどう行動していいのか
考えが浮かばなかった
家に戻って迷い猫の情報を漁った
あの猫らしき猫は一匹も見当たらなかった

気になって公園に戻った
猫は何かを待つようにして
さっきはじめにいたところにいて、泣いていた

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