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サラリーマンの必要経費は国が決めています


個人の税金⑥

税法が定める給与所得者の必要経費


 給与所得者であれば机や椅子、仕事用のスマホやパソコンは会社が支給、あるいは貸与してくれるケースが多いでしょう。

 とはいえ、給与所得者も仕事に必要となる文房具や名刺入れを自分で購入したり、仕事用の洋服を誂えたり、スキルアップのために書籍やセミナーで勉強するなど、収入を得るための経費を支出しますね。
 そのような必要経費は所得計算において差し引かれてしかるべきです。
 
 ただ、日本中の給与所得者が文房具や洋服、書籍購入のための領収書を揃えて確定申告書を提出するとどうなるでしょうか。
 国の徴税・チェックシステムもパンクしてしまいそうです。
 そこで給与所得者には、必要経費に代わるものとして「給与所得控除」が適用されます。

 給与所得控除は「みなし必要経費」の意味を持っており、個人の事情は考慮せず、給与収入に応じて一定の金額が適用されます。

 

 

給与所得者には収入に応じて
最低55万円、最高195万円の
「みなし必要経費」が認められている



サラリーマンの「みなし必要経費」には上限あり


 給与所得控除額は、最低保障額55万円から始まり、基本的に、給与収入が増えれば控除額も増えるしくみです。
 たとえば、給与収入が500万円ならば給与所得控除額は144万円、給与収入が800万円ならば190万円という具合に、給与収入が増えるに従って控除額も増えます。

 しかし給与収入の増加に伴い、青天井に、無制限に増えるというのでは、高収入者にとって有利となってしまいます。
 そのため、給与収入が850万円を超えると195万円で頭打ちとなり、これ以上は増えないという上限額が設けられています。

 また、上記で計算される給与所得控除額の半分を超える金額の経費を支出している人には、実額による必要経費の一部を控除できる「特定支出控除」の特例も設けられています。


子育て世帯には控除額が上乗せ


 上記のとおり、給与収入が850万円を超えると給与所得控除額は195万円で頭打ちとなり、それ以上は増えません。
 その一方で、生活費が多くかかるであろう、一定の子育て、介護世帯等に対しては、税負担の軽減措置として給与所得控除額に追加して最大15万円の控除が認められています。
 ここ数年で給与所得控除額の上限額を引き下げる見直しが続いたことへの対応です。
 この上乗せ措置は、「所得金額調整控除」と呼ばれています。

 所得金額調整控除の具体的な内容は次のとおりです。
 給与収入が850万円を超える所得者が、次のいずれかに該当する場合に、給与収入(上限:1,000万円)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額(最高15万円)を給与所得の金額から控除します。
 
(1)本人が特別障害者
(2)同一生計配偶者または扶養親族が特別障害者
(3)扶養親族が年齢23歳未満  ← 井川さんのケース

 ただし、給与収入が1,000万円を超える場合は1,000万円を限度として計算するため、所得金額調整控除額は最高15万円(=(1,000万円-850万円)×10%)となります。

 

 井川さんは年収1,240万円なので本来は給与所得控除額は195万円で頭打ちとなるところ、年齢23歳未満の扶養親族がいるため所得金額調整控除15万円が適用され、その分だけ税負担が軽減されています。



共働き世帯での所得金額調整控除


 このように所得金額調整控除は給与収入850万円を超える人に対する税制優遇措置なので対象者は限られそうです。
 さらに対象者は限られますが、共働き世帯で夫と妻のそれぞれが給与収入850万円を超えるときは、夫婦いずれもが所得金額調整控除の適用を受けることができます。
 世帯内の扶養親族に対する人的控除は、共働きであっても夫婦のいずれか一方のみが適用を受けます。
 しかし所得金額調整控除は所得者本人の所得金額(儲け)の調整であり、税制改正で給与所得控除の上限額が下がってしまった不利益変更に対する補填という意味ですので、各人がそれぞれ適用を受けることができます。



⑨給与所得控除後の給与等の金額
給与収入(1,240万円)-給与所得控除額の上限(195万円)
⑩所得金額調整控除(最高15万円)
(1,000万円-850万円)×15%



子供にも103万円の壁がある


 なお、給与所得以外の所得がない人の場合は、給与所得控除の最低保障額55万円と自分自身への基礎控除48万円の合計額である103万円以下の給与収入であれば課税所得金額が0円となり、所得税は課税されず世帯主の扶養控除等の対象となります。同一生計の子供さんにアルバイト収入があっても、103万円以下であれば親の扶養に入ることができます。
 19歳から22歳までの大学に通う世代の子の場合、アルバイト収入が103万円を少しでもオーバーすると特定扶養控除63万円の適用がなくなります。

 世帯全体での税負担増を避けるためには、家族での税会議も必要ですね。


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