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長くても飽きずに最後まで読める文章の条件 ~アプリケーションデザインの話も少し~

これはフェンリル デザインとテクノロジー Advent Calendar2024 1日目の記事です。

拘束時間の長い「文章」というコンテンツを最後まで飽きずに読んでもらうには

近年「スマホで動画を見る」という行為は、これ以上ないほど手軽で、コスパのいい情報消費メディア形態となりました。そんな現代において、文章を読むという行為をしようと思うと、腰が重くなってしまった人は多いでしょう。
文章を読むことは時間がかかります。さらに文章を読むことを決めたらその行為に集中しなくてはいけません。数十秒で完結し、作業をしながらでも楽しめる動画の方が、視聴までのハードルは格段に低いのは、もはや動かしようのない事実です。
それは裏を返せば、文章で何かを表現し、発信しようと思った時、読んでもらう工夫を凝らさないと、なかなか手をつけてもらえないことを意味します。

動画というメディアが世の中に豊富に存在する中で、「この文章を読んでみよう」と思わせ、「最後まで読んでもらう」にはどうすればいいでしょうか?

「この文章を読んでみよう」と思わせること、つまるところ宣伝の技術については、数多くのノウハウがあると思うので、この記事では割愛します。
簡単にまとめれば、どのような内容が書かれているかを端的に伝えることができれば、読んでみようと思わせることができるでしょう。ChatGPTなどのAIの力を借りやすい部分かもしれません。内容の要約に、それらは一役買ってくれるでしょう。

それでは、「最後まで読んでもらう」にはどうすればいいでしょうか? 言い方を変えれば、最後まで飽きずに、面白く読める文章を書くには、どのような点に工夫をすればいいのでしょうか? 
最後まで読めてしまえる文章の条件が分かれば、きっとその疑問は解決できるでしょう。この記事では、その条件を明らかにします。

なお、文章、と一口に言ってもいろいろな形態がありますが、対象とする文章は、このnoteの記事のように、何かしらの知識をまとめて伝えたり、自分の考えを発信するようなものにいったん例を絞りたいと思います。

さて、本題です。最後まで読めてしまえる文章の条件、それは『読み手が先の展開を予想できる』ことです。


読み手が先の展開を予想できる文章とは?

読み手が先の展開を予想できるような文章、と聞くと、退屈でつまらない文章のように思えます。確かに、次に何が起こるかを完全に予想でき、その通りに展開される文章であれば、ほぼ面白みはないでしょう。
ここでいう展開とは、次に具体的に何が記されるか、という意味ではなく、次に何が「起こりそうか」という、可能性の意味として捉えてください。読んでいると、次はこんな展開に「なりそう」だな、と思わせ続ける文章こそが、『先の展開を予想できる文章』です。話の流れを予測できる文章、と言い換えてもいいかもしれません。
こんな展開になりそうだ、と思わせ続ける文章は、読み手を飽きさせません。だから、最後まで読めてしまえるのです。

具体例を挙げましょう。
「先の展開の予想のしやすさ」が巧みな作品に、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』があります。例として挙げるのが文章ではなく映像作品、というのも不思議な話ですが、2時間という長尺のストーリーの中で、「話の展開を予想できる」を、まさしくワンカットで体現しているシーンがあるので紹介します。

映画は、主人公の炭治郎が、人を食う鬼を退治するために、その鬼が潜む蒸気機関車に乗り込むところから、物語が始まります。夜、走り続ける蒸気機関車の中で、鬼の罠を潜り抜けた炭治郎は、列車の屋根に登り、先頭に向かって目を凝らす。その先には果たして、この列車に潜んでいた鬼が立っていた。炭治郎は刀を抜き、対峙する――映画中盤に、このようなシーンがあります。

図1 鬼滅の刃無限列車編より、中盤ワンカットの再現図

このワンカットは「炭治郎は、先にいる悪い鬼の元にたどり着き、倒すのだろう」という展開が仄めかされています。
列車の屋根は細長く、一本道で障害はありません。また、鬼は首を落とせば退治できる、という設定もあるため、鬼の元にたどり着きさえすれば、あとは一撃必殺です。つまり、現在地とゴールが明確で、その間はシンプルな一本道を前進するだけ、というのが一目で分かります。
まさしく展開を予想できるワンカットです。ところが「どうやってゴールにたどり着くのか?(鬼の元にたどり着くのか)」というところまでは予想できません。
ゴールと、そこまでの道筋は明らかなのに、方法は分からない。先の展開をある程度予想できるからこそ、物語に惹きつけられるのです(*1)。

これは文章にも応用できます。つまり、「ゴールを暗示させ、その方法を後から種明かししていく」構造にすれば、自然と先の展開を予想しつつ、飽きずに最後まで読める文章にできるのです。
ここで注意しなくてはいけないのは、この「ゴール」は全体の結論ではない、という点です。ゴールとはあくまで「こういう展開になりそう」の着地点です。「こういう展開になりそう」を何度も何度も繰り返し、飽きさせずに読み進めた先に、文章全体の結論(大団円)が見えてきます。
つまり、先の展開を予想できる文章とは、図式化すると次のようになります。

図2先の展開を予想できる文章の概念図

この図のように「こういう展開になりそう」が、短いセンテンスのなかで繰り返されているのが、最後まで読めてしまう文章なのです。

映像作品を例に挙げたので、文章に落とし込めばどうなるのかの具体例を示しましょう。手前みそですが、このnoteの記事を例に使います。

このnoteの記事は「最後まで読めてしまう文章とは」というタイトルにもかかわらず、冒頭は、「動画を見るより、文章を読むのはハードルが高い」という内容で始まりました。ややネガティブな論調です。
だからこそ、多くの人は「確かにその通りだが、これはきっと否定されるだろう」と、なんとなく感じとっていたのではないでしょうか? 
そして「最後まで読んでもらうにはどうすればいいでしょうか?」という一文に、「その通り。どうすればいいんだろう?」と意見を同じくし、「その答えは、ここから提示されるだろう」と、これも"なんとなく"、期待したかと思います。
読み進めると、「最後まで読める文章の条件」が提示されました。予想通り、答えはでてきましたが、その答えに納得できるかどうか判断するには、まだ根拠が足りません。「もう少し読めば、詳しい内容が展開されるだろう(――展開という言葉が出てきました)」。その後やはり予想通り、条件の内容が提示されます。
しかしそれは抽象的な内容で、少し「ん?」と思ったかもしれません。即座に「具体例を挙げます」という一文が出てきました。もう少し読めば、具体的にその内容が掴めそうだ――

このように、具体的に何が述べられるかは分からないまでも、「なんとなくこんな展開になるだろう」という状態が、先の展開を予想できる、という状態です。
話の流れを予想できるような文章は、不思議とすらすらと読み進めることができます。決して、つまらない文章にはならないのです。
そして、なんとなくそろそろ終わりそうだな、と思うようなところでオチがつくと、すっきりとした読後感を得ることができるのです。

先を予想できる文章が、最後まで読めてしまう条件になることは分かりました。
それでは、どのようにすれば、先の展開をほどよく予想でき、最後まで飽きずに読める文章にすることができるでしょうか?
そのテクニックにこそ、取り扱う内容の面白さや、語り口や言い回しといった、書き手の個性が現れるでしょう。一方で、個性の部分に頼らずに、展開の仄めかしができる方法もあります。

先を予想できる文章を書くテクニックとして、取り入れやすいものを2つ挙げます。


先の展開を予想できる文章を書く方法

1. 読み手の疑問を先取りする
「それでは、どうすればいいでしょうか?」「なぜ、こうなってしまうのでしょうか?」 「これには、違和感があります」「なにやら複雑になってきました」――疑問を先取りして、文章に混ぜ込んでおくと、読み手は共感し、疑問が解消される展開がくるのだろう、と安心します。

抽象的な話が続いた時に、「具体例を挙げましょう」と添えてから、具体的な話を展開するのも効果的です。抽象的な話は、読み手にクエスチョンを与えてしまいがちなので、「いまから具体例を挙げる」と提示されることで、これもまた安心できます。安心して、自然と読み進めることができます。

2. 「確かに - けれども」を効果的に使う
先の展開を予想できる文章は、予定調和な文章である、という意味ではありません。それまでの話の流れを乱したり、反対の内容を挟むことで「それは否定されて、元の流れに戻るのだろう」という展開を仄めかすことができます。
その展開にするために、使いやすいのが「確かに-けれども」構文です。

・Aは○○である。それは××という理由だからである。
確かに、△△という反論はあるだろう。 / 確かに、△△という問題があるかもしれない。
・けれども、■■という理由でそれは否定できる(だから、Aは○○である)。

文章の流れを、「確かに」から始まる文章で乱します。読み手は注意を引きつけられ、身構えて、そして同時に「けれども」から始まる文章で、乱れが元に戻る展開を期待します。
「AはBだ。しかし、Cという問題がある。そこでDという解決策を提示する」という構文に置き換えることもできます(そして、この「2. 確かに-けれどもを効果的に使う」はこの構文になっています)。

この構文は、今は無き「文章能力検定(現『文章読解・作成能力検定』)」にあったものです。小論文問題では、この構文で記述するように指定されていました。展開にほどよい緊張感が生まれ、収束する流れを作り、説得力を与えることができる、使いやすい構文です。


先の展開を予想できる文章にするには、いろいろな工夫が考えられますが、これら2つの方法は取り入れやすい方法だと思います。

改めて、先程の図とテクニックの例を組み合わせると、次の図のようになります。

図3 先の展開を予想できる文章の概念図+具体的な文例

なお、この手法はそのまま、説明的文章以外の媒体にも応用できます。
例えば、プレゼン用のスライド資料に適用すれば、最後まで飽きないプレゼンを行うことができるでしょう。小説に適用すれば、言わずもがなです。
プレゼンの場合は、次のスライドに進む前に、口頭で先の仄めかしをすると、聴衆の注意を引きつけることができます。小説の場合は、登場人物の台詞に直接混ぜ込むか、いかにもな出来事が起こりそうな状況にする(古ぼけたオフィスの休憩エリアで、二人の人間が鉢合わせ、缶コーヒーを飲みながら胸の内を明かす……など)と、すらすら読み進められるストーリーにできます。


まとめと、アプリケーションの話を少し

これで「先の展開を予想できる」の詳細が分かり、最後まで読んでもらえる文章にするには、どのような手法を取ればいいかが明らかになりました。
最後に、アプリケーションのUIデザイナーとして、インターフェースの話にからめてこの記事をまとめたいと思います。

ここまで紹介してきた「先の展開を予想できる」つまり「おそらくこのような展開になりそう」という状態を表すのにぴったりな、「蓋然性(がいぜんせい)」という言葉があります。
この言葉を辞書で引くと「その事柄が実際におこるか否か、真であるか否かの、確実性の度合(岩波国語辞典第八版)」とあります。「こんな展開になりそうだ」は、「蓋然性がある」と言い換えることができます。

『劇場としてのコンピュータ(*2)』という本では、この蓋然性と演劇のプロットには関係性があることが述べられています。
演劇のプロット――すなわちストーリーは、幕が開いてすぐは 〈可能性(どんなことも起こりうる)〉 に満ちています。それが、劇が進むに連れ 〈蓋然性(こんな展開になりそうだ)〉が高まり可能性は狭められていき、最終的に一つの〈必然性〉 に収束する、というのです。本ではそれをV字型モデルで表現しています。

図4 演劇のプロットのV字型モデル(『劇場としてのコンピュータ(B・ローレル著、遠山峻征訳 1992)』より作成)


このV字型モデルを引用して、前章であげた図と組み合わせると、最後まで読めてしまう文章のモデル図は、次のように表すことができます。

図5 演劇のプロットのV字型モデルに「展開の仄めかし」の繰り返しを追加した図

「劇場とコンピュータ」では、このV字型モデルを、ヒューマン=コンピュータ・アクティビティに落とし込むことができる、と述べられています。

アプリ(ケーション)を起動して、目的を達成して終了するまでを、このV字モデルに適用すると、つまりアプリを起動して目的を達成する過程には「こんな展開になりそうだ」という蓋然性の高まりがあるということになります。
それは「×ボタンを押したら画面が閉じるだろう」という表層レベルの意味合いではありません。「カレンダーアプリを使って、ミーティングの日時を決めたい。参加者の予定を全て表示させれば、空いている日時が浮き上がってくるだろう」といったように、目的を達成するために、アプリ(ケーション)がどれだけ蓋然性を提示できるか、という意味です。

先の展開を予想できる文章というのは、書き手によって蓋然性がコントロールされています。
同じことが、UIデザインにも適用できるのであれば、UIデザイナーとは、蓋然性をコントロールし、アプリケーションに落とし込む「作家」であるとも言えるのかもしれません。


(*1)映画ではその後、前進する炭治郎と、その邪魔をする鬼の対決が繰り広げられ、あるきっかけを基にとうとう鬼に迫った炭治郎が、鬼の首を斬り落とします。この作品は全体を通して、先の展開の予想できる工夫が随所に施されており、それが大人も子どもも楽しめるヒット作に繋がったと私は思います。

(*2)『劇場としてのコンピュータ(B・ローレル著、遠山峻征訳、1992年)』……9月に人間中心設計機構主催で開催されたセミナー「UIデザインプロセスの課題と対策~UIデザインをリードするための実践的アプローチ~」内で、上野学さんが引用されていた本です。このセミナーをきっかけに購入して読み始めました。正直に打ち明けると非常に難解で、読むのに苦労しています……。

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