公務員的「中小企業経営・政策」気になるポイント(中小企業診断士勉強法)
2023年度に、AAS東京「合格アミーゴス」、タキプロで執筆した記事を一部再編集して、ときどきアーカイブ掲載します。
中小企業診断士試験に合格した2023年。
4月になって、希望どおり商工振興課に異動しました。
地域の中小企業支援にあたる商工振興課では、おかげさまで、実務を通して「あ、これがあの!」と試験勉強をちょくちょくたどる日々です。
実務では、物価高騰・エネルギー価格高騰に対する地域の中小企業支援策の推進から始まりました。国から政策的に地方公共団体に配分された交付金(地方創生臨時交付金の「重点交付金」枠)を活用し、地域の実情に合わせた支援策をそれぞれの自治体が推進するのです。
国からの交付金の枠内で、中小企業への直接的な支援策はもとより、消費喚起策、住民生活支援等、様々な施策を展開し、相乗効果を図ります。
皆さんも、診断士になった暁には、ぜひ国の補助金メニューばかりでなく、地方公共団体独自の中小企業支援策にも目を通していただきたいです。
さて今日は、そんな私の「中小企業経営・中小企業政策の勉強法」についてお伝えします。
■ モチベーションの源泉!「中小企業基本法」
中小企業診断士が活躍するための基本的な「法」という点では、まず「中小企業基本法」がありますね。国の補助金など、支援対象となる「中小企業」の範囲は、この法ばかりでなく「中小企業等経営強化法」などで規定されている例もあります。
とは言え、基本中の基本はやはり「中小企業基本法」。
これは、30条足らずですし、ぜひご一読をお勧めします。
第2条 用語の定義(中小企業者、小規模企業者)※理解必須
第3条 基本理念(中小企業の役割・使命と中小企業振興の目的)
役割(特色ある事業活動、多様な就業機会提供、個人が事業を行う機会を提供)
使命(新産業創出、就業機会増進、競争促進、地域経済・日本経済活性化)
振興の目的(経営革新、創業促進、経営基盤強化、変化への適応)→成長促進第5条 基本方針(中小企業支援の施策の方向性)
経営革新+創業促進+創造的事業の促進
経営資源確保の円滑化+取引適正化 →経営基盤強化
経営安定化+事業転換円滑化 →変化への適応円滑化
資金供給円滑化+自己資本充実
つまり中小企業診断士は、地域で独創的な事業を展開し、地域の産業や雇用を創出している中小企業を支援するために、「第5条」に記載されたような国(や自治体)の支援施策のお手伝いを担うプロコンということになります。
どうでしょうか、ちょっと面倒くさい科目ではあるけれど「中小企業経営・中小企業政策」は、診断士にとって常に小脇に抱えていたいバイブル(笑)、重要科目なのです!
第5条の施策に対応する具体的な支援策(補助金メニューや計画づくりや助言活動や伴走支援などなど)に精通していることはもちろん、全てを1人でサポートすることには限界がありますから、それぞれの専門家とネットワークを築き、おつなぎする、ということも重要な役割になりますね。
あらためて、日本の企業の99.7%を占める「中小企業」
ここを活性化することが、地域を、そして日本を活性化することになる、という重要な役割です。
地域の中小企業が活性化され、雇用が守られるということは、従業員側からすると能力を発揮できる場があり、日常の暮らしを支えることにつながります。そしてそれは新たな消費を生み出します。
ここでもう1回、中小企業基本法第6条「地方公共団体の責務」。
地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
ぜひ、診断士になられた暁には、企業さんが立地する「自治体独自の支援策」にもお目通しを!!
■「中小企業白書」は、グラフの説明文で理解する
中小企業白書に至っては、細かな表やグラフの羅列をそのまんま覚えることには限界がありますよね。
ここで試しに「令和4年度(2022年度)試験」の出題に対し、一つ前の年の「中小企業白書(2021年度版)」を見てみると・・・
【令和4年度 1次試験 第5問】
従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)には、企業規模間での格差の存在が指摘される・・・(中略)・・・
労働生産性の格差を次のa~c(a:小売業、b:宿泊業・飲食サービス業、c:製造業)について見た場合、大きいものから小さいものへと並べた組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
なお、ここで労働生産性の格差は、中小企業に対する大企業の労働生産性(中央値)の倍率で見るものとする(以下略)。
これに対し、
【中小企業白書(2021年度版)】I-136ページ以降
(第1-2-13図)企業規模別・業種別の労働生産性
(第1-2-14図)業種別に見た、労働生産性の規模間格差(差分)
(第1-2-15図)業種別に見た、労働生産性の規模間格差(倍率)とあり、
上記で言うと、(第1-2-15図)がインプットされていれば(笑)、解答できることが分かります。
けれども、中小企業白書に掲載されている膨大な図表を全て覚えることは現実的じゃありません。
では、第5問は一体何を覚えていたら解けたかというと・・・
(第1-2-15図)の説明本文として、
「『小売業』や『生活関連サービス業、娯楽業』では、倍率で見ても企業規模間格差が低い」を覚えていれば、「a:小売業」が最も小さいと並べられている選択肢が1つしかないため、解答できます。
そんなことを踏まえて、中小企業白書の勉強法は以下を提案します!
❶ 白書の「節(トピックス出し)」ごとに、本文の要約ポイントを書き出す。
❷ 要約ポイントをグラフでたどりながら、目で確認していく。
❸ この科目だけは、問題集は「最新版(令和5年度試験対策版)」で!
例えば「2021年度白書」でおさらいすると
●第1部:令和2年度(2020年度)の中小企業の動向 として
●第2節:中小企業・小規模事業者の労働生産性 というトピ出しがあるので、このトピについては、本文を参照してざっと要約ポイントを以下とします。
・中小企業の労働生産性は製造業、非製造業ともに「横ばい」
・業種にかかわらず、「企業規模が大きくなるに連れて労働生産性が高くなる」
・「小売業」や「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」は大企業も含めて業種全体での労働生産性(差分)が低く、個別企業の努力で労働生産性を向上させることは難しい(→支援施策が必要かも)
・なかでも「小売業」や「生活関連サービス業、娯楽業」では、倍率で見ても企業規模間格差が低い
これだけ。要約したら、グラフを「絵で見て」辿っていきましょう。
これによって、白書6ページ分、図表6つ分のポイントは終了です。
■「中小企業白書(2022年度版)」から
令和5年度試験対策としての前年度(2022年度:令和4年度)白書から(データとしては2021年度あたりまで?)、地方公務員の現場から気になる点をいくつか挙げてみます。
※2023年に書いた記事ですので、令和5年度試験対策となっています。あしからず。でも行政の中小企業支援現場の参考としてください。
●中小企業・小規模事業者の動向
2021年度の業況が、コロナ初年度の2020年度と比べた場合、コロナ前の2019年度と比べた場合、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業は両方落ち込み気味(旅行支援や買い物クーポン、緊急事態宣言の緩和等により上がる時もある=政策に左右される)、情報通信業はどちらも向上傾向など。
→宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業など、コロナによる人流抑制の影響を大きく受けた業種において、旅行支援や買い物支援などの消費喚起策が一時的な支援となった事実も垣間見られる一方、抜本的な改善にまで至っていない。
→業況の回復まで、「政策として手を入れる」ことについて、是非はともかく議論に上がるだろうことは容易に想像できます。
●原油・原材料価格の高騰
エネルギー価格、原材料価格の高騰分を、価格転嫁できているか?という課題は、白書でも然り、また商工会連合会による調査もあります。白書では7割近くの企業が「価格転嫁できていない」と回答しており、9割近くの企業が「価格転嫁は困難・やや困難」と回答しています。
→ここでちょっと気になったのが、先般のニュース。
運輸事業者が「送料無料表示」はやめてほしい・・・という訴えをしているニュースを拝見しました。
「いやいや、商品価格に入れて安く見せてるだけやん」という意見もある一方、正当な価格を見せることで、業種や仕事の価値を伝えていくことの重要性も感じたところです。
例えば片方でフェアトレードを支持し、もう片方で「送料無料」を志向していていいのかな、というような課題を感じました。
→また、全国的な旅行支援や買い物支援の一方、皆さんがお住まいの地域でもコロナ対策下でなされていた消費喚起策が、再び「物価高騰支援策」としてなされていませんか?例えばpaypay還元キャンペーンなど。私が住む滋賀県では、たびたび「しが割」という消費喚起策がなされたところです。
●労働生産性と分配
さて物価が上がれば、賃金も上がっていかないと、実質賃金は低下になってしまいます。これについては、こういう報道がありましたね→「(実質賃金)物価上昇で13ヶ月連続マイナス」
こんなことから、政府でも物価上昇に見合う「構造的賃上げ」が言われており、先の「骨太の方針」にも書き込まれたところ。
ちなみに、最低賃金の上げ幅は2022年度は過去最高額となりました(白書参照)。
また白書であらためて確認したいのは、日本の労働生産性の低さっ💦!
これは試験対策でなくても、しっかり認識しておきましょう。
ちなみに、企業規模が大きいほど労働生産性は高いですが、労働分配率は規模が小さいほど高くなっています(白書)。
→こういうところにも、支援策立案のヒントがありそうです。
企業活動を支援することで生産性向上を促進し、かつ向上した分、職員への賃金還元を促進する。
→例えば、生産性向上と従業員への分配、双方を促進する国の支援策に、「ものづくり補助金」があります。その要件は、
①付加価値額を年率平均3%以上増加させること
②給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させること
③事業場内最低賃金を毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準とすること となっています。
中小企業診断士が計画策定を支援するケースも多いと思われますが、診断士さんの中には「毎年●%超の人件費増を義務化させること自体が、その企業の経営自体に枷となるケースもあり、戦略と戦術の違いを認識した支援が必要」と説かれている方もいらっしゃいます。
今はまだ、試験勉強として知識を増やしていく段階ではありますが、診断士になれたなら「戦術を駆使できる支援者ということばかりでなく、そもそもの課題設定のお手伝いを忘れず、中小企業の良き伴走者になること」という本来の思いを意識したいですね。
あ、そうそう・・・皆さん、今年初めて公表された、「女性版骨太の方針2023」はご覧になられましたか?
事業再構築補助金やIT導入補助金、ものづくり補助金等の中小企業向け補助金をはじめとして、女性活躍や子育て支援に取り組む企業を採択審査において加点するといった優遇措置を、補助目的も鑑みつつ、他の補助金にも広げていく。
とのことです。
■おわりに
診断士試験では、白書の膨大な量の前に立ちくらみがし、毎年制度も変わるので「過去問」がちょっと通用しないのが「中小企業経営・中小企業政策」です。それゆえ苦手科目・・・というか、「とりつくシマもない」科目と考えられている方も多いのではないでしょうか。
でも、実際に診断士の現場で、企業さんにあった支援策を提案したり、はたまた自治体と連携して地域の中小企業振興のために新たな施策を考えていく・・・というところで最も診断士に近い、「小脇に抱えておきたいバイブル」たる科目が、やはり「中小企業経営・中小企業政策」ではないでしょうか?
今回、中小企業基本法でも、国ができない「地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」地方自治体職員として、この科目の面白さが伝わればな、という思いで書かせていただきました。
みなさんの、試験でのご健闘をお祈りします!
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