お焚き上げtanka 〚"僕"はいやだ!編〛
はじめに
「短歌ってあの、57577のやつでしょ」
「正直、どう読めばいいのかわからない」
という、そこのアナタ。
よってらっしゃいみてらっしゃい、
お焚き上げ短歌講座の時間ですよー。
※お焚き上げ短歌講座とは、私の過去作の短歌を掘り出して成仏させつつ、その短歌の意味を解説しながら「短歌をどう読む(鑑賞する)と楽しいのか、どう詠む(作成する)と楽しいのか」をゆるーく話していく講座です。
本日の短歌はこちら↓
・へぇ、彼にホワイトチョコをあげたんだ昨日あたしが食べちゃったあれ
僕は嫌だ!編とタイトルに記しましたが、今回は主語について簡単にお話したいなと思います。少々、癖の強いものを選んでしまいましたが…じっくりコトコト煮込んでやりましょう。
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へぇ、彼にホワイトチョコをあげたんだ昨日あたしが食べちゃったあれ
はい、一首目は、というか今回は一首しか持ってきませんでした。この歌だけでめちゃくちゃ語れるので。こちらはバレンタイン時期に、勢いで詠んだやつですね。
友達が好きな人の為に一生懸命準備したホワイトチョコ、無事に渡せたよ、と私に報告してくれたのは良いものの、「あぁ、あのチョコ?あれなら昨日食べたわ」と言う私。
つまり友達の想い人は、とっくのとうに私の腕の中でしたよ~っていう、クソシチュエーションです。修羅場。彼氏が他の女からもらったチョコ、食べる彼女って現実にいんのか?彼氏も彼氏だろとは思いますけど…もちろんフィクションです。甘々ウフフな周囲のムードに対抗して、どうしても毒のあるやつが詠みたかった。
短歌は基本的に主語は一人称(私)になることが多いです。自分の想いを詠むので、わざわざ「私」と書く必要は無いんですね。独り言というよりかは誰かに宛てて詠むので、わざわざ「あなた」を書く必要もほぼ無い。31文字という制限の中の文化なので、要らぬものは極力カットしていきます。しかし、主語を意図的に突っ込んでいる歌もあります。それが上記のようなパターン。
この、主語に着目して鑑賞する際のポイントは3つありまして、
①キャラ設定
②音
③字のバランス
です。ここを見れたら、相当美味しい。
①キャラ設定
突然ですけど、乃木坂や欅坂は「僕」、aikoは「あたし」って感じしません?
何の話だよって思う方もいるかもしれませんが、それぞれのアーティストの曲の歌詞で、よく出てくる主語の話です。まぁ戦略だとかファン層だとか、いろいろ詳しいことは置いといて、この主語たちは各アーティストのキャラクターや曲のイメージにとてもあっていますよね。
短歌でも、例えば「僕」であれば少年性や青春感が香りますし、「俺」であれば少々の強引性や男っぽさが出ます。このように主語で、その歌のキャラ設定やイメージを支えるんですね。
上記のホワイトチョコ短歌であれば、「私」よりも「あたし」にした方が公共施設感(文章の丁寧さ)がいい意味で薄まって、なおかつ"theオンナ"という感じで、ピッタリでございます。
②音(オン)
この音というのは短歌では結構重要で、言葉の音でその歌のイメージや温度を豊かにすることが出来ます。例えば「ポプテピピック」とか「ポムポムプリン」とかパ行が多い単語って何だか元気で可愛いイメージがありますよね。歌の中にまんべんなくパ行の音を突っ込むと、歌全体がフレッシュでパワフルな印象になります。
そんな感じで、ホワイトチョコ短歌には
へぇ、彼にホワイトチョコをあげたんだ昨日あたしが食べちゃったあれ
「あげたんだ昨日あたしが食べちゃったあれ」という風に後半に"あ"の音を入れまくりました。ア行というのは、他の行にくらべて(カ行やサ行)柔らかい音ですよね。その上この短歌の"あ"はすべて低い音(声に出して読んでみたらわかりやすい)。
柔らかさと、低さ、優しさを表すためにここでは「あたし」を選びました。前半にはカ行(彼とチョコ)を突っ込んで刺々しさ、そして後半にア行を突っ込んで優しさ。友達をいったんカ行でぶっ刺してから、ア行で優しく撫でながらのエグイことを言う。そういう歌です。
③字のバランス
ひらがなや漢字か、それともカタカナかという話です。上記の①と②のポイントの方が大事なんですけど、結局これが最終的に大切だったりします。
へぇ、彼にホワイトチョコをあげたんだ昨日私が食べちゃったあれ
すごーーーく細かい話なんですけども、このようにしてしまうと「昨日私」と漢字が続いてしまって、とても読みにくいんです。
「昨日」を「きのう」とわざわざ書く意味はないし…「わたし」でもいいっちゃいいんだけど…と悩んだ挙句、①と②のポイントを踏まえて「あたし」に落ち着きました。
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どうでしたでしょうか。短歌は、主語だけでもこんな感じで色々と奥が深いです。
だんだん短歌を読み慣れてくると、あーなんでここ「君」にしちゃったの?「あなた」にしたほうが絶対もっといいのに…、とか通な発見があって、より楽しめるかもしれません。
ちなみに、私は詠むときは「私」と「貴方」を多用しますが、読むときは「あたし」と「君」が好きです。「僕」は嫌です、個人的に。
それでは。
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