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推理における自明性の崩壊について。並びに、人の意思決定プロセスに関する知見。

お久しぶりです。つい最近「人狼ゲームにおける納得感の落とし穴」という記事を読んで考えたことを書き綴ります。

人狼ゲームでは相手の言動にどういった意図があるのか読み合う以上、自明性はつねに崩壊していると言えます。
つまり、あなたがどのように解釈しようと相手に言動の意図を説明されるまで、絶対にただしい解釈とは言えないということです。これを理解しておくのは推理する上で重要なことだと思います。

ある程度熟達したプレイヤーからすれば、「何を当たり前のことを言ってんねん」と思われるかもしれませんが、つい先日、私が久しぶりに参加した“初心者”村を例を挙げて説明してみますね。

レギュレーションは[狼狼狂占霊狩村村村]とします。利用者数が多い人狼ジャッジメントというアプリケーションで、いちばん普及しているレギュレーションだと思われます。

一日目は白進行、3-1陣形なので占い師Aを処刑します。二日目は死体なし、占い結果は両白、霊能結果は黒でした。

さて、二日目以降は誰を吊るすべきでしょうか?
――そうですね、あなたがこのレギュレーションに慣れているなら「灰(片白)吊り」と答えるでしょう。実際、この村で取られた選択は灰吊りでした。

勘のいい方はこの語りで気づくでしょうね。

この村の占い内訳は真狼狼だったのです。二日目の吊り先は灰吊りで間違いありませんが、その結論に至った過程はよく考える必要があります。おそらくそのパターンまで想定できる人は多くないですし、本線で考える人はもっと少ないはずです。

もしあなたが「狂人が占い騙りをすることを考えれば人狼が二人揃って占い騙りする必要はない。だから、占い騙りするのは人狼一人だけだ」と考えたならそれは合理的です。

しかし、現実としてこの村で狂人を引いた人間は、「ひとまず占いを騙ることがベターである」と考えられなかったわけですね。
また、人狼引いて萎えた一人がゲーム捨てる目的で占いを騙ったようでしたが、奇跡的に噛み合ってこの陣形を生まれました。

つまり、「他人は自分の考えるほど合理的に行動するわけではない」ということを自明のことと考えるべきだ、という教訓が得られるわけです。

一方でこのようなケースが起こりえない村――定石を理解した人たちが集まった村では、全員が合理的に行動することもあります。


ただし、定石をあえて崩した戦術を取る人もいます。具体的にいえば、占い師なのに狂人のような振る舞いをする人は、人狼に襲撃されないよう小細工している真占いの可能性もゼロではないというわけです。

このように人狼ゲームをやり込むほど、自分が考えることが全ての人にとって自明ではないことに気づくことになります。

このような状態を他のゲーム的に言い換えれば、「読み合いが発生している」「メタが回っている」と言えます。人狼ゲーム的に言えば、「推理をしている」と言えます。

そうです。推理とはそういうものなんです。

シュレディンガーの猫の思考実験のごとく蓋を開けるまで中身がわからない状態で、情報と睨めっこにしながら、理屈を捏ねくり回して人狼を探しているわけなんですね。このことを知っておくと考察により深みが増すこともあるかもしれませんね。

あるいは、「自分の考えが世界の中心だ。俺が標準で普通だ。」と言わんばかりの方がいれば、是非この記事でも読ませてください。
いい薬(毒)になるかもしれません(笑)。



さて、このままだと元記事の内容を反復しただけなので、最後に人の意思決定プロセスについて話しておきます。

米国の行動経済学者ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー(原題:Thinking fast and slow)』によれば、人間には速い思考と遅い思考の二種類があると言われています。
我々の言葉に置き換えると速い思考は「直感」、遅い思考は「熟考」と言えます。

たとえば、重い鉄1kgと重い毛糸1kgのうち、どちらのほうがより重たいと思われますか?

――そう、どちらも同じ重さです。ここで瞬時に「鉄のほうが重い」と思われた方は、速い思考を使った可能性が高いですね。(騙されなかったのであれば、あなたは遅い思考を使えた可能性が高いです。)

これが俗に言う「直感」と言われるものです。注意深く考えなくても、頭の中にパッと浮かぶもので、とにかく速い代わりに騙されやすいところが特徴です。

一方で「37×72の答えは?」と問われたとき、多くの人は答えをすぐに浮かべることができないはずです。まじめな方であれば、紙とペンを取り出して筆算でもするのではないでしょうか?

答えは2,664になります。
これが「熟考」というわけです。「人が意思決定するときに使う思考回路は、大まかに分けてこれらの二つに分かれる」というのがカーネマンの主張になります。

今回の挙げた初心者村の例において使われたのは、遅い思考(直感)だと私は考えています。

直感は多くの場合ただしいのですが、時折間違った結論を導くことがあります。直感“だけに”囚われないためには、このような人間の意思決定プロセスを理解しておくことも大事かもしれません。

自覚がなければ反省のしようがないですからね。