韓国の音楽シーンを見つめてみる。ーこれまでと、これからー



この記事は、DP9アドベントカレンダーの17日目の記事です。

Designing plus 9のtamです。このイベントにあたって慌ただしく個人noteのアカウントを開設しました。あまり普段は物書きをせず、苦手感すら感じている私ですが、ちょっとチャレンジしてみるいいきっかけになればいいなと思いまして、ただいまつらつらと書き綴っております。
※以下の内容はあくまで私個人の感想・感覚の文章化であり、正確さは保証出来ません。

 さて、ここ数年K-popカルチャーを見てきた私の、最近の大きな変化として「アイドルからアーティストへ」という大きなシフトがありました。今までアイドルばかりにフォーカスしていた(きっと一般的にもKpop=アイドルという認識は根強いと思います)部分も多かったのですが、もともと親しんでいたアイドルもほぼアーティスト要素が強い方たちばかりだったこともあり、K-popカルチャーのいろんな側面に関して新しい気づきを得るきっかけとなりました。

伝統的な音楽への価値観:バラード、OST、トロット

 韓国の音楽文化について外せないのがこの3要素だと個人的に強く思います。まずは前半ふたつの要素の「バラード、OST」。韓国の大手音楽サイト「melon」が毎日更新している音楽チャートでも、BTSやBLACK PINK、aespaなどの面々と同じ、またはそれ以上にランキングを席巻しているバラード曲が多くあります。実はアイドルのような圧倒的な容姿やパフォーマンス力がなくても声一本、しっとりと歌い上げるバラード一本でキャリアを積んできている歌手の存在は、長いこと  —それこそアイドル文化が始まる前からずっと—  韓国の音楽文化の一部として根強く続く部分があります。これは今のアイドル文化にも共通していて「バラードが歌えて、バラード曲で売れるということこそが、真の国民的実力派アイドル」という感覚は(少なくとも日本よりは)非常に強いものと思われます。
 またソロやデュエットで活躍しているR&B系の歌手やバンドなども、スローテンポ系のヒット曲を必ずひとつは持っているのも特徴的でしょう。こうしたヒット曲の保有はその歌手の実力を証明しているものとして彼らの長続きする支持の秘訣ともなっている気がします。

 そしてこのバラード人気を後押ししている大きな要素としてOST(オリジナル・サウンド・トラック)というものがあります。いわゆるドラマや映画の「挿入歌」として用いられるOSTは、数々の歌手が様々な歌を歌い上げてきました。これはオープニングやエンディングに流れるものではなく、ドラマの佳境となるような印象的な場面で、そのシーンにぴったり合うような曲が挿入されます。もちろんバラードでないOSTもたくさんありますが、やはり感動的な名場面にはバラードが合わせられる確率が圧倒的に多いような気がします。ご存知の通り韓国のK-drama文化も今や世界的な人気を誇るのですが、名映画・ドラマの影には名OSTあり、と行った風にそのドラマや映画が売れれば売れるほど、OSTも、そしてそれを歌っている歌手の人気も急上昇します。音楽とは異なるジャンルと切っても切れない密接な関係があるバラードの大きな存在はもはや韓国の伝統の一部となっているのではないでしょうか。もちろん、歌手だけでなく数々の歌自慢のアイドルたちがOSTには参戦しており、「EXOのベッキョンがOST参加したドラマは絶対売れる」なんていう伝説を持つアイドルもいます。


 最後の要素である「トロット」。こちらはこぶしたっぷりに歌ういわゆる韓国版の演歌みたいなものです。実際元のルーツは演歌要素がないわけではなく戦後などはその日本的な側面から発禁を余儀なくされる時代もあったみたいです。今でも高齢者層には馴染みのある音楽なだけでなく、若いトロット歌手のリリースもヒット曲になる場合が多々あり、特に「オーパル世代」というお金を惜しまない50、60代の人々が人気を牽引しています。それだけでなくやはりアイドルが特技披露の一環でトロットを披露して話題になるなど、やはりお茶の間の音楽としてしっかり韓国音楽文化の大きな要素として未だに存在感を示しているのではないのでしょうか。最近はトロット歌手を発掘するサバイバル番組「明日はミスター・トロット」が放送され、若者からおじいちゃん、おばあちゃんまで家族全員で見ることができる番組でありながら流行りのサバイバル要素も取り入れるなど大きな話題性をよびました。この番組で優勝した임영웅(イム・ヨンウン)は音楽チャートを席巻し、アイドルばかりの毎週の音楽番組でも1位をとるなどしました。
※トロットをK-popに含めるか否かは解釈が分かれる部分でもあります。


新たな音楽ジャンルの発掘、話題化:HipHop

 毎年12月になるとmelonチャートのトップがある番組の関連曲で埋め尽くされる現象が起きます。Mnetが放送しているヒップホップサバイバル番組「Show Me The Money」。今年放送のものでシーズン10を迎えるなど今やご長寿番組化しているこの番組は、「アンダーグラウンド、メジャー問わず国内のラッパーを集め、第一線で活躍するアーティストたちがプロデューサーチームを作り、審査ののち選抜した挑戦者とタッグを組み、他のプロデューサーチムとバトルを繰り広げる」というもの。大物が挑戦する傍ら今まで全く無名のままだったアーティストが注目を浴びて絶大な支持を集めるケースもあるなど、国民的人気プロデューサーと発掘された原石たちの化学反応が毎年注目の的です(その一方で、ヒップホップ界あるあるの薬物や過去の犯罪経歴、不祥事などが放送途中に発覚して辞退、モザイク処理がかかる、ガチンコケンカ、炎上なんかも恒例です)。最初はマニア層にだけ向けて放送…という予定でしたがケーブルテレビにもかかわらず思わぬ注目を集めたのち大衆の人気を得てシリーズ化し、かつてこの番組で優勝や準優勝した面々が大きくなって今度はプロデューサーチームに回ることも増えてきました。今や若手ヒップホッパーの登竜門ともなり、韓国の一大ヒップホップブームを巻き起こしたこの番組の功績ははかり知れません。

サバイバル番組の功績と悲哀

 ここまでの内容を見ると、みなさんお気づきになると思います。「サバイバル番組、多くね?」そうなんです。アイドルでは王道の「プデュ」シリーズ*1やTWICEを輩出した「Sixteen」などデビュー前から一定の注目と固定ファンを集めるために大手中小とわず非常に幾つものサバイバル番組が制作されてきました。これはアイドルだけでなく先述のようにいろんなジャンルで多々制作されています。今まで本当にうんともすんとも言わなかった一般の人たちが瞬く間にその実力やスター性を認められ栄光を掴みとる夢のような側面もある反面、ある特定の参加者をプッシュするため細かな編集を行い他の参加者を悪者のように貶める「悪魔の編集」などその物議を醸す点は多々あります。実際全く違うシチュエーションの発言を何度も切りはりされて誹謗中傷の渦中に追いやられた参加者の例も少なくなく、特に最近はまだ14、5歳あたりの非常に若い子たちもクローズアップされ容赦なく叩かれる姿もあります。またデビュー前のサバイバル番組の実施に大きな投資をしたもののその番組自体が全く注目を浴びずに上位のメンバーでデビューし、人気を得ないまま事務所の資金不足で早期解散になるという実例もあります。TWICEも別にオーディション時から人気を集めていたわけではなくデビュー当時はそこそこで、売れたのはデビュー後の楽曲が巻き起こしたブームからでした。

 このサバイバル番組を経て最近最も韓国でホットなのは実は「ダンサー」です。今までアイドルのダンス振り付けやアーティストたちのバックダンサーをこなしてきた女性ダンサーらがクルーを組み対決し合う「Street Woman Fighter」。一見音楽シーンでは注目を浴びてこなかった「ダンサー」ですが、数々の人気アーティストたちのダンスパフォーマンスを見ると後ろで踊っている彼女たちの姿が確認できます。彼女たちが番組の主人公となり熾烈なバトルを行いながらもお互いを尊重し合う姿は大きな感動を呼び、特に各クルーのダンスリーダーたちの振り付け・パフォーマンスによる「Hey Mama」のダンスビデオは社会現象を巻き起こしました。これにより今まで裏方扱いされてきたダンサーたちの音楽シーンへの大きな貢献が大衆の目にはじめてはっきりとうつり、スポットライトを浴びたことはこの番組制作に大きな意味を持つでしょう。今後しばらくもこの熱気は続きそうです。

 ここまでとめどなく延々と述べてきましたが、ここでは述べ切れなかったR&B系の歌手やバンドアーティスト、そしてセルフプロデュース系アイドルなど韓国の音楽シーンはさらに多様化し、もはやその全貌を把握するのは困難なほどです。このしのぎを削るような過酷な業界が私たちに見せてくれる奥深く多彩な世界の進化はまだまだ尽きません。

*1 Produce 101シリーズ。101人(または96人)の練習生から11人(または12人)を国民投票で選び期間限定グループとしてデビューさせる番組。IZ*ONEなどを輩出したが、運営側の投票操作によって最新シリーズで結成されたグループは解散を余儀なくされ、プロヂューサーには実刑判決が言い渡された。

以下は各セクションに関連する曲を貼っておきます。大量なので面白そうなのがあればちょろっと聴いてみてください。

・バラードまとめ

兄弟デュオ AKMU

ソロ歌手 폴킴(ポール・キム)

バンド DAY6

男性アイドルグループ BTOB

女性アイドルグループ MAMAMOO

・OST

ドラマ「トッケビ」のOST(Crush - Beautiful、Ailee - 첫눈처럼 너에게 가갰다)

ドラマ「麗」のOST(チェン, ベッキョン, シウミン (EXO) - 너를 위해)

・トロット曲

홍진영(ホン・ジニョン)

임영웅(イム・ヨンウン)

・ヒップホップ曲(セレクトは私の完全に好みです)

Show Me The Money 6 (우원재 (ウ・ウォンジェ- 시차(We Are)) 

Show Me The Money 10(Mudd The Student - 불협화음 (不協和音Feat. AKMU) )

・ダンサー(Street Woman Fighter)

Hey Mama パフォーマンスビデオ


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