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お焚き上げtanka 〚短歌の"よみかた"〛

はじめに

「短歌ってあの、57577のやつでしょ」
「正直、どう読めばいいのかわからない」
という、そこのアナタ。
よってらっしゃいみてらっしゃい、
お焚き上げ短歌講座の時間ですよー。

※お焚き上げ短歌講座とは、私の過去作の短歌を掘り出して成仏させつつ、その短歌の意味を解説しながら「短歌をどう読む(鑑賞する)と楽しいのか、どう詠む(作成する)と楽しいのか」をゆるーく話していく講座です。

本日のラインナップはこの三首(短歌は一首、二首と数えます)↓

・君が寝てまださよならは言えなくて午前三時のサービスエリア
・背伸びしてヒールの高い靴を履く それでは、転びます 抱きしめて
・平成が終わるだなんだ騒ぐ日に電話帳から貴方を消した

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それではまず一首目の短歌、

君が寝てまださよならは言えなくて午前三時のサービスエリア

こちらの歌は 君が寝て/まださよならは/言えなくて/午前三時の/サービスエリア という区切り方で57577になっています。

なんで区切るところに(空白)がないんだよ、と不思議に思う方もいると思いますが、基本的に短歌はつなげて書きます(中学校の教科書などの短歌がぶつぶつ区切られているのは、たぶん57577をわかりやすいようにするため)。

この歌は、主人公(私)が恋人(君)に別れを告げようかどうかを考えているシーンですね。サービスエリアに停めた車中で君が寝てしまい、君が寝てしまったから物理的に「さよなら」が言えないのか、それとも君の寝顔を眺めているうちに「さよなら」を言い出す気持ちに迷いがではじめたのか。エモエモのエモですね。私は後者の意味で詠みましたが、皆さんは好きなように捉えて自由に読んでください。

この歌のポイントは「午前三時の」ですね、ここです。時間を明確に提示する、というのは短歌の大切な技法のひとつだと思います。

例えばここを「真夜中の」に変えてみると、まぁ時間帯は同じですが、歌全体が少しぼんやりした印象になります。

逆に「午前十時の」に変えてみると、え、なんで君はそんな時間にサービスエリアで寝てんの?起きて?という感じの、よくわからん歌になってしまいます。

「午前三時のサービスエリア」と提示することによって、暗くて人気(ひとけ)の少ないサービスエリア、一日中ドライブをして疲れて寝てしまった君、そんな君と二人きりの夜、私は本当はさよならと言いたいのに…というリアリティ(現実味)が出ます。

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続いては、

背伸びしてヒールの高い靴を履く それでは、転びます 抱きしめて

え、区切られてる(空白ある)じゃん…!と思った方、ナイスご指摘でございます。

先ほど、短歌は区切らずにつなげて書くものだと説明しましたが、実は例外もございまして、この歌は意図的に空白を入れております。

なぜ空白を入れたのでしょう…みなさん考えてみてください…ちっちっちっちっちっちっち…

…そう、正解は距離感と時間の経過ですね。この歌は、ヒールを履いてわざとズッコケてあなたの胸にダイブしようと思ってるから、そのときは必ず抱きしめてね(テヘ)、という初々しい小悪魔な女の子の歌(実際そんな子いたら相当ヤバいけれど短歌なので可)です。

例えば、空白を無くして「背伸びしてヒールの高い靴を履くそれでは転びます抱きしめて」に変えてみると「よぉしヒール履いたぞ!そぉれ転ぶぞ!転んじゃうぞ!走ってくからな!今すぐ抱きしめろよ!」という、当たり屋のような勢いとスピード感がでてしまいます。これもこれでちょっと面白いけれど。

また「それでは、転びます (すっごい長い空白) 抱きしめて」だと、たぶんもう転んでしまった後に抱き上げてくれ、助けてくれ、というただの救助の歌になってしまいます。それもちょっと面白いけれど。

そう考えると、今日ヒールを履いてきたの私…転んじゃうよ…抱きしめてね、くらいの距離感と時間の経過が一番、読む人にとってスムーズだと思います。

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最後の一首はこちら、

平成が終わるだなんだ騒ぐ日に電話帳から貴方を消した

この歌はノンフィクションなのですけれども(フィクションでもノンフィクションでも、ごっちゃでもいいんです、短歌なので)意味は、そのままですね。昨年の、平成から令和へと時代が移り変わる瞬間に詠んだ歌です。

こちらの歌のポイントは「平成」「電話帳」の組み合わせ方ですね。

例えば「電話帳」を「LINE」に変えてみると、貴方と距離を置きたいと思っている主人公の気持ちは十分に伝わりますが、小さな喧嘩をしていただけで仲直りをしたらまたすぐにLINEをつなげるかもしれないというような、いい意味での軽さがでます。

ただLINEと比べて「電話帳」は、どちらかといえば最近はあまり使用しない、"平成の遺産"っぽいポジションですよね。大切な人(電話をする必要のある人)の番号しか電話帳には基本的に入れませんし。

平成と、その時代に愛した貴方の電話番号と、貴方とを、全部この瞬間に私の中から消してしまうんだ。という今しか詠えない特別感と、いい意味での言葉の意味の重さ、を表現したかったんです。伝わっているといいな。

その時代を象徴するような言葉を一つ入れるだけで、短歌は鮮やかになります。ルーズソックス、とか、たまごっち、とかだと過去を思い返すようなノスタルジックな雰囲気が出ますし、iPhone SE、とか、zoom、とかだと現代、もしくは近未来的な雰囲気が出ます。イマドキの単語を無理矢理突っ込む必要は無いと思いますが、自身の生きる今を写真に収めるような感覚で短歌を詠むのも楽しいと思います。

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おわりに

どうでしたか、
「へぇー、短歌ってこうやって読むのか」「ちょっと詠んでみようかな」「ていうか、あんたの作る短歌いいね」と少しでも思っていただけたなら、この三首の短歌、お焚き上げ大成功です。

他のあの有名な短歌の読み方も解説してよ、とか、もっとおセクシーな短歌も解説してよ(私の詠む短歌のメインは"性愛"ですので、どんとこい)、とかご要望がありましたら是非。たぶん無くてもまたお焚き上げします、私が楽しいので。

では。







 

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