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夏の思い出盛り合わせ、RSR2024

「お前にライジングは無理だよ」
 20代前半、当時付き合っていた恋人にそう言われたのをいまもよく覚えている。
 6歳上だった彼はライブが好きで、モッシュやダイブは当たり前。対してわたしは田舎生まれ故ライブハウスというものに行ったことがなく、札幌に住み始めてようやく好きなアーティストのコンサートに行けるようになった初心者中の初心者でした。
 8月のお盆は毎年実家に帰省していたわたしと、仕事でイベントスタッフをしていた彼。8月のお盆休みは、わたしが帰省している間に彼が毎年北海道石狩市で開催される『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で仕事をし、お土産にスタッフジャンパーをプレゼントしてくれました。
 一緒にライジングサンに行ってみたいな。憧れを口にしたわたしに対して、彼が返した言葉が冒頭の一言。
 その後、彼とお別れしても、何年も何年も「お前には無理だよ」の言葉がひっかかって、自分には無理だと思っていつの間にか30代になっていました。
 ちなみに、彼と別れたきっかけもまたとあるアーティストのライブツアーがきっかけだったのだけど、それはまた別の話。

 2024年、30代も半ばを迎えたわたしは3度目のRISING SUN ROCK FESTIVAL(以下、RSR)に参加していました。
 人生で一度はRSRに行ってみたいと口にしたところ、フェス好きの作家仲間たちとつながり、初参加で楽しさに目覚めたわたしは毎年8月を楽しみにするようになっていたのでした。
 8月のお盆時期、金曜・土曜に開催されるRSR。会場のエリアでテントを張り、そこでキャンプしながら参加する人も多く、土曜日は夜通しライブがあり夜明けを迎える――たくさんのアーティストが各々の会場でライブをし、飲食店のブースでグルメに舌鼓を打ったり各自持ち込みのBBQをしたり、夜には花火も打ちあがる、ひと夏を二日間に凝縮したような大人の夏休み。
 もちろん昼間からお酒を飲んでも罪悪感なんてありません。
 タイムテーブルと各会場の移動時間を考えながら、会場にたどり着けなくても歌声を聴けたアーティストはこんな感じ。

 8/16(金)
・奇妙礼太郎BAND
・森山直太朗
・緑黄色社会
・Vaundy
・フジファブリック
 8/17(土)
・スガシカオ with FUYU
・ゴスペラーズ
・Saucy Dog
・スピッツ
・フレデリック
・東京スカパラダイスオーケストラ
・奥田民生
・クリープハイプ

 ほかにもALIやsumika、LiSA、木村カエラや菅田将暉やWEEKEND LOVERS2024のセッションなど見に行きたかったけど、タイムテーブルの重なりや体力的な問題もあり泣く泣く諦めたステージも多かったです。
 それでもこうやって書きだすとたくさん行ったな……
 ひとつひとつ感想を書くと猛烈な長さになってしまうので割愛。ちなみにわたしの際推しはフレデリックで、一昨年はじめてのRSRで心臓を撃ち抜かれてから大ファンになり、今回のステージで殿堂入り。「50分一本勝負」で気力も体力もすべて使い果たしたのでした。
 ステージでライブに熱狂する時間もあれば、持参したポメラでせっせと原稿を書く時間もあり。夏のさわやかな風に吹かれながらの読書も執筆も映画鑑賞も、どれもが『時間の贅沢』でした。
 3度目の参加となると思い出も増え、去年の今頃はこんなことをしていたなとか、最初の年はひたすら楽しいを連呼していたなとか、いろいろ感慨深くもなり。夜、テントでまどろみながらいろんなことを考えていました。
 35歳、これからの人生どう歩んでいこうか――考えをまとめるために文字に起こしたかったけど、疲れてすとんと眠ってしまったのでした。

 今年のRSRの大トリはクリープハイプ。
 入江喜和さんの『たそがれたかこ』がきっかけで知ったアーティスト。知っている曲もあるけれどライブに行ったことはなく、今回の大トリで聞きに行くと決めていたのですが、
 ライブで心臓を撃ち抜かれたのはフレデリック以来。そう。まるで、恋。
 執筆中のBGMとしていろんなアーティストの音楽を聴きますが、それはあくまでも音楽自体を楽しんでいて、個々のパーソナリティーを知るほどのめりこむアーティストって、実は数えるほどしかいなかったのです。
 MCでRSRの大トリをつとめることへの気持ち。台風の影響はなかったものの、飛行機トラブルで到着が遅れたりキャンセルになったアーティストもいたり。そしてバンドを始めた時のことを話してくれたり。
 バンドを始めた時、漫画や映画のように奇跡が起きることがあると思ってた。でも、そんなこと全然なくて、はじめてRSRでSUNSTAGEに立った時は空気に吞まれて全然だめだった。奇跡なんて全然起きないじゃんと思って、いつしか奇跡は起きないものだと思うようになったけど、ステージの前にいる観客たちは奇跡を見たような目でこちらを見ているーー
 なんて、素敵な表現をする人なのかと。
 ボーカルで作詞作曲を担当している尾崎世界観。発表する作品が芥川賞にノミネートされる多彩なアーティスト。昨年もソロでRSRに参加して、そのステージの前を歩いていた時間もあるのです。
 この人が、どんな文章を書くのか、どんな表現をするのか、知りたい。
 そこからもう、物書きの端くれとして、表現者の魂に火が付いたのです。
 これからの人生をどう歩むか。英語翻訳など発売されているけど、新作は出せていない。でも小説は書き続けたいし、noteや文学フリマで作品を発表する機会はあるけど、できることならまた自分の作品を一冊の本として世に出せたら。
 今までは、小説を書く時間を確保するために、会社員として生活費を稼いでいた。会社員の仕事は小説にも文章にも表現にも関係なくて、割り切った世界として生きようと思っていた。これからもずっと、そんな人生を選んでいくのかと思っていた。
 でも、できることならもう少しだけ、文章や表現の世界に関わる時間を増やせたら――
 様々なアーティストのライブを観た二日間、その気持ちが強くなったように思います。
 今の自分にできること、これからのためにできること、それを探しながら人生を歩んでいきたい。長らく考えていたことを、ようやく整理できたようです。
 もちろん、小説はずっと書き続けるのが大前提。作品の幅を広げて、もっと文章の勉強をして、新しい世界に怯まず挑んでいけたらと思います。

 来年のRSRは8月15日・16日の開催。その時の自分は何をしているのか、どんなことを考えているのか。一年後の自分が読み返す日のことを思いながら、この記事を締めくくります。

 RSR2024に参加された皆様、お疲れさまでした!


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